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109

 暗い廊下を歩く。足取りは鈍い。脇腹の重みは重量物運搬訓練のときの砂袋よりももっと重苦しく俺の身体を押さえつけていた。滑らかな革で作られたホルスターは体にぴったりと貼りついてこすれもせず、ズレもせず、まるで最初から俺の身体の一部だったみたいにそこにあった。けれども、それは同時に俺の身体に全く別の生き物が貼りついていて血を吸い続けているような不快な存在感を発し続けていた。

 服の上からそっとブラスター銃の輪郭をなぞる。個人の携行しうる武器の中で、最大の火力を誇る武器。並みの銃弾では傷一つつかないギルマニア星人を殺傷しうる数少ない武器。それが俺の脇腹の所でいつか来るかも知れない出番を待っていた。

 銃を撫でた手でそのまま腹を撫でる。そんな「暴力」そのものを身につけているという事実を意識すると腹の中がたまらなく痛くなってくる。

 いつかのことを思い出す。以前ブラスター銃を握ったときのことだ。降池堂で、擬態型のギルマニア星人に襲撃された時のことがあった。あの時、確かに俺は降池堂の婆さんが持っていた銃を拾い、ギルマニア星人に向けた。けれども引き金を引くことはできなかった。その前に助けが来たからだ。でも、もしもそうでなかったら?

 手の平にあの時のブラスター銃の感触が蘇る。重たくて冷たい感触が。あの時俺の手の中にあったのは「破壊」そのものだった。俺がその力を向けていた先は間違いなく敵だった。そこにいたのは擬態型のギルマニア星人で、もしも助けが来なければ、そして俺が引き金を引かなければ、俺も、婆さんも命を落としていただろう。それがわかっている今でさえ、あの時、もしも必要な状況になっていたとして、引き金を引けていたのか、俺は自信がなかった。

 必要だからといって、その恐ろしい力を俺は本当に使えていただろうか?

 そして、今、その疑念は俺自身の目の前に再び立ちふさがっていた。

――可能であれば、そいつを撃ち殺せ。躊躇わずにな

 オニルの言葉が耳の中に蘇る。それは命令だ。従わなければならない。いや、命令がなかたとしても、俺がこのブラスター銃を使うべき状況はいくらでも考えられる。仮にオニルに伝えて、ヒーローの誰かがその擬態型を倒す手筈が整ったとして、それを相手に勘づかれてしまったらどうなる? 先手を取ってギルマニア星人を倒せるのなら、俺は撃つべきだ。撃たなければ、ならない。だが、撃てるのか? 俺は、本当に? 疑問は何度も俺の頭の中を巡る。それだけの覚悟が俺には本当にあるのか?

 俺は肺から息を吐き出した。深いため息だった。ブラスター銃はずっしりと重たく、ホルスターの提げひもが俺を固く締め付けている感触がした。今すぐにでも振り払って放り投げたい気持ちだったが、そういうわけにもいかない。

 もう一度ブラスター銃を撫で、そのまま自分の腹をさする。ぐるぐると吐きそうな不快感が腹にこみあげてきた。これは便所に行くべきだ。俺の本能がそう叫んでいた。のろのろとした歩みになっていた脚を早める。

「うわ!」

「どわひゃあ!」

 廊下の角を曲がったところで、俺は悲鳴を上げた。向こうから歩いてきていた人影と危うくぶつかるところだったのだ。

「おやおや、班長殿ではないですか。どうしたんで? 悪いものでも食ったような顔をして」

 人を食ったような顔で俺を覗き込んで来たのはジジクだった。


【つづく】


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