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「サルワ! 隊列を乱すな!」

「はい! すみません!」

 列の先頭でオニルが怒鳴り、サルワが叫び返した。その声はどこか落ち着きがなく、かすれているように聞こえた。サルワが慌てた様子で隣で駆け足をするライアに歩調を合わせようとする。

「おちつけ」

 サルワの後ろ、列の一番後ろで走っていた俺は押さえた声でサルワに語り掛ける。けれどもサルワの歩調はバタバタとぎこちなく、一歩ごとにリズムを崩していく。

「全体! とまれ!」

 オニルが叫ぶ。怒鳴り声に合わせて行進の列は止まる。サルワだけ反応が遅れた。前を走っていたハングラの背中にもろにぶつかる。舌打ち。ハングラが振り返り、サルワを睨む。

「すまん」

 サルワが小さく呟く。俺はハングラに向かって、前を指差す。ハングラはもう一度舌打ちをして前に向き直る。

「腑抜けてんじゃねえぞ、こら、おい!」

 オニルの怒鳴り声が教練場に響き渡り、俺たちの皮膚をびりびりと震わせた。オニルの怒鳴り声を浴び続けて一週間も経つが、未だにその声に慣れることはない。とりわけ怒りに満ちたオニルの声はひどく恐ろしく、俺の心臓を握りしめるように締め付けた。

「おい! サルワ! 今日何度目だ! てめえ!」

「四度目であります! オニル教官!」

「なんで、それがわかってんのになおせんのだ!」

「申し訳ありません!」

 サルワが叫び返す。オニルの疑問と同じ疑問を俺も抱いていた。今日のサルワはどこかおかしかった。いつもならサルワは隊列行進でヘマをするような奴じゃなかった。ちゃんと歩幅と歩調を合わせてそつなく行進をこなしているはずだった。だから、行進が苦手なライアの隣を任せたのだ。

 それなのに、今日のサルワはまったく歩幅も歩調もどちらも合っていなかった。後ろから見ているだけでサルワがどこかうわの空で集中できていないのがわかった。何か全然別のことを考えているようだった。

「もういい! 全員その場で腕立て五十回!」

 大きな舌打ちとともにオニルが叫ぶ。全体への罰則に隊列の間から不平のうめき声が漏れ、恨みがましい視線がサルワに集中した。サルワは気まずそうに下を向いた。

「終わったら、サルワと班長は倉庫までこい!」

 意図せず、俺の口からうめき声が漏れた。サルワに聞こえていなければよいと思う。倉庫でサルワと班長の俺への待ち構えているのは明白だった。

「たらたらするな! 腕立て、開始!」

 サルワが怒鳴る。俺たちは即座に床に伏せて、腕立て伏せを開始した。



「で、どうしたんだよ」

 薄暗い倉庫で、模造の斧を掲げながら、俺はサルワを睨んだ。サルワはまっすぐに斧を掲げたまま、俺の視線から逃れるように斧の刃先を見つめ、ぽつりと言った。

「別に」

「んなわけあるか」

 オニルは俺たちをひとしきり罵倒してから、倉庫から立ち去った。俺たちは懲罰用の斧を持たされて倉庫に取り残された。いつオニルが戻ってくるかはわからないが、サルワから事情を聞くのなら今しかないと思った。

「お前が腑抜けてると、全体に迷惑だし、なにより俺がとばっちりくらうんだよ」

 少し口調を強めて言い、じっとサルワを見る。サルワは何も言わない。じっと斧の刃先を見つめている。俺はため息をついた。

 ふと、このような状況を以前体験したことがあったような気がした。あれは、たしか……。口を開く。

「サルワ、フライング・エイプの友情大作戦は見たか?」

「え?」

 あっけにとられた声が聞こえた。ようやくサルワの目が動き、俺の方を向いた。

 よしよし、と内心で呟きながら、俺は言葉を続けた。


【つづく】

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