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「それが、コチテのあの力の源だってことですか? でも……」

 俺は自分の眉根が寄るのを感じた。頭の中でヒーロー名鑑をめくる。

「そんなこと、名鑑には載っていなかったって?」

 ラウドはいじわるそうに笑った。俺は頷いた。俺の記憶にある限り、そんなヒーローがいることも、ヒーローの力の源がそんなものであることも名鑑に記載されてはいなかった。

「もちろん、爺さんの料理だけじゃない。他にも色々と処置はある。でも、そのうちの一つなんだ。どれだけ重要なことかは解るだろ」

 俺はラウドの言葉を聞き、一瞬遅れて言葉の意味を理解する。俺は眼を見開いた。

「秘匿情報だってことですか」

「誰にも言うなよ」

 ラウドは言う。ラウドの顔は笑顔の形を作っていたけれども、その目はちっとも笑ってはいなかった。

「俺にそんなことを教えてもいいのですか?」

「いいわけがないだろう……でもなあ」

 ラウドは言葉を切った。鋭い目線が、俺の脇腹に突き刺さった。俺には脇腹に吊り下げたブラスター銃がズシリと重たくなったように思えた。

「銃で脅されてしまったからなあ」

「脅してなんか、いないじゃないですか」

 一瞬で口の中の水分が蒸発したようだった。からからになった口を開き、俺は反論した。

「お前はブラスター銃を持っていたし、あたしはお前が持っていることを知っていた」

 蛇が獲物に絡みつくような声でラウドは言葉をつづける。

「その上で、お前は知りたいと言った。ならば教えなければどうなっていたか、わからんからなあ」

「そんなこと」

「ないのか?」

 ぎらり、とラウドの眼が一際鋭く輝き、俺の言葉をさえぎった。何か言い返そうとした俺の口はその視線を受けてぴたりと動きを止めた。

「いいか、銃を持つということはそういうことなんだよ。お前がどう思っていたとしてもな」

 ラウドは言った。その顔にはもう笑顔はなかった。ただ、厳しく真剣な顔で俺の目を見据えていた。

「お前はその銃をどう使う?」

「俺は……」

 突然の問いかけ。苦労して痺れ強張った口を開く。でも言葉は出てこなかった。視界が揺れる。ホルスターが身体を締め付ける。ブラスター銃がズシリと重みを増す。閉まり切った喉を無理やり動かし、言葉をひねり出す。

「あなたに向けはしなかった」

「ああ、そうだな」

 ラウドが頷く。何も続けない。俺の言葉を待っている。

「そうするのが正しいと思えなかったから」

「そうか」

「俺は……ギルマニア星人を撃つために、この銃を預かりました。それ以外に使うつもりは、ありません」

 何とか、言葉を絞り出す。訓練で限界まで全力疾走を続けたときのように息が上がっていた。

 ラウドがにっこりと笑った。

「そうだろうな。だから、お前にこのことを教えたんだよ」

「はい?」

 不意の言葉の柔らかさに、俺は首を傾げた。俺の顔に浮かんだであろう怪訝そうな表情を無視して、ラウドは言葉をつづける。

「お前は班長だろう?」

「はい」

「お前は知るべきことを知った」

「そうは思えませんけど」

「少なくとも、あたしは伝えたぞ」

「はあ」

 ラウドの言葉は謎めいて聞こえた。俺は知るべきことなんて、何も知っていないように思えた。

「何をするべきかはお前が考えな」

「はあ」

 ラウドは椅子から立ち上がった。そのまま俺の肩に手を伸ばしてきた。痣の痛みを予測して顔をしかめる。でも、痛みはなかった。ラウドは俺の傷が痛まない柔らかさで俺の肩に手を置いた。大きくてあたたかな手のひらだった。ラウドは俺の耳に口を寄せ、囁く。

「お前は上手くやるだろう。だから、あたしはお前に教えたんだぞ」

 その声は驚くほどに柔らかだった。俺は再び硬直した。


【つづく】

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