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「擬態型など……本当にいたのですか?」

「ほう」

 初めて興味の光がオニルの目に宿った。オニルの唇がきゅっと一文字に結ばれ、いかめしい表情を作った。

「なぜそう思う」

「ある班員から聞きました」

 俺はあえて名は伏せた。

 じっとオニルの目を覗き込む。オニルは動かず、俺を見返してくる。その目つきから感情は読めない。ただ、何も言わず続きを促してくる。

「あなたに他の班員の私物を盗み出すように指示されたと」

 静かな声で、俺は言葉を続けた。あのコチテとヤカイがぶつかり合った夜、その後にコチテから聞いた話を思い出しながら。


 ◆


 あの夜、ヤカイが先に寝室に帰ったのを確認してからコチテは俺に話しかけてきた。ひどくためらいがちな様子だった。

「リュウトに……班長に伝えておきたいことがあるんだ」

 コチテの目は談話室の暗闇を見つめていた。暗く、思い悩んだ表情だった。ヤカイとのやり取りとは別になにかがあることは明白だった。

「なんだ?」

 俺は尋ねた。コチテは言い淀んだ。言うべきでないことを言おうか言うまいか迷っているように、何度も唇を嚙み、眉間に皴を寄せた。

「言えないことなら、言わないでもいい」

「いや」

 俺の言葉にコチテは首を振り、決心したように口を開いた。

「ライアのフィギュアを盗んだのは俺だ」

「あ?」

 突然の言葉に俺は間抜けな声を上げた。それはもう解決した問題であるはずだった。ライアがフィギュアをソファの下に落とした。そしてそれに気が付かなかった。それだけだ。

 そこにコチテが介入してくる要素なんてどこにも無いはずだった。

「なぜだ?」

 けれどもコチテの顔は真剣だった。嘘をついている様子はなかった。コチテは一度目をそらし、声を潜めて言った。

「オニルに言われたんだ。『誰かの大切なものを盗んで、隠せ』って。私物箱の鍵も渡されて、『誰にも気づかれるな』って」

「なぜだ?」

 俺は問いを繰り返した。

「わからない」

 コチテはそう言って首を振った。



「そいつ一人の証言を信用するのか?」

 硬い声でオニルは言った。俺は首を振った。

「他の班員からも裏を取りました」

「そうか」

 オニルは頷く。班員たちはすぐには口を割らなかった。けれども俺は辛抱強く探った。一人一人、話をする機会を設け、時に鎌をかけ、時に言葉を尽くして。それぞれの証言は間違いなくただ一つの真実を示していた。

「この班で起こっていた厄介ごとはあなたに命じられたものだった」

 オニルは俺を見つめた。何も言わない。けれども、その沈黙はなによりも雄弁に俺の推測を肯定していた。

「なぜですか?」

 俺は尋ねた。帰ってきたのは沈黙と、恐ろしい目線だった。俺はその視線を受け止めた。逃げたいとは思わなかった。ただ、にぶい苛立ちの炎だけが俺の中に燃え盛っていた。


【つづく】


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