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第五十話 魔力の香りを辿って

 気づいたことに気づかれたくない。


 だから踊り続けながら周囲に視線を走らせ、香りのもとを

 辿ろうと人々の間をすり抜ける。


 ……さすが貴族の皆様。

 多様な香水をご使用になっておられますね。


 もともと魔力を匂いで感じるタイプじゃないし、

 この香りの洪水の中から微かな魔力を感知するのは難しい。


 むしろさっきの一瞬、よく嗅ぎ分けたな。


 やっぱり気のせい?


「これで踊りが苦手とは……ついていくのが精いっぱいですよ。

あなたの得意とはどのような領域なのでしょうね?」


「オルデン卿こそ、踊りが苦手ではついてこられませんよ。

私、楽しくなってきちゃいました」


「興が乗ったところを申し訳ないが、私は限界だ。

それに、これ以上あなたを独占するといらぬ嫉妬を買いそうです。

名残惜しいですがね」


「あら残念。けど、嫉妬が怖いのは私もです」


 別れ際にさりげなく身体を寄せてくるあたり、

 やらしいってわけじゃないんだけど……やらしいんだよなあ。


 さて、次のお相手はっと……


 なんかいかにもダンスバトルを挑んできそうなのが

 待ち構えてたけどスルー。疲れそうだから。


 曲調もゆっくりしたものになったし、インターバルで

 オーロラとペアになる。


「まったく、君はどこでも一番目立たないと気が済まないのかい?」


「そんなつもりじゃなかったのよ、ただ考え事しててね……

その、賭けのこととか……」


「結果は明白だ。何を考える必要がある? 約束は守ってもらうよ」


「わかってるわよ、覚悟する時間くらいちょうだいよ」


「覚悟なんて必要かい? 君次第ですぐ終わるさ」


「意味深……。

あのさ、それよりさっき気になることがあったの」


「あちこち動き回ったのはそのため?」


「気づいてた? 失踪事件の現場にいた子供の記憶を覗いたときにね、

そこにいたやつに魔力で痕跡を残したの」


「他人の記憶に登場した見知らぬ相手に魔力の痕跡を残して、

何か意味があるのかな?」


「あるから話してるのよ。さっき、その痕跡を感じたの」


「なんとも理不尽な話だ。他人の記憶を辿って追跡されるとはね。

それは魔術師なら誰でもできるのかい?」


「それなりのリスクを負えばね。ただ、その子の見たのは夜鬼。

こんなとこにいるはずないから、おそらく使役してる人ね。

そういう道具、あるいは魔術に通じてる人、知らない?」


「手を上げて申告してはくれないだろうね。ここにいる誰もが、

隠すということについては競技のように洗練されてる」


「やな連中」


「魔術師を輩出してる家ならいくつか心当たりがある。

探ってみようか?」


「お願い。私はもう少しこの会場で──」


 嫌な音ってどんなに音楽があっても、人々の笑い声があっても

 響いてくるものね。


 暴力的で支配的だから?


 誰かがオルデン卿に頬を叩かれていた。

 小柄で、最低限着飾ってはいるけれど、顔を隠してる。


「お前は出てくるなと言っただろう」


「ご、ごめんなさい、お父様、私、どうしても会いたい人が……」


「今すぐ、自室に戻れ」


 高圧的な口調に、小柄な女性はさらに縮こまる。


 顔を隠してるヴェールが外れそうになって、隙間から見えた

 ガラス片のような煌めきに見覚えがあった。


「サリア!」


 気づいたときには声が出てた。


 彼女がびっくりして私を見て、恥ずかしそうにうつむく。

 なんであなたがそんな顔しなくちゃいけないの。


 サリアが走って会場を出て行く姿に、私の中でいろいろ繋がる。


 キャスが秘密だって言ってた姉だ。

 サリアはオルデン卿の娘だ。


 外形呪詛で、ずっと存在しないみたいに扱われてきた。


 それがサリアのためでもあるんだろうね。


 会場中の、まるで汚物を見せられたように顔をしかめる人たち。

 彼らはたぶん、サリアを人と認識していない。


 彼女の名前を呼んだ私も一瞬で異端者だ。


 音楽の再開、戻ってくる談笑。

 私に差し伸べられる、全てを忘れることに同意を求める手。


 優しいんだね。

 私がアガートラムだから? 外形呪詛じゃないから?


