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第四十三話 日用品的魔術

 古着屋のお母さんが話ができるようになるまで時間がかかった。

 泣いたり怒ったりでもう大変。


 ……冬物の服を探しに来ただけなのになあ。


 でもいなくなったのがもしオトなら、って考えると

 やっぱり無視はできないよね。


 古着屋さんの名前はニーリ。

 さらわれた子供は上から二番目の子。


「外形呪詛だったの?」


「ええ、あなたの子ほどじゃないけど全身に……

あ、ごめんなさい。無神経だったわ」


 ニーリは外にいるオトに目を向けた。


 オトは外で他の子と一緒にタライに入って布を踏んでる。

 あーあー、はしゃいじゃって、ただの水遊びになってる。


「わかってる。ユシフじゃ外形呪詛は特別じゃない、そう聞いたから

来たのよ。よその土地じゃいつも認識阻害をかけてた」


「あなた、魔術師なのよね? 調査に来たの?」


「個人的にね。残念ながら協会は調査に消極的なの。

でも、服を探しに来たのも本当よ」


「ふふ、あんな綺麗な服、汚しちゃって。

いいの? 傷めずに汚れを落とすの、大変よ?」


「もらいものですから。いっぱい汚してくれたほうが

贈った人も喜ぶわ。なんなら交換してもいいけど?」


「あんな高価なのはうちじゃ扱えない。それこそ織工組合の

連中がすっ飛んでくるよ。ただでさえ疎まれてるんだ」


「お子さんの行方不明とそいつらは関係ある?」


 ニーリは積み上げた衣類の上に座って、ちょっと考える。

 どこまで話すべきかって感じ?


「口には出さないけど、夫はそう思ってるね。最近の

行方不明の事件に組合のやつらが関わってるってわけじゃなくて、

事件を利用してうちに脅しをかけてるって」


「脅し、かあ……。あなたはどう思う?

そこまでやる連中に見えた?」


「思わないかな。多少の嫌がらせはあったけど、そこまでは……。

私たちみたいなのはどこにだっている。そうでしょ?

