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 俺の問いに、ラウドは無表情を返した。沈黙。ハングラの寝息がかすかに聞こえた。いびきをかいていないのは、安心材料だ。益体のない考えが頭をよぎる。

「コチテはあれほど力持ちではなかったはずです」

「訓練で力が付いたんだろうさ。よくあることだよ」

 表情を変えず、ラウドが答える。それはさっき俺がコチテに言ったのと同じ内容だった。コチテはあれで安心してくれた。でも、俺はそれでは納得できなかった。

「それで短い期間に二回も人をケガさせるようなやつじゃないです。コチテは」

 また沈黙があった。ラウドは僅かに目を細め、顎に手を当てた。何かを思案している顔だった。

「お前は自分にそれを知る権限があると思っているのか?」

 ラウドの目がさらに細く、鋭くなり、俺を睨みつけた。鋭利な視線は俺の顔を経由して、俺の肩に移動した。俺はその視線の意図に気が付かないふりをして頷いた。

「知る必要があると思うから、聞いているのです」

 頷いた表紙にホルスターのひもが痣にあたった。鈍い痛みが肩に走った。顔をしかめ位置を調整しながら言葉をつづける。

「コチテが気を付けるだけでいいのか、それとも他の人間にも気を付けさせないといけないのか。あるいは、ほかにもっと気を付けるべきやつがいるのか。私は知る必要があります」

 ふん、とラウドが鼻を鳴らした。くるりと振り返り、ハングラの仕切りの中を覗き込む。規則正しい寝息が聞こえてくる。

「まあいいだろう」

 俺のほうに向き直りながらラウドが言った。相変わらず眼光の鋭い無表情だった。

「この予備訓練校の役目は何だと思う?」

 だしぬけに質問が飛んできた。俺は面食らって首を傾げた。質問の意味を咀嚼して、答えを考える。

「訓練をすることで、ヒーローになれるかどうかを試してるんじゃあ、ないのですか? 向いていないやつを弾く、とかそんな理由ですよね」

「ああ、その通りだよ」

 初めの日にオニルに怒鳴りつけられた内容を思い出しながら俺は答えた。

「じゃあ、どんな奴が向いていないと思う?」

「そりゃあ……」

 質問を畳みかけられて、俺は言葉に詰まった。ヒーローにふさわしいやつのことを考えたことはあった。でも、『ふさわしくないやつ』のことなんて、考えたこともなかった。

「臆病者とか?」

「慎重なヒーローはいくらでもいるぞ」

「じゃあ、自分勝手なやつとか」

「スタンドプレーしかしないヒーローもいるだろう」

「それじゃあ……」

 俺の絞り出した答えをラウドはぴしゃりぴしゃりと否定していく。再び言葉に詰まる俺にラウドは「いいか」と身を乗り出して顔を寄せる。声を潜め、静かに言った。

「一番ヒーローに向いていないのは、力を制御できないやつなんだよ」


【つづく】

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