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第四十二話 二人でおでかけ

 ノエルがくれた資料が何を示唆しているのか、

 読み始めてすぐにわかった。


 集められていたのは様々な地域での怪異の目撃談。


 その全てに魔術師か、錬金術師の作った(多くは誤って

 作ってしまった)危険な道具が関わっている。


 テーマは『人が使役しうる異形』だ。


 どうやらノエルはこちらの世界に干渉してきた異界の生物が

 事件に関わっていると考えてるみたい。


 使役と言っても、あんな生物としてのルールが根本から

 違う連中に言うこと聞かせられるわけがない。


 あくまでその生態や習性を都合よく利用するだけ。

 一つ間違えば使役者自身も脅威にさらされる。


 発狂、変質、失踪、死亡。


 使役していたつもりが知らぬ間に相手の領域に踏み込んでいた、

 あるいは誘い込まれた人間の末路は凄惨そのもの。


 今回もそうなら、事件はいずれ勝手に収束する。


 協会の動きが鈍いのは巨大な組織にありがちな傲慢な楽観が

 あるのかもしれない。


 けど、なにか妙なんだよね。


 具体的に何が、とは言えないんだけど……

 この感覚は久しぶり。


 魔法少女時代、何度も感じてきた『悪』の気配。

 深くて暗いところを見えない悪意が流れてる。


 ノエルが資料を渡すという形で協力してくれたのは、

 彼女自身が動けない事情があるのかも。


 だとすればこの資料にははっきりと口にできない

 可能性が隠されている。


 集中だ。


 それぞれの事件の関連性を探れ。

 ノエルが私に何を伝えようとしてるのか。


 集中……集中……しゅうちゅ……


「に、と、く、り、す。よめた! オトね~、こぎつねアレポ

はんぶんくらいはよめるようになったよ」


「すごいじゃない! あれはもうちょっと年長さん向けの

童話なんだよ? 楽しみだな~、オトがもっと読めるように

なったら一緒に協会の図書館に行こう」


「これ、ノエルのかいたの? オトもよみたい」


「これはまだ難しいかな。怖いし」


「こわいのか。そんなのよんでるから、クルスはときどき

こわくなっちゃうんだな」


「それと本は関係ないな。

私が怒るのはオトが悪いことしたときだけ。

そういえばこないだアレポと遊んで泥だらけにした──」


「とら……へぞ……へど……これはむずかしい」


「あ、ごまかしたな、こいつ」


 資料を放り出してオトをギュってしちゃう。


 私が本を読んでるとオトが寄ってくるんだよね。

 最初は構ってほしいのかなって思ってた。


 まあ、それもないとは言わないけど、やっぱり単純に

 私が興味のあることに興味を持ってるみたい。


 それはそれで嬉しいし、誇らしい気分にもなる。


 ただね、私がベッドに座って読んでるとベッドに上がって

 後ろからくっついて肩に顎を乗せて覗き込むの。


 プニプニのほっぺ。サラサラの髪。お日様の匂い……


 集中なんてできるわけないでしょおぉぉぉぉ!

 構いたくなるに決まってるだろおぉぉぉぉぉ!


