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第四十七話 大人の階段

 まあ、マリなら喜んでパーティーのお誘いを受けただろうね。


 あの子イケメン好きだし、陽キャだし、

 自分から危険に飛び込むスタイルだし。


 あの能天気のおかげで何度ピンチに陥ったことか……


 何度も救われもしたけれど。


 おかげで私はより慎重になり、人付き合いが悪くなり、

 それはこの十年で磨きがかかってる。


 オトを守るためにも都合がよかったから。


「ヤダ、行かない。パワーゲームはやりたい人だけでやって」


「そんなのじゃない。ただ僕に相応しいパートナーがいないだけだ。

それに君のほうの調査にも役に立つ。ラーコンと知己の議員も

何人も出席する。見ておきたくはないかい? 彼らの顔」


「見たくないわよ、政治家の顔なんて。調査も私にできることは

もうなさそうだし、ノエルに引き継ぐつもり。

そうだ! それこそノエルを連れて行きなさいよ」


「あんないつも不機嫌な愛玩犬みたいな女、

僕の隣にいてほしくない」


「あんたたちって仲悪いの?」


「いや、たぶん互いに一番の親友だ」


「真顔で言ってるのがもう狂気よね。

ノエルでダメなら私なんかもっとダメでしょ、他をあたって」


「君以上の適任はいない。君はオトばかり見すぎて、

自分を見るのを忘れてしまっている。思い出すいい機会だよ」


「人を踏んづけながら言われてもね……」


「おっと気づかなかった。悪気はないんだ、そこに倒れている

この男が悪い。それで、どうかな? 来てくれるかい?」


「本題がまだでしょ。パーティーで何する気?

ぶち壊すのが目的なら協力できません」


「そんなことしないよ。目的はパーティーの主催者さ。

議員の一人なんだが、これがラーコンとは対立してる。

僕がその主催者と懇意にしていたら、ラーコンはどう思うかな?」


「……まったく、恋愛上手ですこと」


「彼は無類の女好きだ。君がいれば夢中になって口が軽くなる」


「どっちかっていうと夢中になるのはあなたのほうに、じゃない?」


「ありえない……と言っても信じてない顔だ。賭けるかい?」


「何を?」


「そうだな……僕が負けたら、つまり彼が僕に寄ってきたら、

君とオトにガンエデン発行の市民証、なんてどうだい?」


「そんなことできるの⁉」 


「簡単さ。その代わり僕が勝ったら、この間の続きだ」


「この間って……」


 頭をよぎるのはオーロラが男だって知った夜の出来事。

 勝手に私の頭の中で展開した情事の予感。


 ああ、思い出すだけで顔熱くなる。


「正気なの?」


「こんなことで冗談は言わない」


 まっすぐ私の目を見てる。

 いつになく真剣な眼差し。


 そ、そんなにか……? 意外だ。

 まだ十代だっけ? 男の子ってそれが普通?


 けど、改めて間近で見て私はその美しさに圧倒されてる。

 反則だよ、その描いたみたいな涙袋さあ。


 だ・か・ら・私は確信してる。

 この賭け、もらった。


「条件は公平に。当日、男の恰好で来るのはなしだよ?」


「バカにしないでもらおう。女装は僕のアイデンティティだ」


「それもどうかと思うけど、そこまで言うなら信じよう。

いいよ、その賭け乗った」


「そうこなくては。さすがはクルスだ。

僕は準備があるから今日はここで別れよう。

夜会用のドレスはワイルズに届けさせる。楽しみにしててくれ」


「あなた、財産を失ったんじゃなかったっけ?」


「エウラリア・アガートラムの財産はね」


「ああ、そういうこと。いくつ名前を持ってることやら」


 別れ際に手をひらひらさせていったのは、別の名前が

 五つはあるって言いたかったのかな?


