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「本当にすげえな、一体何が入ってるんだ?」

 落ち着いた長い気をするようになったロクオを見ながら、俺はサルワに尋ねた。

「薬草と木の皮、それに虫の干したやつだな」

 サルワは平然と答える。どこか得意そうな感情を隠しているように見えた。

「小さいころから集めるのを手伝わされたからな。ヤバいものが入ってないのは確かだぜ」

「そりゃあ、よかった」

 俺は頷き、手の中の瓶をしげしげと見つめた。フライング・エイプの秘薬といえば、ヒーロー活劇定番の便利アイテムだった。現場で怪我をして退いたヒーローがクライマックスで再登場する展開ではしばしばこの薬が使われていた。その実物が自分の手の中にあるのはかなり不思議な気持ちだった。

「本当にあるんだな」

 思いがけず素朴な感想が口からこぼれた。フライング・エイプの秘薬はあまりにも便利すぎて、てっきり作劇の都合でヒーローを一時的に退場させたいときに使われる虚構のアイテムだと思っていたのだ。

「まあ、最近の活劇に出るときはさすがに効果を誇張しすぎてる節はあるけどよ。効果は本物だぜ」

 考えが顔に出ていたのだろうか。サルワは口を尖らせた。

「転んだときとか良く塗られてた。擦り傷にはすげえ染みるんだよ」

 ぶるりと震えながらサルワは膝小僧を擦り、顔を顰めた。俺はその顔がおかしくて笑った。

「もしかしてフライング・エイプって意外と子煩悩なのか?」

「んなことはねえよ」

 からかうように言うと、サルワは口をへの字にまげてそっぽを向いた。

「どこんちだって、子供が怪我したら薬ぐらい塗るだろ」

「それが、たまたまヒーローの薬だっただけってか?」

「そうだよ」

 そっぽを向いたまま頷くサルワに、「悪い悪い」と謝る。フライング・エイプの意外な一面を知れた気がして、思いがけず踏み込んでしまった。フライング・エイプは活劇ではいつも真面目な役どころを務める事が多いのだ。

「やっぱ、父さんに憧れたりとかあるのか?」

 俺は話題を切り替えようと尋ねた。

「ううん、まあそれはあるよ。もちろん」

 どうやらサルワもそこまで本気でへそを曲げていたわけではなかったらしい。サルワはふくれっ面を消して俺の話に乗ってきた。

「小さい時から、父さんみたいになりたいってのはずっと思ってたし。色々教わったり訓練に付き合わされたりもしたしな」

「やっぱり、そうなのか」

 俺は納得して相槌を打った。格闘戦でこそロクオにやや劣るものの、それ以外の訓練――たとえば、障害物訓練や、重量物運搬訓練などでは、サルワはかなり優秀な成績を叩きだしていた。

「うらやましいよ。ヒーロー直々の英才教育を受けられたなんてな」

「しんどいだけだぜ、本当に」

 サルワはため息をついた。いやに実感のこもったため息だった。

「そんなにきつかったのか?」

「何度逃げ出そうと思ったかわかんねえや」

「フライング・エイプから逃げられるのか?」

「もし逃げられてたら、こんなガタイにはなってねえわな」

 サルワはぼりぼりと頭を掻きながら、続けた。

「まあ、今は別に恨んではいねえよ。もし恨んでるならこんなとこには来ないしな」

 そう言ってサルワは「がはは」と笑って、すぐに静かに眠るロクオを見て、慌てて声を落とした。

「で」

 ひとしきり笑った後にロクオは巨大な身体を折り曲げて、俺の方に顔を寄せて言った。

「班長は、どうしてヒーローになりたいんだよ」


【つづく】


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