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声の主は、事務所の受付のカウンターの上に立ち、目をランランと輝かせていた。それは一人の女の子だった。俺と同じくらいの齢に見える。ずいぶんと奇妙な格好をしていた。
ツンツンと尖った黄緑色の髪に顔の半分を覆う派手な化粧品、似合わないかっちりとしたビジネススーツに身を包んでいた。
女の子はぴょんとカウンターから飛び降りて、つかつかと俺の方に歩いてきた。それから俺の周りをぐるぐると回りながら、しげしげと俺の全身を眺め回した。俺はすっかり怯んでしまって、何もできずに固まってしまった。
「となると、君はリュウト君……リュウ君だね!」
俺の顔を覗き込んで尋ねてくる。俺は奇妙なあだ名とおぼしき呼び名を無視して尋ね返した。
「そうだけど、あんたは誰だよ」
「おお! そうだったこいつは失敬失敬!」
女の子はペシンと自分のおでこを叩いて頭を下げた。
「あたしの名前はスナッチャー、この事務所の受付を預かっておりますわ」
女の子、スナッチャーはそう名乗ってから顔を上げるとにっこり笑ってつけ加えた。
「スナっちゃんって気軽に呼んでね」
「お。おう」
俺はすっかり毒気を抜かれ、曖昧な相槌を打つことしかできなかった。
スナッチャーは俺の戸惑いなんてまるで気にしない様子で喋り続ける。
「いやいや、あたしが来たとたん、卒業シーズンでもないのに候補生が二人も続けてくるなんて、いやあやっぱりあたしの人徳かぁ。いやぁこいつはスナっちゃん困っちゃうね。ウンウン、それでリュウ君は……」
「その呼び方、やめろ」
俺は意識して不機嫌な声を作って言った。主導権を握られ続けるのはどうにも不愉快だった。
「だいたいなんで俺の名前を知ってるんだよ」
スナッチャーは目を見開いて首を傾げる。
「でも、君はリュウト君でしょう?」
輝く大きな瞳が俺を見つめてきた。俺はなぜだか目を逸らせなくなった。
「そう、だけど」
俺はなんとか言葉を捻り出す。
「なーんてね!」
スナッチャーは明るく片目をつむり、ケラケラと笑った。ごめんごめんと軽い口調で謝りながら続ける。
「データに残ってたんだよ。この前の襲撃に居合わせた民間人って。あれだよね。ミイヤ君のダチなんでしょう?」
出てきた名前に俺は顔を上げた。
「ミイヤを知ってるのか?」
スナッチャーは俺の顔を見てニヤリと笑った。
「知ってるよぉ、なんたってミイちゃんの手続き引き継いだのは、他ならぬこのスナっちゃんだからね! いやいや真面目な子だったから手がかかからないで助かったよ」
目をつむり、腕を組みながらウンウンと大げさに頷きながら言う。俺は薄目でスナッチャーのしたり顔を睨んだ。この受付担当の態度はさっきからどれもあからさまなまでに大げさで胡散臭かった。
「それで、リュウ君はいよいよ志願することに決めたってことでいいのかな?」
またしてもわざとらしく手を打ってスナッチャーは顔を輝かせた。
「違う」
俺は首を振った。何か余計なことを言って、向こうのペースに乗せられる前に、俺は付け加えた。
「これを出しに来ただけだ」
俺は鞄から封筒を取り出した。真新しい封筒に入っているのは、ミイヤへの手紙だった。
「なーんだ、そっちかぁ」
スナッチャーはあからさまにがっかりした様子で事務所の中に振り返ると歩き出した。
「まあ、そっちだよね。そんな気がしてたよ。いいよ、こっちおいで、ちょっと書いてもらう物あるからさ」
スナッチャーはがっくりと肩を落とし、顔だけ俺の方を向いてそう言った。
【つづく】