でもそれ全部にこんな脅しをかけてるわけない」


「そうだね、それは私もそう思う。だとすると、一連の

行方不明事件に巻き込まれた可能性だね」


「組合を訴えるわけにもいかないから、地域でお金を出して

協会に魔術師の派遣を依頼したのよ?」


「受理されない」


「……そう。夫は毎日嘆願に行ってる。でも私は……その、

他の子たちもいるし、仕事もあるし……」


 だんだんと声が小さくなっていく。

 まるで私が彼女を責めてるみたいだ。


 沈黙は重苦しく、それだけに外で遊ぶ子供たちの声が

 どこまでも軽やかに私たちの周りを駆け巡る。


「ひどい、母親なんだよ、私は。日々の生活を理由にあの子を

諦めようとしてる。夫のやってることもどうせ無駄だって、

バカな人だって思ってる。ほんとひどい」


「いいえ、あなたの言うことは正しい。他の子供たちには

変わらず母親が必要なんです。母親の強さの全てが

優しさでできてるなんて幻想です」


「いやになるね、母親であるために、

母親であることを捨ててるみたいでさ」


 どうしても、お母さんを思い出しちゃうな。


 ニーリが零れそうな涙を指ですくうのを見てると、

 私も泣かないようにぐっと我慢しなくちゃいけない。


 あんまり感情移入しないようにね。

 プロフェッショナルにいこう。


「お子さんがいなくなった日のこと、できるだけ詳しく

聞かせてもらいたいのですが」


「ああ……うん、いいよ。せっかく来てくれた魔術師様だ。

なんにでも協力させてもらうよ」


「四級ですけどね。ああ、見るからにがっかりしてる」


「そ、そんなことないよ……ちょっとだけだよ」


「地味に傷つく。あはは、冗談ですよ。でも信じてください。

こういう厄介事には、それなりに慣れてるんで」


 雰囲気出したつもりだったけど、生暖かい笑顔で返された。


 まあ、若いし威厳ないし、女だし。


「あの夜は雲で月が隠れてて暗かったんだ。風が出てきて、

外で乾かしてたタライとかをね、しまうように頼んだの。

すぐ外だし、今までも頼んだことはあったからね、

何も問題なんてないはずだったのに……」


「場所は? いま子供たちが作業してるとこ?」


「いや、家の裏手だ。表に出しといたら盗まれたことがあってね、

それ以来、裏に持ってってる。周りから見えなくて安全だってね」


「見せてもらっても?」


 ニーリが家の裏口を開けて案内してくれる。


 家の裏手は古い城壁の跡地になっていて、隣家とは距離があった。


 路地から入ってくるには家のそばを通り抜ける必要があって、

 家人に気づかれずに子供をさらうのは難しそうだ。


「子供がいなくなったのに気づいたのは?」


「一緒に出てたカニールが飛び込んできたんだよ。

ヤルルが連れてかれたって」


「ヤルルがさらわれたお子さんね。カニールは?」


「一番上の子。外にいた一番背の高い女の子だよ」


「カニールは連れて行ったのが誰か、見てないんですか?」


「あの子は夜目も効くし、見てるはずなの。でも、どれだけ

聞いても答えてくれない。怖がっているのか、自分の殻に

閉じこもってしまう。夫がキレて殴りそうになって、

それからは聞かないようにしてるわ」


「カニールに魔力はある?」


「ない……と思うけど、どうして?」


「検査したほうがいい。見るものにもよるんだけど、

魔力があるほうがより深く相手が見えてしまって、

ひどいと精神に異常をきたす場合もある。

訓練して自分を守る術を身につけないとね」


「ちょ、ちょっと待って、どういうこと?

あの子が何を見たって言うの?」


「私の見立てだと、異界の生物。おそらくは一定の

知性と目的を持っています」


 表に子供たちがいなかったらすごい剣幕で

 怒鳴り散らされただろうな。


 古くから教主の庇護が厚い土地に住む人にとって、街中に

 異界の生物が侵入するなんてあってはならないことだから。


「ふざけないで、ユースフ・ユシフよ? 異界なんてずっと

寄せ付けずに輝き続ける白の都よ?」


「……残念ながら、アンセル様はもういない。

それに、詳しくは話せませんが、この近辺は異界の

干渉を受けやすい状況なんです」


 ジョンソン・グラヴィスのせいで。

 『生き永らえしもの』に呼びかけ、一部を顕現させたせいで。


「なにそれ? それが本当なら大騒ぎになってるでしょ。

誰も何も聞いてない。なんで四級ごときがそんなこと

知ってるのよ?」


「知っているから個人的に調査してるんです。

そう理解していただけませんか?」


 ニーリは勢いよく表を指さし、怒りに任せて口を開く。


 たぶん、帰れって怒鳴ろうとした。

 でも思いとどまった。


 思いとどまってくれた。


「ごめんなさい、取り乱した」


「いえ、こちらも配慮が足りませんでした。ただ、

調査にはあなたと、何よりカニールの協力が必要です」


「……あの子に何をさせる気?」


「なにも。ただ、その夜のことを思い出すだけです」


「言ってることがおかしいわね。さっきあなたは精神に

異常をきたす、と言ってなかった? それとも今から

カニールに訓練でもする?」


「大丈夫、その必要はありません。思い出すのはカニールですが、

その記憶を見るのは私です。一緒に記憶の庭を散歩する、

くらいに考えてもらえばいいです」


「記憶の庭……。私も魔術師に会ったのなんて数回だけど、

いないよ? あんたみたいに魔術を扱う人。

なんていうか……普通のこと、日常の延長みたいにさぁ」


 そういえば先生にも言われたっけ。

 私は魔術を日用品みたいに扱うって。


 まあ、スマホや自動車がある世界から来てるからね。

 なんとなく魔術っていうのが、技術っていうのと混じってる。


 そして、そんなふうに言われるとちょっと嬉しいんだ。


 こっちの世界に来たとき、何もかも失ってしまったみたいに

 感じたけど、ちゃんと残ってるってわかるから。


 とっておきの笑顔でニーリを安心させてあげよう。


「だって私、魔法使いですから」

読んでいただき、ありがとうございます。

まだまだ手探りで執筆中です。

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