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「これは?」
俺は驚きを声に出さないように気をつけながら、尋ねた。自分の目が勝手に見開かれるのを感じた。机の上のブラスター銃は危険と暴力そのものの形をしていた。
「ああ、これもいるな」
オニルは俺の質問には答えずに、引き出しから何かを取り出してから立ち上がる。そのまま俺の背後に回った。ぐい、と俺の訓練着の裾がめくりあげられた。
「な、なにを?」
オニルはまた何も言わない。ただオニルの手が素早く自分の腹の周りを動く気配と、なにかひんやりとした柔らかなひものようなものが身体に巻き付くのを感じた。
「よし」
オニルは一人ごちるように頷いた。ぱちりと何かがはまる音がした。
「きつくはないな」
オニルが尋ねる。俺は何もわからないながらに頷いた。実際、巻きつけられたひもは、俺の体をしっかりと締め付けていたけれども、まるで貼りつくように固定されていて痛かったりきついところは少しもなかった。
「はい」
オニルは机の上のブラスター銃を取り上げ、俺の脇腹の辺りの袋状のケースに差し込んだ。俺はそこで初めてそれが銃のホルスターだったということに気がついた。
「よし、服を下ろせ」
オニルはもう一度ホルスターの提げひもをいくらか調整してから言った。俺はおずおずと訓練着の裾を直した。
「ほれ、見てみろ」
そう言ってオニルは部屋の隅の鏡を指差した。鏡に寄って自分の姿を見てみる。ホルスターはあまりにも自然に取り付けられていたので、見ただけでは自分がホルスターをつけていることにさえ気がつきそうになかった。
「使い方はわかっているな? 携行型だからな、一度撃ったら再度撃てるようになるまで少しかかるから気をつけろ」
まあ、それは知ってるだろうが、とオニルは椅子に座りなおしながら呟いた。
「どういうことですか?」
「なにがだ?」
「なぜ、このようなものを?」
「必要になると俺が判断したからだ」
オニルは俺をまっすぐに見つめながら言った。俺はブラスター銃が肌に当たる感覚が気持ち悪くて、服の上からホルスターを触りながら尋ねた。
「なにに必要になるというのです?」
「解っているだろ? 最新の擬態型は第七世代装甲まで身につけうる。個人携行装備で撃破するにはブラスター銃が必要だ」
ずしり、と身体に巻き付いたホルスターのひもが重さを増した気がした。俺は首を振る。
「でも、見つけた際は教官に連絡しろ、と命令を受けていたと思いますが」
「ああ、可能であれば連絡しろ。だが……」
オニルはそこで言葉を切った。立ち上がり、つかつかと俺に向かって歩いてくる。
俺の心臓が痛いくらいに沈み込む。オニルの次の言葉は予測できる気がした。そんなことはありえないと思いながらも、ブラスター銃の重みが俺の思考を縛り付けた。
オニルは俺の目の前で立ち止まり、ブラスター銃を一撫でしてから言った。
「可能であれば、そいつを撃ち殺せ。躊躇わずにな」
【つづく】