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第四十話 給仕の終わりと魔術師の始まり

 それからサリアはちょくちょくワイルズに来るようになった。


 最初は強引に誘って、でも徐々に自分から来るようになり、

 私が働いてる間にオトの勉強を見てくれたりもした。


 彼女はやたらと歴史に詳しく(陰の者だ)、

 言語学、とくに罵倒用語に精通(陰の者だ)。


 罵倒用語はともかくとして、歴史や言語の知識は私も乏しくて

 不安があった。


 お昼の時間が終わって準備中の間は一緒にサリアの授業を

 受けたりしてる。


「──それ、で、ですね、近年ナイアが失踪し、アンセル様が

囚われたことで、現在も教主の座にあるのは五人と

なりました。ただ、『全盲のハン』は長年、姿を見せておらず、

執政官のイグニスがクナヤンの実質の指導者です」


「じゃあよにんだね、きょーしゅさま」


「ナーガとイェブルの双子は二人でアロウザを

統治してるから、実質三人かなあ。ねえサリア、ミトラの

ウルターが代替わりの時期を迎えてるっていうのは?」


「こ、こ公式発表はありませんけど、頻繁にティタニア様と

連絡を取り合っているという噂はあります」


「テタニアさまとーウルターさまはなかよし?」


「……でもないかな。

当代のウルターは父親をティタニア様に殺されてるからねえ」


「テ、テタニアこわいひと?」


「怖くもあり、優しくもあり。人によってまったく違う

見方があります。肖像画も二種類あって、絶世の美女の

ティタニア様と人とは思えない醜いものがあります」


「オトはやさしいひとがいいなー。

サリアとかオーロラとかノエルみたいに」


「あれ? 私は?」


「先入観を抱くのはいけませんよ、オトくん。

結局のところティタニア様に会ったことのある人なんて

そうはいないんですから」


「それあなたが言う?」


「よしクルス、あいにいこう」


「ムリだっつの。

軽く世界でも救えば会ってくれるかもよ」


「よしみんな、せかいをすくうぞ」


「まずは世界がきき危機になってくれないとですね」


「どうすればせかいがききになる? クルス、かんがえて」


「私が考えんの? なんだろ? 月を落っことすとか?」


「そっかー、でもそれはおつきさまがかわいそうだ」


「月にいる人も困っちゃうね」


「やめとけクルス、そこまでしてテタニアさまにあうことない。

クルスにはオトがいる」


「誰が最初に会いたいって言ったんだっけ~?」


「お前ら、何の話をしてるんだ?」


 店の入り口にでっかい影。

 ガザフじゃん。


 つい先日、お店で殴り合った相手だけど、

 互いに遺恨はない……と思いたい。


「何しに来たの? まだ準備中だよ」


「すいやせん、姐さん。ヒュッケのアニキの使いです」


「……姐さんはやめて」


「あ、失礼しました。クルスの姐御」


「やっぱり姐さんで」


「はあ、姐さんは坊ちゃんのお勉強ですかい?」


 ……姐さんに坊ちゃん。


 いつから私たちはヒュッケ一家になった?

 どこで間違えた? オト、喜ぶな。


「歴史の勉強。用があるなら後にして。サリア、続きを──」


「サリアにげた。にかいにいったよ?」


「あっれえ⁉」


「すいやせん、ワイルズに用があるんです。あいつはどこに?」


「ワイルズなら奥。ねえーワイルズ、お客さん!」


「ああ? ガザフじゃねえか。

お前に食わせるもんはねえ。エッダのパンでも食ってろ」


「俺も自分で食うならセルローのだよ。んなことよりだ、

今日は大事な話があって来た」


「俺じゃなくてヒュッケに相談しろ。アニキだろ?」


「そのアニキが言ったんだよ。お前らと相談しろって」


「ケッ、お前はいくつになっても他人の指示がなきゃ何にも

できねえな。昔から図体ばっかデカくてよお……」


「チビのくせに誰とでもケンカしてたお前よりマシだ。

少なくとも俺は何もしてねえ市民を手にかけたりは──」


「それ以上言ってみろ、ぶっ殺してやる」


 なにこの二人? 昔からの知り合いだったの?

