表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/51

第四十八話 住む世界が違う

 夜が近づくにつれ、肌寒くなってきた。


 背中の開いたドレスなんて薄着すぎるけど、

 これに見合った上着なんて持ってないんだよね。


 それで、さむって言ってちょっと震えたら、

 隣を歩いてたフィニクスがジャケットを羽織らせてくれる。


 ああ……うん、ありがとう……


 ってすっごい小っちゃい声で言ってる私。


「このジャケット、あなたの身分を示すものでしょ?

他人に貸したりするものじゃない」


「無事に送り届けるように言われた。お前が風邪でもひいたら怒られる」


「妖精騎士団の兵長が怒られるって……

もう少し威厳のある喋り方をしたら?」


「なぜそんな離れて歩く?」


 なぜでしょう?


 気づいたら距離を置いちゃってる。

 自分の匂いが気になって、とは言えない。


 前にお風呂入ったの、いつだっけ?


「は、恥ずかしくて……」


 語彙も死んでます。


「何を恥ずかしがる? そんなに綺麗なのに」


「ぐふぉっ」


 フィニクスの声が心臓に刺さる。

 なんでもまっすぐすぎるんだよ、この人。


 ジャケットの裾、子供みたいにぎゅって掴んでる私。ティーンズか。


「顔が赤いな、本当に熱でもあるのか?」


 フィニクスが私の額に手を当てようとする。


 手、でっか。


 思わず避けちゃって、かな~り気まずい雰囲気。

 フィニクスが自分の手をじっと見つめてる。


 怖いとかじゃないの。

 ただ、いま触られるのはヤバいっていうか……


 あれ? やっぱ怖いの?


「すまない、怯えさせる気はなかった」


「ち、違うよ? 今のはなんていうか……その、

緊張しちゃって。こんな服着たの初めてだし、夜会とかも

行ったことなくて」


「そうなのか? らしくないな」


「……私らしくない、か。そうなのかな。

ねえ、フィニクスから見た私ってどんな感じ?」


「聡明で行動力がある。性格にやや難があるが、オトにそそぐ

愛情は本物で、見ていて幸福感を得られる」


「ってノエルが言ってた?」


「…………」


「おい、こっち見ろ。あ、いや、やっぱ見ないで」


「いつものクルスと違うというのはわかる」


「ほう、どういうふうに?」


「そうだな、今日のクルスは……かわいい?」


「それ疑問符つける必要あった?」


「ふふ、それだ。少しいつものクルスに戻ってきた。

俺はそういうお前のほうが好きだ」


 ナチュラルボーン赤面マシーンか、こいつ。


 私が言葉と息に詰まるとちょっと離れたとこから

 黄色い悲鳴のようなものが……


 若い女の子二人が私たちを見て興奮してる。

 目立っちゃってるよ、私たち。


 着飾った女に、長身で黙ってればイケメンの騎士。


 その告白めいたセリフは宮廷恋愛物語さながら。


「違うから、これはそういうのじゃないから!」


「何も違わない。心からそう思っている」


「お前、ちょっと黙れよ。あーもうっ、早く行くよ。

ほら案内しなさいよ、仕事なんでしょ」


 早足で歩きだした私の後を、ドレスが破けないかと

 おろおろしながら付いてくるフィニクス。


 お前もかわいいぜ、と言い返せたらよかったんだけど。


 夜会の会場は主催者の議員のお屋敷。


 うおお、窓ガラスのある邸宅だ。

 まあ、そのくらいじゃなきゃ夜会なんて開けないよね。わかってた。


 槍みたいに長い柄の先にランタンぶら下げた使用人の方々が、

 街灯みたいに並んで立ってる。


 こういうマンパワーでごり押してくる文化には圧倒されるなあ。


「よう、お二人さん、お早いおつきで。オーロラはまだ来てないぜ」


「ヒュッケじゃない⁉ あなたも出席……って格好じゃないね」


「警備責任者だよ。議会承認の夜警なんでね。最近の事件もあるし、

議事堂じゃ抗議集会。そんな中で夜会やろうってんだ。

集まってくるやつらはまともじゃないから気を付けな」


「脅かさないでよ、タダでさえ緊張してるのに」


「お前が緊張? 初対面で俺の顔面蹴り飛ばしたやつが緊張?

