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「どうした?」
俺はライアに駆け寄った。談話室で探し物をしていた他の班員たちも驚いてライアを見ていた。
「あ、あれ……」
ライアはソファの下を指さしていた。なにかあったのだろうか。俺は警戒しながらしゃがんで、ライアの指さす先を覗き込んだ。
そこに小さな人影があった。
「あれか?」
ライアに尋ねる。ライアは青い顔をしたまま頷いた。
「とるぞ」
ライアの声をまたず、俺はソファの下に手を伸ばした。指先が何かに触れる。何かが転がる感触。舌打ちが漏れる。掴もうとして弾いてしまったか。
「班長」
ライアが言う。声は小さく、震えていた。俺はソファの下に手を伸ばしたたまま言葉を待ったが、言葉の続きはなかった。ただ、俺の方に手が置かれた。ライアの大きな手だった。
「どうした」
振り返る。ライアの青ざめた顔が目に入る。緊張したように目が細かく動いている。もう一度言葉を待つ。今度はその目をしっかりと見つめたまま。
「私が、とる」
少し間が開いて、ようやくライアは言った。肺の底から絞りだされた声だった。
「大丈夫か?」
尋ねる。ライアは黙ってうなずく。俺は立ち上がり、ライアに場所を譲った。ライアが巨大な体を折りたたむようにしゃがみ込み、腕を伸ばす。見るからに無理をしている体勢だった。
「本当に大丈夫かよ」
「大丈夫」
ライアは苦悶の表情を浮かべながら答えた。直後、痛みに満ちたうめき声がライアの口から洩れた。ライアの身体に比べてソファの下はあまりにも低い。
「代わるぞ」
「ううん、とれた」
俺が声をかけた瞬間、ライアは言った。そしてそのまま動きを止めた。しばらく待つ。ライアは動かない。
「どうした?」
もう一度問いかける。ライアの目がくいと動き、俺の目から逃れる。
「まさか、変にはまっちまったか?」
「……いや、大丈夫だ」
少し間を開け、ライアが答える。目をつむり、深呼吸をしてからライアは勢いよく腕を抜いた。
「班長、悪い。手間をかけたな」
ライアは素早く立ち上がり、俺に背を向けた。そのままどこかに立ち去ろうとする。
「おい、ライア」
俺は声をかけた。ぎくり、とライアが動きを止める。
「なにがあったんだ?」
詰問する口調にならないよう、できるだけ柔らかい口調で尋ねる。それを聞かないで立ち去らせるには、ライアの態度は不審過ぎた。
「なんでもない」
ライアは振り返らないままに答えた。
「そうか、ならそれを見せな」
「たいしたものじゃない」
「なら、見せても大丈夫だろう」
沈黙。我慢強く言葉を待つ。かなり間が開いて、ライアは俺のほうに向き直った。その顔を見って驚く。ライアは今にも泣きだしそうな顔をしていた。
「なんだよ、何を見つけたんだよ」
「これ」
ライアが手を差し出す。その手に握られていたのは、ヒーローアイドル、セロリモネのフィギュアだった。
「それ、お前がなくしたって、言ってたやつか」
「うん」
「見つかったのか」
「うん:
ライアが頷く。
「こんなとこにあったのに、あたしヤカイにひどいこと言っちゃって」
ライアの口がへの字にゆがみ、その巨大な目から大粒の涙がこぼれた。
【つづく】