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「ぐっぐっぐっぐ」


 男の体から濁った笑い声が聞こえた。いつでも逃げ出せるように身構えながら、おれは男を見た。顔面の裂け目はブラスター銃の熱で焼け焦げている。けれども、裂け目から伸びる触手はニョロリと蠢き、その先についた大きな目玉が俺たちを見た。


 男の体が起き上がった。手を使わず、直立する。人間の骨格をまるで無視したような不気味の動きだった。


「ひどいなあ、いきなり撃つなんて」


 嗄れた声とともに、ばりりと音が響いた。男の脇腹が裂け鋭い刃腕が飛び出した。


「ギ、ギルマニア星人?」


 自分の口から漏れた声は間抜けなほどに震えていた。


「ちっ」


 婆さんが粗野な舌打ちを漏らした。


「擬態型まで7世代装甲付ける時代か。たいぎいことになっとるのう」


 鋭く荒々しい口調で独りごちる。


「そう面倒くさがらなくてもいいじゃん、やっと見つけられたんだからさ」


「われはどこにも情報持って帰れんけぇ一緒よ」


 婆さんは男から目を逸らさずに言った。その手のブラスター銃も油断なく男に向けられたままだ。


「リュウちゃん」


 不意に、婆さんが言った。場違いなほど優しい声だった。


「こいつは婆ばが止めとくけぇ、あんたははよ帰りんさい」


「ああ、それがいいだろうな」


 ギルマニア星人が頷いた。その大天眼が俺の方をちらりと見る。


「余計なことはしないほうが良い」


 ギルマニア星人の脇腹から伸びる副腕が大通りへ続く道をさした。


「何もせず逃げるなら、追いはしない。だが……」


 ギルマニア星人が言葉を切り、その副腕が婆さんをさした。


「こいつをやるのを邪魔するなら容赦はしねえ。お前が何をしようとしても、何かをする前にばらばらに引き裂いてやる」


 ギルマニア星人はそう言ってギラリと刃腕を揺らした。俺の身体はそれで動けなくなってしまった。


「はよう行きんさい」


 婆さんはギルマニア星人を睨んだまま言った。


 俺はゆっくりと足を動かした。店から離れる方向へ。震える脚は、ちっとも力が入らなくて、まるで自分のものでないように感じられた。


 婆さんとギルマニア星人は睨み合っている。でも二人の意識は確実に俺の方に向いている。そんなふうに感じた。


 俺がいなくなってから、二人はどうするのだろう。考えるまでもない。殺し合うのだろう。ブラスター銃と刃腕で。婆さんは勝てるだろうか。不意打ちでもギルマニア星人の装甲は破れなかった。婆さんはなぜ倒れたギルマニア星人にとどめを刺さなかった? 例えばあのブラスター銃が携行性のために連射が効かないとしたら……


 暗い想像が頭に浮かぶ。でも俺に何ができる? 俺はヒーローじゃない。下手な動きをすれば、すぐにギルマニア星人の刃腕が俺を斬り刻むだろう。だったらせめて婆さんの邪魔にならないように、さっさとこの場を去るのが一番だ。


 そのはずだ。


 俺はビビっちまって碌に動いてくれない脚を、少しでも早く動かそうと集中した。少しでも早くこの場を去るんだ。気ばかりが焦る。ヒーローなら、こんな時どうする? あの人なら、Mr.ウーンズなら、あるいはフーカなら……ミイヤなら。くそったれ。緊張した頭にとりとめのない考えが浮かぶ。余計なことを考えるな。


 逃げるんだ。それだけでいい。あと少しだ。あと少しで、間合いから逃れられる。


 そう思った瞬間だった。右の爪先と左の向う脛に衝撃を感じた。


「あ」


 間抜けな声が聞こえる。俺の口から出た声だった。身体が宙に浮かぶ。次の瞬間、俺は地面に叩きつけれらた。


 男が俺を見た。


 刃腕が暗く閃いた。



【つづく】


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