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 俺は目を閉じようとした。だが、それさえできなかった。鋭い刃腕が俺にまっすぐ振り下ろされる。俺は地面に転がったまま、魅入られたようにその刃腕を見つめることしかできなかった。


「リュウちゃん!」


 婆さんが叫んだ。轟音が響いた。豚スター中の熱線が鼻先を掠める。刃腕の軌道がそれる。俺の頭の上の地面に突き刺さる。


「はぁっ、はぁ」


 俺は自分の口から荒い息が漏れるのを聞いた。死が目の前を通り過ぎていった。いや、まだ危険は消え去ってはいない。まだ目前にある。


 ギルマニア星人の大天眼が俺を見た。


「う、うわぁ」


 情けない声が俺の口から溢れ出る。刃腕が再び振り上げられる。


「はよ逃げえ!」


 婆さんの声が聞こえる。


 俺は無我夢中で地面を転がった。立ち上がる時間が惜しかった。


 腕にチクチクした手触りを感じた。


「え」


 目を開ける。それは店の入口に敷かれた足ふきマットだった。俺はマットの上に手をついていた。俺は自分がとんでもなく間抜けなことをしたのに気がついた。


 俺は店から離れようとして、まるで逆方向に行ってしまったのだ。目の前にあるのは降池堂の店の入り口だった。


「おりゃあ!」


 気合の叫び声とともに何かが宙を待った。硬いものを弾く音。何かが地面に転がった。それは煙を上げるブラスター銃だった。


「われの相手はワシじゃあ!」


 婆さんが叫んだ。恐ろしい声だった。婆さんは店先のベンチを掴むと、それを思い切りギルマニア星人に叩きつけた。


 ギルマニア星人は刃腕でベンチを受ける。激しい衝突音が響いた。


 俺は恐ろしくなった。何も考えられなくなった。ただ、頭を下げ、四つんばいになってどこか安全な場所を探す。でも安全な場所などこもないように思えた。それでも俺の本能は物陰を求めた。少しでも隠れられる場所へ。真っ白になった頭で店の中へ静かに這っていった。


 俺の後ろで衝突音は続く。どんどん激しくなっていく。俺はカウンターの中に転がり込む。頭を抱えて小さく蹲る。早く事態が終わることを祈る。婆さんがあの笑顔でカウンターから覗き込んでくる姿を想像する。 でも、本当か? 本当にそうなると思っているのか? 疑問が浮かぶ。浮かんでしまう。婆さんが勇敢で、戦いに慣れているのはわかった。


 銃の扱いも、あの膂力も、只者ではないのだろう。でも、ヒーローじゃない。名鑑には載っていない。あの小さな婆さんが、ブラスター銃を失って、力比べでギルマニア星人に勝てるものだろうか。悪い想像が頭に浮かぶ。血まみれで倒れる婆さん。ギルマニア星人は、婆さんを倒したあとに、店に入ってくる。大天眼が伸び、カウンターから俺を覗く。


「ひっ!」


 生々しい想像に俺は悲鳴を上げてしまう。カウンターを見上げる。そこには誰もいない。少なくとも今のところは。打ち合いの音はまだ聞こえている。いつまで続く? いつまでもつ?


 恐怖が俺の頭を締め上げる。


 その時、俺の目が何かを見つけて止まった。


 最初、それが何なのか、俺にはわからなかった。それはカウンターの天板の裏にあった。どこか見覚えのあるものだった。それも今日見たもの。


 それはボタンとスピーカーが組み合わさった装置だった。どこで見たのだろう。そうだ。募集事務所だ。募集事務所の棚の裏に隠されていた装置だ。ミイヤが操作して、救援を呼んだあと装置だ。それならば……。


 そこまで考えた瞬間、俺の指は装置のボタンを押していた。


 スピーカーから僅かなノイズが溢れる。何も聞こえない沈黙の時間が永遠のように思えた。


『こちらヒーロー連盟、なにがあった』


 声が聞こえた。俺の心臓は爆発しそうなほど激しく脈打った。



【つづく】


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