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「知りたかったんですよ」
ジジクは目をそらさなかった。
「ヒーローらしいやつが本当に最後までヒーローでいられるのか」
ジジクの目がぎらりと光った。微笑み。その目に輝くのは残忍さ。でも、それもどこか薄っぺらかった。
「そうか」
俺は頷き、続けた。
「お前はそれを知りたかったんだな」
「ええ、そうです。性格、悪いでしょう? そりゃあ、ヒーローになんかなれるわけがない」
ジジクが笑う。俺は頷かなかった。
「フォックス愛」
「え?」
代わりにあるヒーローの名を呼んだ。
「クリーンホワイト」
「なんですか」
「アイアンメソッド、爪切投手、ボイリングアシッド」
戸惑うジジクを無視して、俺は名前を上げ続けた。頭の中で名鑑のページが開いていた。
「知っているか?」
「スカーフェイスたち、ですか?」
「そうだ」
スカーフェイスは、ヒーロー連盟たちの鼻つまみものだった。人格に難があり、悪辣で残忍なヒーローたちの呼び名だ。あまりに扱いづらい性格の持ち主たちで、他のヒーローたちでさえ一緒の任務に就くのを躊躇うと言われているほどだった。
ジジクは怪訝そうに俺の顔を睨んだ。
「性格が悪くても、ヒーロでは居られるって言いたいんですか?」
「違うか?」
「それは……でも、あの人たちはそれだけの能力があるってことでしょう」
「そうだな」
ジジクの言葉は正しかった。スカーフェイスたちは行動には問題があるが、それを補って余りあるほどのヒーローセンスの発現を持っていた。そうでなければヒーロー連盟から追い出されていたであろうスカーフェイスも少なくないと言われている。
「でも、それだけじゃない」
「え?」
俺は遥か昔に読んだ名鑑のコラムを思い出していた。
その話題が触れられたのを見たは、そのコラムが最初で最後だった。コラム自体もかなり小さなものだった。でも、俺はそのコラムの事をよく覚えていた。
「『たしかにスカーフェイスたちは進んで関わり合いになりたい連中じゃないさ。性格が悪いし、危なっかしいし、あんな奴らと居たら私の評判まで下がってしまう。もしも一緒に任務に就きたい順番をつけるなら、あいつらは一番最後だよ』」
ジジクは険しい顔で俺の言葉を聞いていた。俺は読み上げを続けた。
「『でもね。もしも何かの任務で、誰かと殿を務めないと行けないってなったら、私は一番最初にあいつらを選ぶね。そういう時だけはあいつら、信用……できてしまうからさ。ほんとうに悔しいし、腹立つんだけどね』」
「それは?」
ジジクは首を傾げた。
「昔の名鑑のコラムだよ。どこかのヒーローが、スカーフェイスたちのページの端っこに書いてたんだ」
「はあ」
俺を見つめるジジクの目にはどこか疑いの色がこもっていた。
「嘘だと思うか?」
「班長殿のお言葉を疑うわけではありませんが」
「でもよ、ちょっと思い出してみろよ。スカーフェイスたちが出撃した任務で、スカーフェイスだけが帰ってきたことあるか?」
「え?」
ジジクは首を傾げた。その目が宙をさまよう。
「ないだろ?」
「そんなことは……」
「スカーフェイスたちはたいてい激しい任務に送られる。でも、帰って来る時は他のヒーローだけが帰ってくるか、それとも誰も帰らないかのどっちかなんだよ」
それは以前ミイヤが興奮気味に語ったことだった。そして記録を見る限り、それは事実だった。
「これがどういうことかわかるか?」
ジジクは戸惑いながら首を振った。俺はゆっくりと言った。
「あいつらはどれだけ性格が悪くても、やっぱり、ヒーローなんだよ」
【つづく】




