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志願制ヒーローたち  作者: 海月里ほとり


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 pip音が鳴り、視界の端が赤く点滅した。強調してプロップされた看板を身をかがめて避ける。見えない波を放ち、反射を察知する夜間用思考眼鏡の機能は、半蝙蝠のヒーローの能力を解析して、民間に広げた技術の応用だ。

 この機能のおかげで、俺たちは街灯が照らし漏らした不意の障害物に頭をぶつけることなく、余計なことを考えながら夜道を歩けるというわけだ。

 頭の中で突きまわしていたのは、さっきのスナッチャーの言葉だ。

「守るものがないとヒーローになんかなれないからな」

 スナッチャーの言葉を頭の中で繰り返す。眉間に皺が寄るのを感じる。スナッチャーは気にするなと言っていたけど、言葉通りの意味だとはとうてい思えなかった。あの元ヒーローは意味もなく油断して独り言をいうタイプには思えない。どうせ俺に聴かせるためにわざわざ声に出したに決まっている。

 舌打ちを一つ、誰もいない夜道に向けて放つ。スナッチャーの手のひらの上で踊らされている感覚が抜けない。それでも、あの言葉は頭にこびりついて離れない。

 ミイヤのことを考える。フーカのことも。二人はどうなんだ。誰かを守りたいと思っていたのだろうか。ミイヤはただ憧れてヒーローになりたがっていた。フーカは復讐のためだ。そりゃあ、どっちも「女の子に振り向いてほしい」なんて理由よりは立派かもしれないが、でも、別に「何かを守るため」ってわけなじゃない。

 頭を乱暴にかきむしる。スナッチャーめ。何を言いたいんだ? いや、何を言わせたいんだ?

 コチテの顔を思い返す。あの笑顔と、その目の中のギラギラした光のことを。いっそスナッチャーの言葉を直接伝えてやろうかとも思う。それとも、あの言葉なんか忘れてほったらかしてやろうかとも。

 でも、コチテのあの残念そうな顔と、スナッチャーのぽつりと言ったあの言葉が頭の中をぐるぐると回って、離れてくれない。腹立たしい。腹立たしいのに考えてしまう。

 pip音が鳴った。思考が途切れる。視界に意識を向ける。

「ん?」

 あまり見ないアラートが視界に表示されていた。矢印は背面を指している。俺は後ろに振り向こう、としたその時、何かが猛烈な勢いで足元を駆け抜けていった。

「え?」

 それは何かを搭載した獣のように見えた。でも、怪訝に思って目を凝らした時には、影はもう遥か彼方に駆けていき、姿を消していた

 慌てて夜間用思考眼鏡を操作して、今見えたものをコマ送りに巻き戻す。

「は?」

 思考眼鏡の中に見えた光景は俺をさらに混乱させた。

 それは四つ足で駆けるスナッチャーに見えた。そしてその上に搭載されているのは……スナッチャーの背中にしがみついているのは、引きつった顔をしたコチテに見えた。

「どういうことだよ」

 壊れたのだろうか。俺は思考眼鏡を外して、目を擦った。

 その時、辺りがやけに明るいのに気がついた。

 不思議に思って、顔を上げる。遠くに光が見えた。

 それは、制御されていない、荒々しい炎だった。どこかで建物が燃えているようだった。

 角を曲がる。燃えている建物が見えてくる。

「は?」 

 脚が止まる。

 思考も止まる。

 燃えているのは、俺の家だった。


【つづく】 

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