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第五十一話 舞踏会の夜に咲く花

 サリアの音楽への批判がいよいよ歌うような旋律を帯び、

 それに煽られて彼女への疑念が高まる。


 私が彼女の言葉を遮ろうとしたとき、

 天井からヘビのように垂れてきた黒い腕が彼女を絡めとった。


「冗談でしょ⁉ ここ、貴族の館よ?

なんでこんなのが入り込んでんのよ」


 天井に影のように張り付いた夜鬼。


 魔力の匂いはこっち⁉


 私がこんなに驚いてるのには理由がちゃんとありまして。


 貴族の館には大抵、魔術的防御が施されていて使役されてる

 程度の異界の生物は入り込めない。


 ……はずなんだけどなあ。


 持ち上げられるサリアの手を取ろうとしたけど、

 夜鬼が羽を広げた風圧で吹き飛ばされる。


「サリア、叫ばないで。夜鬼は獲物が騒ぐと傷つける習性がある」


 場合によっては殺してでも黙らせる。


 なぜかって言うと、夜鬼は目がなくて聴覚が鋭い。

 人間の叫び声が耳障りらしいんだ。


「ならもっと耳障りなものくれてやる! サリア、耳塞いで」


 両の手のひらに『轟音』と『波』を綴ります。


 組み合わせればLRADみたいな音響兵器になります。

 指向性を持たせるのが難しく、失敗すると自分も被害にあいます。


 手加減なんてしてられない。

 140dbはいくよ。


 術式の起動と同時に視界が激しく揺れて、

 羽を広げた夜鬼が殺虫剤かかったハエみたいに落ちてくる。


 ちょっと巻き添えでサリアも意識が朦朧としてる。


 私は身体を通って返ってきた音にやられて朦朧としてる。


「か、課題が多すぎる、この術式……。

あ、ちょっと、そこのあなた、警備を呼んで!

おい、逃げんな! 警備を呼べってんだよ!」


 とにかくサリアを救出……救出……


 夜鬼がもう起き上がってる。

 聴覚を潰せば盲目と同じはずなのに。


 ……目が合った。


 目のないはずの夜鬼と目が合った。

 薄笑いを浮かべるように細長く歪んだ目。


 間違いない、カニールの記憶の中で出会ったやつだ。

 聴覚を失っても視覚で対応可能な進化形。


 窓を突き破って飛び出そうとしてる。


「させるか!」


 『鏡面』と『迷宮』それに『歪曲』を窓ガラスに綴ります。


 すると、窓の向こうに広がる歪んだ幾何学的な迷宮が出現します。

 囚われれば永遠に抜け出せない無限の空間です。


 見せかけだけの、トリックアートみたいなもの。


 だ・け・ど・視覚に慣れてない夜鬼には現実そのもの。

 異界から渡ってくる性質のせいでなおさらね。


 窓から飛び出すのをやめて回廊を飛翔して逃げる。


 尾を引くサリアの悲鳴。


 叫ぶなって言ったのに。

 いきなりジェットコースター状態じゃしょうがないか。


 走って追いかけようとしたけど足元がふらつく。気持ち悪い。

 私の魔力的には大きな魔術を連発しちゃったから。


 ああ、夜鬼が逃げる。


 無限の迷宮、ちょっとそのへんまでなんだよ。

 離れられるとすぐに気づかれちゃう。


 急停止して窓の外をじっと見つめる夜鬼。

 マズい、外に出られたら追いかける術がない。


 お? すぐに飛び出さないぞ。何かを待ってる?


