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志願制ヒーローたち  作者: 海月里ほとり


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「それで」

 俺は作業台の上をもう一度見つめた。そこには変わらずサイバネの左腕が置かれていた。さっき一目見た時からずっと気になっていたものだ。何度見ても同じだ。その力強いフォルムは間違いなくMr.ウーンズの左腕だった。

「あれは、本当にMr.ウーンズの?」

「ああ、そうだよ」

「もしかして、今作ってるのか?」

「ああ」

 父さんは目を細めて作業台の上の作品を見つめた。

「生身の腕以上に強い腕を頼むと言われていてな」

 その言葉の示す意味に、俺はようやく思い至った。

「それじゃあ、Mr.ウーンズは生きているのか?」

 俺は思わず食い掛るように父さんに尋ねた。

「ああ、もちろんだ。簡単に死ぬような人じゃないよ」

「そうか」

 その言葉を聞くと、俺の頭の中に居座っていた、あの血まみれの顔が少しだけ遠のいた。安堵が胸を満たす。

 ミイヤに教えてやらないとな、とそんな考えが頭に浮かぶ。次の手紙に書いてやろう。でもすぐに打ち消す。なんて言って伝えるつもりだ?

 実は父さんがヒーロー連盟の依頼を受けてサイバネを作っていて、それでMr.ウーンズは無事だってわかったって?

 まさか。そんなこと言えるはずはない。手紙に書くわけにもいかない。確か手紙を出すときに内容の確認を受け入れるという書類にサインをしたはずだ。

 ミイヤにも秘密にしておかないといけない。

 ミイヤに秘密を作るのは基礎学校の算数でとても見せられないような点数を取ってしまった時以来だ。

「それで、息子さん」

 俺がとりとめもないことを考えていると、父さんは俺の背中を叩いた。

「もし、興味とやる気と……時間があるなら、ここの機材の使い方を教えてやってもいいんだが」

 機材を眺めながら父さんはそう言った。それが俺をからかっているのか、遠慮しているのか俺には判断がつかなかった。だから、俺は素直にその言葉に答えることにした。

「もちろん、教えてほしいさ」

「わかったよ」

 父さんが俺を見た。その顔は笑っているように見えた。俺の肩を叩いて目を細めて言う。

「じゃあ、毎日課題が終わったらここに来なさい。その時に少しづつ教えてあげるから」

「でも、ここの機材使えるなら、学校の課題なんてなんの役にも立たないぜ」

「いいや」

 父さんは首を振った。

「ちゃんと基礎を勉強してからじゃないと、ここの機材なんかとても扱えないぞ」

 俺は思わず父さんの顔を覗き込んだ。その声は間違いなく父さんの声だったけれども、なぜだかそうとは思えなかった。それはまるで活劇に出てくる軍団の司令官のような、威厳のある声だった。

「わかったよ」

 俺はおとなしく頷いていた。

 それから課題のことを思い出してため息をついた。あの山のような課題を何とか効率よく終わらせる方法を考えなくては。


【つづく】

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