 たんなる危機管理なのか、最終的には家名に頼らないという

 彼の覚悟の表れか。


「ま、私の知ったことじゃないけどね。それにしても……

重くなったねえ、オト」


 寝てるオトを抱え直す。


 ワイルズで暮らすようになってから食事がよくなって、

 明らかに身体が大きくなった。


 外で遊ぶ時間も日に日に増えてる。

 パン屋さんだけでなく、いろんなことに興味を持ってる。


 そんな成長が嬉しくもあり、寂しくもあり。


 ただ、オーロラが家から離れたようには、私から

 離れないでほしいなって祈るようにおでこをくっつけた。


 ────────────


 それから二日。


 夜警を増やした甲斐があってか、行方不明者は出てない。

 市民の警戒も強まり、外出が減り、当然、商売も停滞。


 それでも議会の反応は鈍く、アンセルの居城をそのまま

 使った議事堂前では抗議集会が開かれた。


 実際はどうあれ、表面的にはガンエデン統治が進んでいた

 ユースフ・ユシフに事件が亀裂を入れ始めている。


 悪意を感じる。


 魔法少女センスだよ。


 市民を分断して誰が得をする?

 どうして議会は動かないの?


「難しい顔してるねえ、せっかくの夜会だってのに。

あんたは髪の色が暗いんだから、表情は明るくしな」


 ゼンドーラが私の髪を結いながら注意してくれる。


 ドレスを着るのを手伝ってくれて、髪を結って

 秘蔵のアクセサリーまで貸してくれた。


「楽しそうね、ゼンドーラ」


「そりゃね、ワイルズの女神が貴族様の夜会を席巻するんだ。

気分もよくなるってもんさ」


「連れが大物なだけよ」


「まさかオーロラがアガートラムの坊ちゃんだなんてね。

うちの人を雇おうとした貴族なのは知ってたけど、

ただのヘンタイじゃなかったんだね」


「変人なのは間違いないよ。付き合わされるこっちは大変。

こんな似合わないもの着せられちゃってさ」


 現在の主流はタイトなワンピース型でスカートが広がってるデザイン。


 胸元が大きく開いて、それを三角のショールなんかで隠していくのが

 モダンスタイル。


 私は隠すほどないんじゃい。悪かったな。


 と言われるのがわかっていたのか、オーロラの選んだのは

 胸元でなく、背中がざっくり開いたデザイン。


 庶民的になりそうな青を、絹を使って光沢のある、深くて

 むらのない高級感のある青に仕上げてる。


 スカートの膨らみは抑えて足長効果。


 悔しいけど、私の身体の特徴を完全に理解したチョイスだね。


「似合わないなんてとんでもない、あんたのために誂えたような

ドレスだよ。こんなデザインも初めて見た」


「やめて、恥ずかしい……。いい年してこんなの着て、

ほんとバカみたい。いい笑いものだわ」


「女盛りが何言ってんだい。もっと自信持ちな、ほら背筋伸ばす」


「女盛りって……さすがにそれは言い過ぎでしょ。適齢期を

過ぎた年増の自覚くらいはありますよ」


「はあ?」


「え?」


「あんたなに言ってんの? 女盛りってのは女が一番綺麗になる

時期のことだよ。十代が適齢期なんて、子供がたくさん産めりゃ

いいって思ってる連中が勝手に言ってること。

愛想笑いしかできない棒っきれに誰が魅力なんざ感じるんだい」


「え、ええ⁉ そうなの? ゼンドーラが言ってるだけでなく?」


「呆れたね、何でも知ってるみたいな顔して

意外となんにも知らないね、この子は。だいたい私だって

結婚したのはつい最近だ。あんたまさか、私が年下に見えてる?」


「えーっとぉ、もしかしたらって……」


「今日じゃなかったらぶん殴るとこだ。

安心しな、あんたはいい女だよ。あんたに足りないのは、

自分を幸せにしたいっていう願望だけさ。

ほい、できた」


 背中を見せるために髪はアップに。

 全身が映るような鏡なんてないから、どんなだかはわかんない。


 でもなんか急に不安と高揚感が襲ってきた。


 こんな大人の着るドレスは初めてだし、

 男の人と夜会なんてのも初めて。


 認めたくはないけど、私の中の一部は十四歳で止まってる。

 知識はあっても経験がない。


 ゼンドーラの合図で男どもが部屋に入ってくる。


「クルス、きれい、ほんもののめがみさま!」


「お、おう……」


「なんだおい、思ったよりずっといいじゃないか。

ゼンドーラにゃかなわんが」


「さいですか……」


 頭が回ってないな。いつもの軽口が出てこない。


 それで……


 ドレスを届けに来たフィニクス。

 彼の目をまっすぐに見られない。


 見ようとすると自分の顔が赤くなるの、わかる。


 なんだこれ?

 うぁ~~~、なんだこれ~~?

読んでいただき、ありがとうございます。

まだまだ手探りで執筆中です。

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