 ……知るかよ。


 私は彼らの手を無視してサリアを追いかける。


 あ~あ、注意されてたんだけどなあ。

 こういうとこでの評価はどこまでも付いて回るって。


 でも、ここで追いかけなかったらオトに怒られちゃうよね。


 私は助ける人だもの。


「待って、サリア! 逃げなくていい、私だよ、クルス」


「ここ、来ないでください、ああなたに迷惑がかかります」


「おっきな声出せるじゃない。迷惑かどうかは私が決める」


 会場を囲む回廊でおっかけっこ。

 どっちも慣れない服を着てるから走れなくて。


 なかなか追いつけないな。

 仕方ない、アレをやるか……


「あいたぁ、あ、足、足首ひねったぁ」


「だ、大丈夫ですか? 動かないで、すぐに誰か──」


「かかったな。ふふふ、オトを捕獲するために編み出したこの技、

まさかオト以外に使う日が来るとはね」


「なんて大人げない……。

オトはたぶんこれ、引っかかってくれてますよ?」


「え? そお?」


「あの子、だいぶ賢いですから」


「でっしょ~~。わかってるじゃない。気分がいいから

サリアが何しに会場に来たのか聞いてあげる」


「あの……まずそこにすす座りませんか? 廊下でこんな

絡まってたら、へ、へへヘンな誤解を……」


「私とじゃイヤ?」


「イヤです」


 あれ? 妹には効いたのにな。


「じゃ、まあ座ろうか。ねえサリア、何があったか知らないけど、

いきなり逃げるのはやめてよ。傷つくよ」


「すす、すみません、私なんかが。クルスさん、そそんなにがんばってるのに、

台無しにしてしまって……」


「……私、がんばってる?」


「はい! すごくがんばっていらっしゃいます。

すごくがんばっているので、クルスさんを見初める方も

すぐに見つかると思います。す、すごくがんばってるので」


 なんでだろ? 間近でサリアの目を覗き込んで黙らせてた。

 これ一般的に睨んでるって言うかもだわ。


「がんばってないから。男なんか探してないから」


「は、はい」


「よろしい。で、なんで会場に出てきたの?

来るなって言われてたんでしょ?」


「あ、あのあの、学校をユシフに建設する事業をしてる方が

いるんです。どうしても、そその方と話したかった。

外形呪詛の子とそうでない子、ユシフで生まれた子とガンエデン

からやってきた子。みっみみんなが一緒に学べる場にしたくて」


「教育か……」


 本格的な占領事業の一環だけどね。

 教育に理想を抱いている子にする話じゃないか。


「学校ができたらサリアは教師になりなよ。教えるのがうまいし、

向いてるよ。サリアが先生になってくれたら、その学校に

オトを通わせてもいいかな」


「わ、私が先生なんて……おこがましいい」


「めちゃくちゃやりたそうじゃん。オッケー、それじゃあ

その学校の事業に関わってる人を教えて。連れてきてあげるよ」


「ホ、ホントですか? でもどうやって?」


「今日のクルスさんはすごくがんばってるからね。

ちょっと微笑めば誰でも連れてこられるのさ」


「す、すごい、さすががんばってるクルスさん」


「……うん、素で反応されると恥ずかしい」


「えっとですね、ずんぐりしてて首と腕が太くて、赤ら顔で

『酔っ払い』なんてあだ名されたりもするんですけど、教育には

真剣で特に音楽への造詣が深く、全ての教育の基軸には音楽が

あるべしとの考えで、私としては部分的には賛成で……」


 「……名前、教えてくれないかなぁ」


 楽しそうに話してるし、吃音もなくなってる。

 もう少し話させてあげよう。


 サリアの人物評にはときどき毒が混じって面白い。

 彼女は音楽にちょっと偏見があって、曰く、


「なんでも勇壮にしたがる」


 らしい。

 彼女の好きな歴史をなんでも勇壮にされたらたまらない。


 そろそろ名前、教えてくれないかなぁ……。


 あとどうして今なの?

 私たち二人しかいないのに、どうして魔力の痕跡を感じるの?


 あなたが夜鬼を使役してるの?


 あなたが子供を誘拐したの?


 外形呪詛の子供とそうでない子供がともに学ぶ理想を、

 そんなに楽しそうに語るあなたが。

読んでいただき、ありがとうございます。

まだまだ手探りで執筆中です。

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