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志願制ヒーローたち  作者: 海月里ほとり


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 エレベーターの扉がしまる。コチテの背中が見えなくなる。


 俺はしばらく立ち尽くしてから、行き先のボタンを押していないことに気がついた。慌てて、募集事務所の階のボタンを押す。ゆるく体が浮かぶ感じがあって、エレベーターが動き出す。


 俺はぎゅっと鞄を持ち直した。


 コチテの言葉を思い返す。


 ずいぶんと軽薄な理由でヒーローになりたがるものだ、と思った。


 そんな理由で本当にヒーローになれるものなのだろうか、とも思う。


 ヒーローはもっと真剣で、どうしてもなりたくて、そんな理由があってなるものだ、と思っていた。


 ミイヤも、フーカもそうだった。でも、コチテは違った。


 「フーカに近づくため」そう言っていた。そのためにコチテが犠牲にしたのは上級学習院だ。上級学習院に行けば、将来は安泰だ。卒業しさえすればなんだって好きな職につける。それに対してヒーローになればどうなる? いつか死ぬに決まっている危険に飛び込んでいかなければならない。


 上級学習院を蹴って、ヒーローになる。


 正気の沙汰には思えない。


 でも、きっと本気なのだろう。ヒーロー候補生は冗談で申し込めるようなものじゃない。


「まあ、俺には関係ないか」


 俺は誰もいないエレベーターの中で、わざと口に出して言ってみた。間違いない。考えてみれば、コチテがヒーローになったとして、それが俺に何の関係があるって言うんだ?


 ゆっくりと頭を振る。そうしたら余計な考えを追い払えるような気がした。


 それに、だいたいそんな生ぬるい動機でヒーローを目指したところで、ヒーローになれるはずがない。ヒーローになるための訓練はかなり厳しいらしい。きっと、どこかで音を上げて除隊することになるのだろう。


 そうしたときにまた上級学習院に戻れるのかどうかは知らないが、それこそ俺の知ったことではない。学校時代からコチテは要領がいいやつだった。きっと何とかするだろう。


 俺は一人で納得して頷いた。肩をすくめ、ため息をつく。


 俺には、関係のないことだ。もう一度、頭の中で繰り返す。


 そうだ、今度ミイヤに手紙を書くことがあったら、コチテのことも書いてやろう。訓練所で会うことがあるのかどうかは知らないが、話のネタにはなるだろう。別にまた手紙を書くとは限らないけれども。


 そう考えたところで、エレベーターの扉が開いた。


「おやおやおやおや、いらっしゃーい! 今日は千客万来! 大繁盛ですなあ!」


 だしぬけに甲高い声が俺の耳を貫いた。



【つづく】




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