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あ、と声を出す間もなかった。引きつるように痙攣した俺の指先はブラスター銃の引き金を引いていた。銃口から放たれた光線がオニルの肩に突き刺さるのが見えた。
「うっ」
オニルが唸り声をあげた。その手から落ちた銃が床に落ち、耳障りな衝突音が廊下に響く。身体中の血液が一瞬でどこかに行ってしまったようだった。全身が凍り付いたように冷たくなる。
「教官!」
俺は叫んでいた。
「て、てめえ」
オニルが俺を睨み、声を絞り出した。その顔から次第に血の気が引き、真っ青になっていく。
「やって……くれた……なぁ」
オニルの口から小さな声が漏れる。でもそれだけだった。力尽きたように、どさり、とオニルの身体が倒れ落ちた。
「違う……そんな、つもりじゃ」
俺は自分の口がそんなことを呟くのを聞いた。倒れ伏すオニルの傍ら、ナリナが振りむいて俺とオニルの身体を眺めているのが見えた。その顔には呆然と感情の消えた表情が張り付いている。
「君がどういうつもりだったとしても」
声が聞こえた。場違いなほどに冷静な声だった。振り返る。
「やったことがすべてだ」
ジジクだった。腰が抜けて床にへたり込んだ俺を冷たい目で見下ろしていた。
すっと、ジジクの手が伸びた。俺の腕が軽くなった。気が付いた時には俺の手の中にあったはずのブラスター銃がジジクの手の中に移動していた。まるで手品のような手際だった。
「これは預かっておきましょう」
ジジクは言った。俺はジジクを見上げて口を開く。
「なあ、ジジク」
「なんでしょう」
「見ていただろう? 俺は撃つつもりなんてなかったんだ」
「あなたの気持ちはわかりませんが」
ジジクの目が床に転がるオニルの身体を見た。ピクリとも動かない。あたりまえだ。硬い装甲を持つギルマニア星人に撃つことを想定して作られた銃だ。生身の人間を撃って無事なはずがない。
「裁くのは私じゃない」
ジジクは首を振った。俺は頷いた。ジジクの言ったことは正しかった。少なくとも俺にはそう思えた。次第に俺の頭が働き始める。何をすべきかを考えられるようになる。俺は力の入らない震える身体で、ナリナの隣の壁際に這い進んだ。ナリナが怪訝な顔で俺を見る。俺は膝立ちになって背中で腕を組んだ。
その姿勢のまま、声を絞り出す。
「ジジク、テイチャ所長を呼んできてくれ。できるだけこの場の状況は乱さないようにして……」
「ああ」
ジジクが短くうなずくのが聞こえた。足跡が静かに遠ざかっていく。
「く、くくくくく」
不意にその静かな足音に、笑い声がかぶさった。
【つづく】