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冷たく突き刺さるラウドの目を受け止める。威圧的にぎらついていた。まるでヒーローがギルマニア星人に向けるみたいな、断絶のまなざし。俺の頭の中で危険を知らせるアラートが鳴り響いていた。戦闘職ではないにしても、ラウドは恐ろしい。オニルと同じかそれ以上に。逆らえば何が起きるかわからなかった。
でも、俺は目をそらさなかった。そらす気はなかった。そらしたくなる恐怖を押さえつけていた。その恐ろしい目を受け止めて、むしろにらみ返した。
「あたしが答える必要があると思うのかい?」
「俺が知る必要があると思っていると言っています」
ラウドの問いはかたい声だった。俺は震えを隠し、低い声で答えた。
俺は胸の奥に熱を感じた。肩の痛みよりもずっと熱い。それは怒りだった。怒りの炎が温度を次第に上げ始めていた。俺は知る必要があった。俺たちの置かれている状況を。コチテがあんな表情を浮かべないといけなかった理由を。それが何者かの、ラウドたちの管理下で行われているのなら特に。
俺は息を吐く。喉を焼く息に背筋がかすかに震える。拳を握る。爪が掌に食い込む。ラウドをにらむ。無表情に見つめてくるラウドを。俺の怒りなど気にも留めていない。その事実に胸の内の炎は勢いを増す。
無理にでも聞き出すか? どうやって? 肩が痛む。ホルスターの位置を治す。指がシャツ越しに革紐の輪郭をなぞる。指先がブラスター銃に触れる。焼けるような感触。息が止まる。動きが止まる。凍り付いたように。それは力だった。もしかしたらラウドに口を開かせることができるかもしれない力。
ラウドが俺を見た。俺の顔を。そして俺の指先を。変わらぬ無表情。感情は読めない。俺は止まっていた息を吐く。手を動かす。ゆっくりと。椅子の座面に手を下す。くたびれた布張りの座面は、俺の手のひらの汗でじっとりと濡れた感触を伝えてきた。
「ふん」
ラウドが鼻を鳴らした。
「まあ、いいだろう」
聞こえた言葉は柔らかな声音だった。
「え」
俺は顔を上げてラウドの顔を見た。驚きに俺の身体は再び固まった。ラウドは微笑んでいた。威圧する獰猛な笑みではなかった。しぶしぶと敵意を引っ込めたような苦い笑いだった。
「危ないところだったな」
俺はわき腹、ブラスター銃にラウドの視線を感じた。
「なにがですか?」
「あたしに向けようとしてただろう?」
その口調はどこか面白がる様子があった。俺の心臓が不快な調子で跳ねた。俺の顔を覗き込むラウドの目は、俺の頭の中さえも見通しているように思えた。目をそらし答える。
「まさか」
「そうだろうともさ」
鼻を鳴らしながらラウドは言った。俺は顔を床に向けたまま、視界の端でラウドの様子をうかがいながら尋ねた。
「ちなみに、もしも……万が一向けていたらどうなっていました?」
「知りたいか?」
にやり、とラウドの口角が吊りあがった。鋭くとがった犬歯が口の端からのぞいた。俺の背中のケガ一気に逆立った。首を振る。どうなっていたかは解らないが、銃を向けることさえできなかっただろうことだけが理解できた。
【つづく】