冗談は顔だけに……って言えねえとこがたちが悪い。

どうしたんだよ今日は? 本当に女神さまじゃねえか」


「ワイルズの女神は偽物だったのかよ。

あのさ、そういうのいいからどうすればいいか教えてよ。

そもそも夜会って何するの? 踊ったり談笑したり?」


「アホか、人脈作りに決まってる。未婚の男女は見合いだ」


「実利一辺倒だった」


「実利もないのに誰が集まるんだよ。誰もそんなに暇じゃねえ。

てなわけで言葉遣いにも気を付けな。こういう場での評判は

どこまでも付いて回るぜ。言うなれば社会的な死」


「なるほど」


 なんでフィニクスまで一緒にうなずいてんのよ。

 ガンエデンならこんな夜会、もっと頻繁にあるでしょうが。


「夜会も立派な政治の場というわけか。

戦場より恐ろしいとは聞くが、言葉通りの意味だとはな。

クルス、オトのためにも生きて戻れ」


「戦場より恐ろしいからって死にはしないんだよ。

まあ、一応お礼は言っとく。ありがと。このジャケットもね」


 フィニクスはジャケットを受け取り、袖を通すと、

 そっとラウンデルって呼ばれるナイフを持たせようとしてくる。


 だから戦場じゃないんだってば。


「フィニクスの旦那はまるででっかいオトだな。

とはいえ警備に関しちゃ頼りにしてっからよろしく頼む。

おい、あの馬車じゃねえか? クルスの王子様は」


 簡素な一頭立ての馬車がゆっくりと近づいてくる。

 不吉なまだら馬とかどうして使うの?


 生きてるか死んでるかわからないような年老いた御者は

 どうして一言も喋らないの?


 棺桶運んでるの?


「待たせたね、準備に手間取ってしまって。

ああ、クルス、思った通りよく似合う。君を選んで正解だった」


「まさかそう来るとはね」


 降りてきたオーロラのドレスは私のと同じデザイン。

 色は淡いグリーンでスリットが深い。


 美脚自慢は外せないんだ。


「でもいいの? 緑なんて豊穣と処女性の色よ?

男が好きなもののお得セットよ? 賭けは私が勝ったも同然」


「勝負を急くは敗者の常。どうなるか見てみようじゃないか。

フィニクス、クルスを連れてきてくれてありがとう。

あとは警備と称してそのへんをぶらついててくれ」


「命令がアバウトすぎでしょ。あんたたちがどういう集団か、

ときどきわかんなくなるわ」


「警備と称してそのへんをぶらついてる集団だ」


 フィニクスはヒュッケと連れ立って歩いて行く。

 いやヒュッケ、お前は仕事しろ。


「では行こうか、マイレディ?」


「行きましょうか、マイレディ」


 軽く腕を組んでると仲のいい姉妹みたいだ。


 オーロラの恰好のせいか、フィニクスと一緒のときより

 ヘンな感じにならない。


 アレはなんだったんだ……


「まず注意しておくよ。君は僕の従姉だ。アガートラムの話題には

口を出さず、僕が訊ねたときだけ答えてくれ。

男性に君から話しかけるのはダメだ。女性はいい。

ダンスのお誘いは自由に受けていいよ。おススメは適当に踊って

休憩室に行ってしまうことだ。

軽食も用意してあるし、うわさ話に花が咲いてる」


「軽食ってオトに持って帰ってあげてもいい?」


「正気で言ってる?」


「……まっさかあ」


 ホームパーティーとはやっぱり違うみたい。

 口は閉じて、耳と頭を使いましょう。


「エウラリア・アガートラム様、お見えになられました」


 私たちの前で両開きのドアが開き、控えていた一人が

 オペラ歌手みたいな響く声で告げた。


 専門職の匂いがする。


「すっごいざわついてるのがここからでもわかるんだけど?」


「サプライズ訪問だから♪」


「いたずらが過ぎるんじゃない?」


「僕は妖精だからね」


「なん……かぞろぞろ来たよ、叩き出されるよ」


「出迎えだよ。少ないほうだ」


 出迎えなの? サッカーチームの紹介じゃなく?


 執事長(意外と若い)って人が挨拶して、支度室ってとこに

 まず連れていかれて、今度はメイド長(意外と若い)って人に挨拶される。


「奥様は本国に残られましたので本日は代理でご案内を

務めさせていただきます。エウラリア・アガートラム様……

は男性、と聞き及んでいたのですが……」


「見たままさ」


「失礼いたしました。本日はお泊りになられますか?」


「そうだね、用意はしておいてくれ。彼女と同室で。

従姉のクルスだ」


 何言っても失敗しそうだから黙って頭を下げ……かけた私の顎を

 オーロラが指で持ち上げる。


 ああ、頭下げたりしないのね。でも私、

 日本人だから頭下げられると反射的にこっちもお辞儀しちゃう。


 オーロラの手前、誰も言わないけど、この中で私を

 アガートラムだと思ってるのは一人もいないね。


 でも、そんな疑惑の視線もすぐに気にならなくなった。


 案内された会場。


 こっちだけでなく、元の世界でだって見たことないくらい広い。

 壁に並んだ錬金術製の照明は均一な光度を保ってる。


 その明かりに下から照らされた、天井を覆いつくす天井画。


 九柱神の神託と選ばれた九人の巫女たち。

 祝福する人々、闇の中で蠢く邪神。


 見上げてわぁ~~~ってなっちゃった。


 庶民丸出しで。

読んでいただき、ありがとうございます。

まだまだ手探りで執筆中です。

あなたの一押しが支えです。評価・ブックマーク、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