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「本当か?」
「本当だ」
俺が尋ね。ジジクは答えた。
「そうか」
俺は頷いた。ジジクの顔を見る。そこにはいつものふざけた笑顔は無かった。ジジクは真剣な顔で俺を見つめ返していた。
俺は笑った。笑みは自然に沸いて出た。自然な笑顔を浮かべられた。自分ではそう思った。ジジクの肩を叩く。
「なら、大丈夫だよ」
「そうですかね」
ジジクは首を傾げた。でも、ジジクは俺の言っていることが解っているはずだった。そういう顔をしていた。
もう一度ジジクの肩を叩く。
「大丈夫だ」
俺は言葉を繰り返した。
「だといいんですけどね」
ジジクは笑った。いつもの軽薄な微笑みが戻ってきていた。見慣れた笑みを浮かべたまま、ジジクは言った。
「班長殿はヒーローになってくださいよ」
ジジクは俺を見ていた。でもそのまなざしはもっと遠くを見ているような気がした。例えば、俺ではない、いなくなった誰かを見ているような。俺はそんな風に感じた。
「ああ、なれたらな」
「なれないわけがないでしょう」
「だといいんだがな」
俺は肩を竦めて、尋ねた。
「お前も、ヒーローになるんだろう?」
「もちろん。そのつもりですよ」
ジジクはそう言って笑った。相変わらず薄っぺらな頬笑みだった。でもその笑みにはわずかに安堵が滲んでいるように見えた。それはなぜだかヒーローたちが浮かべる笑みにどこか似ていた。
【つづく】




