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志願制ヒーローたち  作者: 海月里ほとり


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203/252

203

 俺はコネアの服の裾を掴もうとした。けれどもコネアは素早かった。コネアは俺の指先をすり抜けて通りに躍り出た。

 ずぎゅらあん!

 地響きが通りに鳴り渡る。ギガントモンクが侵攻型をさらに持ち上げたのだ。通りを横切ろうと駆け出したコネアが体勢を崩しかける。

 俺は立ち上がる。無謀だ。コネアを止めなければならない。ギガントモンクと侵攻型の取っ組み合いに近づくのは危険すぎる。崩壊を続ける建物に飛びこむようなものだ。侵攻型が刃腕を振り回す。道端の電柱がへし折れ音を立てて倒れ始める。コネアは素早く横に飛び、辛うじて電柱を避ける。

 コネアを止めなければ。でも、どうやって? 俺の身体は動かない。目の前で繰り広げられている荒れ狂う嵐の領域に飛びこむことはできない。二人の組み合いはさらに激しくなる。はじき出された小石が俺が隠れている路地裏の壁に飛んできて穴をあけた。

 暴力そのものの嵐の中をコネアは駆け続ける。息を呑む。コネアの身のこなしはす早かった。飛び交う瓦礫を躱し、避ける地面を飛び越え致命的な傷を回避しつつ、今や通りの半ばまで到達していた。だが、まだ半ばまでだ。

 ニャア

 全てが崩れ往く轟音の中、微かな泣き声が聞こえた。通りの向こう、崩壊を続けるビルのの下で、猫は怯えたように弱々しく震え続けている。駆けるコネアが顔を上げ、猫を見た。コネアの脚がさらに早まる。

 何事もなければ数秒で通り抜けられる程の幅しかない通りだが、二つの暴力装置が暴れ回っている中を通り抜けるのは容易なことではない。地面が揺れる。コネアが体勢を崩す。

「あ」

 コネアの口から声が漏れたのが聞こえた。瞬間、時が止まったように感じた。もみ合うギガントモンクのぎょろりとした目と、ギルマニア星人侵攻型の大天眼が振り向き、コネアを見た。

「わりゃあ!なんしょんならあ!」

 ギガントモンクが叫んだ。言葉の意味は解らないが、その声には微かな動揺が浮かんでいた。

「りゅえあらあ!」

 侵攻型も声を上げる。こちらも意味は解らない。だが、その声に籠められた感情は明確だった。侵攻型が刃腕を振り上げる。背後のコネアに向かって。惨劇の予感が俺の主観時間を鈍化させた。

 コネアは何とか体勢を立て直していた。だが、侵攻型の刃腕はそれよりも素早かった。コネアが逃れようとするよりも早く、刃腕はコネアめがけて振り下ろされる。俺は駆けだそうとした。泥のように重たい空気をかき分け、足を踏み出す。でも間に合わない。間に合うわけがない。刃腕が空を切り裂き、コネアに触れるのがやけにはっきりと見えた。

「まてやごらあ!」

 凍りついた時間を引き裂いたのはギガントモンクの叫び声だった。バッヂン! 船を止める係留綱が斬れたような音がした。ギルマニア星人のこん棒のような刃腕は、コネアを掠めて空を切った。

「ぐうううう!」

 ギガントモンクが大きな唸り声をあげた。ギガントモンクの右腕はだらりと力なく肩から垂れ下がっていた。なにがおきた?

「なめるなや!」

 俺が事態を把握しようとするよりはやく、ギガントモンクは左手で侵攻型の装甲を荒々しくつかんだ。


【つづく】

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