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それは例えばビルが崩れるような轟音だった。なにか恐ろしく大きなものと、恐ろしく大きなもの同士がぶつかり合った時の破壊的な音。破砕音の残響が俺の身体をびりびりと震わせ、俺は後ろに倒れそうになった。
恐る恐る目を開ける。挽肉になったギガントモンクの姿を予測しながら。
「え!?」
飛びこんできた光景に、俺は目を見開いた。ギガントモンクは挽肉になってはいなかった。粉々に砕けてもいなかったし、跡形もなく潰されてもいなかった。
侵攻型ギルマニア星人の歩みは止まっていた。ギガントモンクが止めていた。侵攻型の装甲――人間でいうところの肩に当るところだろうか――に手をかけて脚で大地を踏みしめていた。驚くべき光景だった。
両者の体格差は圧倒的だった。巨大な侵攻型の体躯と比べれば、ギガントモンクの巨体も牛の前に置かれた小枝のようだった。でも、たしかにギルマニア星人は脚を止めていた。
俺には何が起きているのかわからなかった。それはギガントモンクに止められている侵攻型ギルマニア星人も同じなようだった。巨大な大天眼が微かにかしいだ。自分の侵攻を妨げているものの正体を探ろうと、足元を覗き込む。
「ようやっと俺を見たな」
ギガントモンクが言った。その顔に浮かんでいるのは獰猛な笑顔だった。
「ふぃりいいいいいぎぃしい」
ギルマニア星人から奇妙な軋み音がした。俺は思わず身を竦めた。ギルマニア星人がさらに加速しようと力を込めたのがわかった。めきり、と音がした。走行型の巨大な多足が舗装された道路を踏み割った音だった。ギルマニア星人は一瞬力を溜め、脚に込めた力を一気にごく短距離の突進力に変換した。
「ふん!」
ギガントモンクが唸った。今度も破壊は起こらなかった。ギルマニア星人とギガントモンクは静止していた。そのように見えた。
「止まって、いる?」
思わず俺の口から言葉が漏れる。
「違う」
隣でコネアが言った。その視線は師匠の背中に注がれていた。コネアの視線を追う。そして気がつく。その背中の異様さに。
ギガントモンクの巨大な背中は驚くほど大きく膨れ上がっていた。頑丈な素材で作られたヒーロースーツが今にも破れそうになっている。
「あれは?」
「あれが、師匠のヒーローとしての力だ」
「ぬうううん!」
ギガントモンクが唸る。背中を覆う荒縄のような数多のコブがさらに膨れ上がる。ヒーロースーツがその耐久力の限界を超え、内側から避ける。
千々に千切れたヒーロースーツの下から現れたのは、恐ろしい大きさの筋肉の束だった。
「せいぃぃぃぃいやあ!
ギガントモンクが吠えた。筋肉の束がさらに太くなる。
一つの塊のように組み合っていたギガントモンクと侵攻型がここで初めて動いた。
わずかに、侵攻型が後ろに押し戻される。
「ふぃなああああ!」
ギルマニア星人は混乱したように唸り、ますます脚を強く、素早く動かす。道路が砕け、飛び散った破片が近くの建物を粉砕する。だが、それよりもギガントモンクの力の方が強かった。ゆっくりと不可思議な程の膂力でもってギガントモンクは侵攻型を押し戻していった。
「そんなもんか?」
額から滝のような汗を流しながら、ギガントモンクは笑った。
【つづく】




