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俺は路地裏の物陰に隠れ息をひそめていた。住人の避難が辛うじて間に合い、無人になった通りを、ゆっくりと巨体が通り過ぎていく。バリケード代わりに通りのいたるところに積み上げられたガラクタはそいつの進行を妨げることはできなかった。そいつは妨害なんてまるで無いかのように通りを真っ直ぐに進んでいた。そしてその通り過ぎた後にはバリケードなんてまるでなかったかのような平らな通りが続いていた。
「あれが、ギルマニア星人の侵攻兵器、ですか」
「そうだ」
コネアが頷いた。俺と同じように息をひそめ、通りを見守っている。
通りを無慈悲に進み続けているのは、戦闘用ギルマニア星人をそのまま巨大化してずんぐりむっくりにしたような生き物だった。ギルマニア星人は兵器と自分たちの肉体を区別しない。やつらの兵器開発とはすなわち、自らの肉体改造に他ならない。
今目の前をゆっくりと通り過ぎていくのは、その兵器開発を受けた個体の一つだ。役割は単純、侵攻ルートにあるあらゆる障害物の排除。上空から投げ落とされたそれは地面に着地するとあらかじめ設定された目的地に向かって真っ直ぐに進んでいく。
単純なだが、その単純さゆえに恐ろしい。痛覚も意思も持たない侵攻型はどんな障害物も気にせず直進する。頑丈な走行に守られたその肉体は生半可な攻撃では傷つけることさえできない。本来であれば複数のヒーローが緻密な計画を立てて当るような相手だ。
「えらい楽しそうにやっとるのお」
通りの角から、巨大な影が姿を表した。ギガントモンクだった。
侵攻型は答えない。以前多大な犠牲と引き換えに撃破した侵攻型を解析したデータによると、この種のギルマニア星人は聴覚も声を発する器官も備えていないということだった。
直進するだけの装置にそのような器官は不要、ということらしい。
それでもギガントモンクは物言わぬ巨体に向かって語り掛けた。
「まあ、お前には悪いけどよ、お前を倒さんと俺もおまんま食えんのよ」
侵攻型は答えない。ただゆっくりとギガントモンクとの距離を詰める。
侵攻型の排除、それがギガントモンクの任務だった。この近くにいるのはギガントモンクと、事情も知らされず連れて来られた俺とコネアだけだった。他にヒーローはいない。
今回の任務に割り振られたのはギガントモンクただ一人だった。
【つづく】