 いや、あれは……飛び出せないんだ。


 ああ、そうだよね、こんな騒ぎに彼らが気づかないはずがない。

 私が稼いだのは短い時間だけど、あの妖精たちにはそれで充分。


 窓を突き破って飛び込んできたフィニクスがそのまま

 空中の夜鬼に掴みかかる。


 突き放そうとする夜鬼の腕を握りつぶし、夜鬼の頭部に

 頭突きを繰り出す。


 夜鬼の表皮は金属めいた光沢があるが、感触はゴムのようで

 打撃はほとんど効果がない。


 フィニクスの足に尻尾が巻き付き、あの巨体が床と天井を二往復。

 離れた私が足で感じる衝撃だ。


 あれ、私がやられてたら死んでた。


 でもフィニクスは死なない。フィニクスは不死身。

 叩きつけられながら夜鬼の足を掴み、巻き込んで引きずり倒す。


 やめて、あんたらの間に挟まれたらサリアが潰れる。


「フィニクス!」


 会場から飛び出してきたオーロラが名前を呼ぶと同時に、

 フィニクスは腰に差した剣を鞘ごと投げる。


 緩やかに湾曲した日本刀みたいな剣。


 オーロラが剣を手にした瞬間の、ほんの一瞬。


 私と同じ、細くしなやかで柔らかいオーロラの筋肉が

 鋼みたいに尖った。


 全身の筋肉を連動させた瞬発力は本当に目で追えない。

 稲妻のように、気づくのは通り過ぎた後なんだ。


 どっちが魔法使いなんだか。


 オーロラが駆け抜け、夜鬼の羽が片方切り落とされる。

 逃がさないように、まず機動力を奪う。


 正しい。

 圧倒的に正しい判断だ。


 相手が異界の生物でなければ。


 まるで私の魔術をコピーしたみたいな、意識を寸断せしめる轟音。


 オーロラが膝をついた隙に、

 夜鬼は一枚しかない羽できりもみしながら飛び上がる。


 フィニクスが突き破った窓から外へ、手の届かぬ夜空へ。


 逃げられる。

 サリアを連れていかれる。


「クルス! 追ってくれ!」


 オーロラが怒鳴ってる。さすがに声が男になってる。


「追えったってどうしろっていうのよ?

私、空を飛べるわけじゃないのよ?」


「いいから走れ!」


 言われるままに走って、外に出て気づく。


 月を背後にした夜鬼の、

 サリアを捕まえてる腕が付け根からずれていく。


 羽を切ったのはついで。オーロラが切ったのは腕だ。


 尻尾はフィニクスに引きちぎられてる。

 上空から、月から降りてくるみたいにサリアが降って来た。


「ちょっと、ねえ、嘘でしょ、何してくれてんのよ⁉」


 あんな高さから落ちてくる人を受け止めるなんて無理。

 潰されて大けが、悪ければ死。


 フィニクスは……

 オーロラが膝をついてるから側に待機。


 守護対象の優先順位が残酷なまでに明確。


 どうする?

 得意じゃないけど筋力増強?


 ダメだ、さっき魔力を使いすぎた。


 頭が回らない、身体が動かない、見てるだけなの?

 この役立たずの魔法使い。


「任せろ!」


 暗闇から飛び出してきたあまりにも頼りない影。


 ヒュッケだ~~

 あんたのその体格でヒーロームーブは荷が重い……


 と思ったら、ヒュッケは受け止めるのでなく、

 空中でサリアに横から体当たりするみたいに抱え込む。


 そのまま二人一緒に地面を転がる。


 い、意外と動けるんだ、密輸業者。


 そういえばウィッチハントに追われたときも、

 身軽に馬に飛び乗ってたっけ。


「やるじゃない、ヒュッケ!

下敷きになって死ぬくらいしかできないって思ってゴメン」


「バカやろ、そんな無謀じゃねえよ」


「そのままサリア守って、まだ上にアレがいる」


 上空で魚が泳ぐみたいに夜鬼が旋回してる。


 でもオーロラとフィニクスが揃って駆けつけたら

 さすがに分が悪いと判断したのか、飛び去った。


 状況に応じた判断を自分で下せる夜鬼ってなんだよと

 思わないでもないけど。


 ひとまず安心、ていうことでいいのかな?


 使用人たちや他の警備、騒ぎが起こると噂にせずには

 いられない貴族たちが集まり始めた。


 フィニクスとオーロラが彼らの視線を遮るように立ってくれるの

 非常にありがたい。


「彼女は無事か?」


「ええ、おかげさまでね。ヒュッケのお手柄よ」


「それを言うなら君もだろう。夜鬼の行動をうまく制限した。

それがなければ、僕も間に合わなかったよ」


「そりゃどうも。にしても、夜会が台無しね。

どうやって館に侵入したと思う?」


「外からの侵入は不可能だろうね。だとしたら……

言わなくてもわかるよね?」


「ここで話すことじゃないってくらいには」


「すまない、わからない、説明してくれないか?」


「「後でね」」


 ハモってフィニクスをしょんぼりさせてからサリアの様子を

 見ようとして私たちは息を呑む。


 なにこの近寄りがたい雰囲気。


 ヒュッケに抱えられたままのサリアがじっと彼を見つめてる。


 なんてゆーか、空気がキラキラしてるってゆーか、

 なんだっけ、これ? 久しぶりすぎて名前が出てこない。


 あれだ、邪魔しちゃダメなやつ。


 無造作に近づこうとしたフィニクスの腕を私が掴み、

 オーロラがみぞおちにパンチ。


「……な、なんで」


 膝をついたフィニクスの肩に手を置いてたら思い出した。


 トキメキだよ、この空気は。


 おそるおそる、サリアが口を開く。


「あ、あああの、あああなたの……お名前は?」


「名乗るほどのものではありません」


 外れそうになっていたサリアのヴェールをそっと直すヒュッケ。

 どっから出してきたそのキザな微笑み。


「いや名乗れよ警備責任者。あんたの責任だよ」


「さすがにちょっとイラつくなあ」


 そんな私たちの、若者の恋をやっかむおばさんみたいな声も

 二人には届かない。


 あ、恋って言っちゃった。

 これは恋なの?


 私は何を見せられているの?

読んでいただき、ありがとうございます。

まだまだ手探りで執筆中です。

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