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志願制ヒーローたち  作者: 海月里ほとり


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30

 俺はあんぐりと口を開けて、馬鹿みたいに見開いた目で部屋を見渡した。

 そこにあったのはカタログでしか見たことのない……いや、最新のカタログでも見たことがないような、真新しい機材の群れだった。

 規格品の数分の一の太さの極細ケーブル、それを扱う補助拡張機能付きマニピュレーター手袋――自分の肌より自在に動くやつだ――と巨倍率拡大思考眼鏡。触れると肌が張り付きそうな上質なドブガスカル合金、髪の毛の数十分の一の単位でそれを削れる論理回路制御のレーザー掘削機。その他なんだかわからないピカピカの機械に囲まれて、部屋の真ん中には古びた頑丈そうな作業台が鎮座していた。

「え」

 その上に置かれたものを見て、俺の目はさらに見開かれた。自分の目がこんなに開くものだとは思わなかった。ごしごしと目をこすっても消えない。幻じゃない。たしかにそれはある。

「そんな、なんで?」

 そこにあったのは一本の腕だった。

 美しい腕だった。

 コーティングされていない金属の表面には曇り一つなく、随所から緻密な機構を覗かせている。極細のケーブルは束となり流線を描いて輪郭を型取っている。そして、それらのなす全体のフォルムは、ああ!

 その腕は動いていない。動力が通ってさえいない。それなのにその腕は今まさに躍動しようとするような張り詰めた迫力をたたえていた。

 その力強いフォルムが俺の記憶を刺激した。でも……

「そんなはずはねえ、こんなところに……」

「わかるのかい?」

 俺の呟きに父さんが反応する。俺は首を振った。俺のまともな部分が、俺の頭に浮かぶものを否定した。活劇の中で見たあの力強いフォルム。でも目の前のその存在感は俺の正気を吹き飛ばした。狂気が呟きとなって口から漏れ落ちる。

「Mr.ウーンズ?」

「ああ、そうだ」

 父さんが頷く。俺は目眩がして倒れそうになる。作業台の端に手をついて持ちこたえる。腕の存在感が目の前に飛び込んでくる。間違いない。

 それはMr.ウーンズの左腕の、正確な機械のバージョンだった。

「なんで、こんなものが?」

 俺の口から零れ出た声はとても弱々しいものだった。

 父さんは手を引いて俺を立ち上がらせた。そのまま作業台の腕を見つめながら言う。

「うちは代々ヒーローたちの義肢を作っているんだ」

 俺は隣に立つ父さんの顔を見た。ひどく奇妙なことにその顔には欠片も狂気の片鱗はなかった。こんな突拍子もないことを言っているのに!

 ごらん、と父さんは近くにある棚から一冊のファイルを取り出し広げた。

 それは古い図面だった。

 表題は『ザ・ファースト 右薬指』

「これって、あの?」

「ああ、あのザ・ファーストだ」

 俺はまた目眩を感じた。さっきよりもずっと酷い目眩だった。

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