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「それを俺が言う必要があると思うのか?」

「聞く権利くらいはあると思いますが」

 口から飛び出した言葉は、自分で思っていたよりも棘のある声だった。その棘は俺の胸の内でいつの間にか育っていた棘だった。

「俺は班長です」

「ここにいる間だけのな」

 オニルは小ばかにした調子で言った。俺は口調を強めて反論した。

「それでも、班長です。班の連中に対して責任がある」

「おまじめなことで」

 返ってきた答えはまじめとはほど遠い口調だった。オニルは興味を失ったように俺から目線を外した。

「それだけじゃないでしょう。コチテの力も、ヤカイの治療も、あなたの……あなた達がわざと与えたものじゃないのですか? それで何が起きるかわかった上で」

「何が起きるかはわからんかったさ」

 そっけなくオニルが答えた。俺はその言葉を聞き、意味を理解した。それは自白そのものだった。目を見開き、オニルを睨む。

「何が起きるかわからないから、やった。それだけだ」

「やっぱりわざとなのですか?」

「そうでもせんとわからんことがある」

「俺達を試したと?」

「ここはそうするための場所だ。最初の日にそう言っただろう。ヒーローにふさわしくない奴を追い払うのが、ここの役目だと」

「そのために必要だったと?」

「だからやった」

 オニルは答える。

「ふざけるな!」

 気が付くと、俺は叫んでいた。俺の拳は机を叩いていた。俺の腹の中がぎらぎらと燃えていた。熱は勢いを増して俺の口から飛び出した。

「そんなの、卑怯じゃないか! それだけじゃない無意に危険にさらして、ケガをさせて、死んでたかもしれない! どんな理由であったとしても、あんなふざけたことことやっていいはずがない!」

 俺の頭の中に、班員たちの顔が浮かんだ。みな混乱してうろたえていた。その顔に浮かぶ感情が俺の胸の中の炎に薪をくべ続けていた。それが誰かの意志によってもたらされたものだとしたら、それは許されないことに思えた。

「ふざけてなんかいないさ」

 ゆっくりとオニルは口を開いた。

「俺達はいつでも本気さ。できることならお前ら全員を追い出したいさ。卑怯だろうが、危なかろうが、どんな手を使ってでもな。だってなあ」

 オニルが俺を見た。

「あいつらはもっと卑怯で危ない手を使ってくるんだぞ」

 その目は無慈悲で鋭い眼光を宿していた。けれども無慈悲さの奥に、なにか別の感情が見えた気がした。遠くを見るようなまなざし。そこに浮かんだのはまるで悲しみと呼ばれるような感情だった。

「その時にもお前はそうやって癇癪を起こしてうろたえるだけか?」

 奇妙な感情が覗いたと思ったのはほんの一瞬だった。次の瞬間には元の鋭い眼光が戻ってきていた。オニルの両目が俺をとらえた。

「奴らのもっと狡猾な手段に出くわして、お前らはまんまとはまって、うろたえて怯えて、何もできずに震えるだけか? それともそうやって腹を立てて誰彼構わず噛みつくだけか? それでお前は奴らに勝てるのか?」

 オニルは一度言葉を切り、言い直す。

「ギルマニア星人たちに、勝てるのか?」

 俺はその問いに答えようとした。でも、考えても答えは出なかった。オニルたちの暗黙の試験が正しいことだとは思えなかった。でも、否定するにはオニルの目に覗いた感情は重たすぎた。

「ヒーローになれるかどうかを試すのに、必要だったということですか?」

 だから俺は質問を返してごまかした。

「ああ、そうだ。最初からそう言っている」

 オニルは頷いた。

 俺とオニルは目を合わせたまま、にらみ合った。

 静かな沈黙が執務室を満たした。


【つづく】

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