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志願制ヒーローたち  作者: 海月里ほとり


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「ヒーローは能力だけでなれるもんじゃない」

 言葉は俺の口から自然に流れ出た。頭に刻み込んだ名鑑のページが、ミイヤと語り合ったよしなしごとが、出会ったヒーローや教官たちとの会話が、そして予備訓練所での訓練の日々が、言葉を形作った。

「日頃の性格でも、成績表の数字でもない。ヒーローがヒーローであるために必要なのは、そんなものじゃない」

「じゃあ、なんだというのですか?」

 ジジクが問う。その問いかけは、なんども繰り返されてきたものだった。今夜だけじゃない。俺はその問いかけを何度も聞かれていたような気がした。オニルに、テイチャに、スナッチャーに。この予備訓練所の教官連中は皆、様々な言葉を使って俺たちに同じ質問をして来ていた。

 ジジクが俺の顔を見つめている。

 俺の腹の中には、一つの言葉があった。それは確かな答えだった。

「ヒーローになるには弱い者のために戦える必要があるんだ」

「それは……よく聞く理念ですね」

 ジジクは顔を顰めて言った。わかりきったお題目にうんざりしている顔だった。

「理念だけの話じゃないんだよ」

 俺は首を振った。理念の話じゃないし、お題目の話をしているわけでもなかった。

「最後の最後で、守るべき存在の前に立って、命を賭けられるかどうかが重要なんだ」

 俺の頭に浮かんでいるのは、Mr.ウーンズの血塗れの背中だった。それはファイアエンダーの黒焦げた背中だった。あるいは切り裂かれたあの女ヒーローの背中だった。

 俺の中に形作られた答えは、その背中だった。

 その背中の傷と汚れがヒーローであることそのものなのだ、と思った。

 スカーフェイスたちも例外ではないのだろう。

 スカーフェイスたちはそういうやつらだった。俺は何気なく見ていた帰還率が意味を持って立ち上がるのを感じた。任務から帰ってこないスカーフェイスたち。それはきっと誰か守るべき相手の前に立ちふさがったのだ。他の要救助者や他のヒーローを守るために盾となり、そして命を落としたのだ。

「ジジク」

 俺はジジクの名を呼んだ。

――お前はどうだ?

 問いかけようとして、止める。その問いはふさわしくないように思えた。考える。正しい言葉を。今、ここで自分が言うべき言葉を。

「俺はその時が来たら、そうするつもりだよ」

 代わりに出てきた言葉は、自分でも驚くほど自然に出てきた。ジジクは目を見開いて俺を見た。そしてため息をついた。

「あなたはヒーローになれるんでしょうよ」

 俺は首を振った。

「お前もなれるさ」

「まさか」

 ジジクは首を振った。俺はそれを無視して言葉を重ねた。頭の中の背中が俺に語り掛けてきていた。俺の言うべきことを。目の前のジジクにかけるべき言葉を。

「お前はヒーローを知っているんだろう? そんな風になりたいと思っているんだろう」

「そんなんじゃあ」

 ジジクが忌々しそうに再び首を振った。

「じゃあ、なんでここにいるんだよ。何度も何度も、諦めないでこんなところにいるんだよ」

「だから、それは……」

「ヒーローになりたいんだろう」

 俺は尋ねた。ジジクは三度首を振りかけて、止まった。

「きっとさ、お前はその班長を助けるべきだったんだよ」

「でも、できませんでした。それどころか……」

「今、同じ状況になったらどうだ?」

 ジジクは黙り、考え込んだ。

「またからかうのか? それとも助けたいのか?」

 俺は尋ねた。ジジクはまだ答えなかった。俺は答えを待った。

 静寂はかなり長いものになった」

「助け、たいですよ」

 小さな声でジジクは言った。


【つづく】

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