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 俺が医務室を後にして廊下を歩いている間にも、ラウドの声は俺耳の奥に絡みついて離れなかった。ラウドは何を言おうとしていた? 言葉は本当に言葉通りの意味なのか? ラウドとの会話は俺の中にあった疑問をいくつか解決したが、それよりも多くの疑問を生み出していた

 脇腹でブラスター銃が揺れる。その重みに意識が引っ張られる。この銃はオニルに押し付けられたものだった。そこに俺の意思はなかった。その時が来て、必要があれば使わなければならないと思っていた。

 その時? それはいつだ? 俺は頭の中で自分自身に問いかけた。少し考え、答えを出す。決まりきっていることだ。擬態型ギルマニア星人を見つけ出した時だ。その時に本当に引き金を引けるのかどうかは解らなかった。

 俺がブラスター銃を撃つとき、その銃口はきっと班員の誰かに向けられている。俺はその誰かがギルマニア星人が化けたものだと思っているだろう。それはどのくらいの確かさだろう。よほど確信がなければそんなことできやしないだろう。

 引き金は重たいだろう。俺の指で引けるのかどうかわからないほど。

 ブラスター銃の破壊力は知っている。ギルマニア星人の最新の装甲を貫く熱線。降池堂の婆さんとギルマニア星人の戦いの跡を思い出す。身震いする。その破壊力が今、俺の脇腹の下におさまっている。でも、ヒーローセンスを持たない人間がギルマニア星人と戦うにはそれでも最低限の火力だ。

 俺はそれを本当に誰かに――同じ釜の飯を食った班の誰かに向けることができるのだろうか。ブラスター銃がひどく重たく感じる。

 そして、俺は今そのブラスター銃が向けられる先が、擬態型だとは限らないことも知っていた。知ってしまっていた。俺はラウドに銃を向けなかった。でも、銃を向けることはできた。ラウドはそう言った。そしてそれは事実だった。

 ブラスター銃が重い。シャツ越しに銃身を握る。この恐ろしい破壊の力を、俺はなんにでも向けることができる。そんなこと考えたこともなかった。ギルマニア星人を仕留めるためにしか使うつもりはなかった。

 それは恐ろしいことだった。

――お前はその銃をどう使う?

 ラウドの声が脳みそに絡みつく。この銃はどのようにでも使える。誰にでも向けられる。ギルマニア星人にでも、ラウドにでも。

「俺はギルマニア星人にしか向けるつもりはない」

 ぽつりとひとりごちる。声は震えていた。口を押える。吐きそうな気分だった。

 この銃はオニルに押し付けられたものだ。俺の意思で持つことになったわけじゃない。でも、もしも『その時』が来たら、俺自身の意志によって使うしかない。

 銃が重い。足取りが重くなる。俺はホルスターの紐を握った。俺の手は衝動的に紐を引き、振り払おうとする。革の縛めは俺の身体に巻き付いて離れなかった。肩の痣に継ぎ目が当たり、俺はうめき声をあげた。

「ギルマニア星人、ギルマニア星人だ」

 俺は繰り返し、呟く。自分に言い聞かせる。銃が重たい。足が止まる。『その時』を想像する。銃を持ち上げて引き金に指をかける時を。コチテか、サルワか、ナリナか、それとも他の誰かか、班の誰かに銃を向ける時を。

 その銃口が正しく向けられていることを、俺は祈った。


【つづく】

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