 むしろ私が構われたいまである。


「ですので今日はおでかけします」


「おでかけ⁉ おみせはいいの?」


「いいの。今日は夜からなの。ワイルズは会合に

出てるからしばらくは帰ってこないよ」


「かいごー……わるいやつらがやる、あの?」


「あ、そういうイメージ? 違う違う。おじさんたちが

集まって威勢のいいこと言い合ってケンカするだけ。

男だけの集まりだから大したことは決まらないよ」


「おとこはかなしいいきものだ……」


「そゆこと。そういうオトは今日は女の子だね」


「このふくな。オーロラがくれた。ひらひらすきだけど

すーすーするのはきらい」


「あんにゃろー、オトを自分に寄せる気だな。

オトは活発で走り回るからこういうお嬢様的なのは……

かわいいですけども」


「かわいくてごめん」


「そうだけどその言い方は違うな。

ユシフの冬はそんなに寒くないって聞くけど、もうちょっと

厚手の服も用意しておきたいな。オトはどんなのがいい?」


「うんとね、クルスがきてるの、それがいい」


「山ガールスタイルか。男の子の古着とか手に入るかな」


「あたらしいふく、つくる?」


「うん、今日はそれを見に行こう」


「やったー! クルスとおでかけ。ひさしぶり」


「よし、そうと決まればゼンドーラに古着を扱ってる

人がいないか聞いてこよう。オトは今日はそのまま?」


「このままでいい。はやくいこ」


 あははは、めちゃくちゃソワソワしてる。


 そういえばワイルズにお世話になってから初めてか、

 オトと二人でおでかけするの。


 我慢させちゃってたかな。

 店の手伝いやアレポと遊んだりとかで楽しそうではあったけど。


 オトだけを見てオトのことだけ考えてる私と過ごす時間が

 ほとんどなかった。


 オトにはまだそれが必要なんだ。

 もちろん私にも。


 ──────────


 この世界にはユニクロも西松屋もない。

 既製服を売るお店自体がないのです。


 買う、となると仕立ててもらうことになるのだけど、

 庶民のやることじゃないんだよねえ。


 服を作るっていうのは家事の一つに組み込まれてる。


 とはいえ子供は大きくなるもの、子供服は入らなくなるもの。

 交換や売買に応じてくれる人はいるのです。


 一から作るよりは直すほうが楽だからね。


 ひさしぶりのオトとのおでかけだからまっすぐ目的地に、

 なんてもったいないことしない。


 知らない道には入ってく。

 猫を見かけたらついていく。

 見たことないものには勝手に名前を付ける。


 オトと一緒に歩いて、

 オトの目を通して世界が広がるのってすごく楽しい。


「クルス! かげにはいったらダメだ!

かいぶつにつれていかれるよ」


「はいはい」


「あのネコね、うちのちかくまでくるよ。

しっぽのかたちがちがうきょーだいがいる。

ひなたでかさなってる」


「よく見てるねぇ。知ってる? 猫の中には

ハイ・キャットっていって、すごい力を持った──」


「クルス、かいだん! へこたれるなよ」


「山道じゃあるまいし、私こう見えてシティガールよ?

私に勝てると思ってるの?」


 負けた。

 なんか最近、息が切れるの早いな、私。


「みて! あのいえ、あおいのがいっぱい。

あおのきょしょうだ!」


「巨匠? もしかして居城?

ああ~、染色もやってるのね。ほとんど店じゃん。

良かったねオト、ここなら好きなのあると思うよ」


 一見、普通の民家だけど屋根から張った紐に青や緑で

 染めた布が干してある。


 家の前では子供たちがタライに何かの液体と布を

 入れて交代で踏んでる。


「遊んでるんじゃないからね。みんなお仕事してるの。

邪魔しちゃダメだよ」


「しごとかー。パンをつくるのもたのしかったが、あれもいい。

しごとってたのしいな」


「あんたが大人になっても、そう言えることを祈っとく」


「あなたたち? うちを探し回ってるってのは。

組合のやつらじゃないよね? 染色は趣味だから」


 家の中から女の人が出てきた。意外と若い。

 あれ? 私より下? そんで三人も子供いるの?


「そうなの? 奇遇だね、私も趣味でポーション作ってる。

今日はこの子に冬用の服が欲しくて来たんだけど、余ってない?」


「そんな綺麗な服着てるのに、新しいのが欲しいの?」


「ああ、欲しいのは男の子用。ちょっと大きめがいいんだけど」


「ふうん、子連れの魔術師……ね。しかも外形呪詛」


「何か問題?」


 怪しまれてる?

 わりと年齢も近いし、共感してもらえると思ったんだけどな。


 警戒に近い反応。オトを見る目が何かヘンだ。

 

「もうひとりはどこにいるの?」


 オトがきょろきょろしてる。

 もう一人って誰のこと?


 でも古着屋さんはすごいビックリしてる。

 目の奥から必死に押し殺してたものが溢れてくる。


 希望だ。

 諦めきれない喪失の回復。


 あ~、これはやっちゃったかもしれない。


「あの子を、あの子を知ってるの? どこで見たの?」


 オトに掴みかかろうとする古着屋さんを押しとどめ、

 悪魔を見るみたいに私を睨む彼女をなだめる。


「落ち着いて、これはそういうんじゃないから。

オトは何も知らないの」


 初めて来る場所。

 初めて会う人。


 それなのに誰かが足りない気がする。


 それはこれから生まれる人かもしれないし、

 すでにいなくなった人かもしれない。


 オトは異界が絡むと、そのいないはずの人の気持ちや声を

 感じてしまうことがある。


 つまりここが、子供をさらわれた家だ。

読んでいただき、ありがとうございます。

まだまだ手探りで執筆中です。

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