 しかもなんだか物騒なこと言ってる。


 ワイルズ、顔しかめて私たち見てる。

 きっと知られたくない過去なんだろうね。


「はいはい、ケンカしに来たんじゃないなら話くらい

聞いてあげなよ。ガザフ、何か食べる? 私が作ったげる」


「はい! どーなつがいい」


「おっと、おやつの時間か。

こっちの坊やたちもそれでいい?」


 二人はしぶしぶうなずいてる。


 この世界のドーナツの発明者はもちろん私。

 今じゃワイルズのちょっとした名物。


「んで、話ってのはなんだ? まあだいたい想像はつくが」


「やはりそっちでも問題になってたか。

ここんとこ、市内で行方不明者が続出してる件だ」


「最初は貧民だけだったが、徐々に範囲が拡大してきてる。

夜警を増やしてくれって要望がきてるな」


「それがな、行方不明者は前から増加してたんだ。

ただ外形呪詛がほとんどだったから、ガンエデンの連中は

無視してたってわけだ」


「クソどもが。何でここにきて問題に?」


「さすがに子供も消えたとあっちゃあな……」


 みんなの視線が最初のドーナツ頬張ってるオトに向く。


 ……いや隠さなくても取らないから。


「そういえば、魔術師協会でもベビーシッターとか

子供の面倒を見る依頼が多く出てたわね」


「不安を感じてる市民はたいぶ前からいたってことだ。

……ん? 姐さん、魔術師なんですかい?」


「ヒュッケから聞いてないの?

四級だけど、協会所属のまっとうな魔術師だよ」


「なら話は早えや、姐さんも夜警に協力してくださいよ」


「魔術師としての仕事は協会通してね。後からうるさいんだから。

ワイルズ、お店にはあんまり出られなくなるけど、いい?」


「忙しいときだけでかまわねえ。俺も夜警で忙しくなりそうだしな」


 別に今すぐ忙しくなるわけじゃないのに、

 二人して張り合うようにドーナツ食べてる。


 たぶん、この二人の関係は悪くない。

 悪くないどころか強い。兄弟とか幼馴染みたいに。


 でも、過去が関係を壊した。


 そんな二人の関係を一時でもつなぐドーナツ。


 すごい。

 魔法って意外とそこら中にあるものなんだよ。


「ねえ、ヒュッケとも直接、話したいんだけど

どこに行けば会える?」


「アニキですか? 今日はあのオーロラって女が来て、

なにやら二人で出かけちまい……

ああ! しまった、これ修羅場的なやつだ」


「おちつけガザフ、クルスはれきせんだ。

しゅらばなんてなれっこだ」


 うん、確かに歴戦だけど意味違う。


「そ、そうなんですかい? ヒュッケのアニキもひでえなあ。

こんないい女ほっぽって他の女のとこ行っちまうなんざ」


「ありがとう、ツッコミどころが多すぎて追いつかん」


「直接、話したいならいい方法があるだろお?

ヒュッケだってその気にさせりゃ入るとこ入るさ」


「ワイルズ、めがスケベ」


「ご飯作るのうまいからね~。オトは二階に行ってサリアと

お勉強の続きやろっか?」


 残りのドーナツあげたら喜んで上がってった。

 サリアにもちゃんと食べさせてね。


「さて、と。じゃあ私も人に会ってくる。

そんな期待に満ちた目をすんな。浮気現場に凸するわけじゃないから」


「ご一緒しますか?」


「あんたはどういう立ち位置なわけ?

いいよ、一人で。魔術師の知り合いだから」


「わかった、オトは俺とゼンドーラで見とく。

なるべく外には出さないようにするよ」


「うん、そうして。

サリアにも暗くなる前に帰るよう伝えておいて」


 店から出る前にくるっと振り向いて二人に笑いかける。

 外からの光を背景に、くらえ! 必殺ウインク。


「そうそう、あんたたち、そうやって同じ方向見てるときの

ほうが断然カッコいいよ。その調子でね」


 こういう子供っぽい男にはカッコいいが効く。

 どの世界、いつの時代でも。


 二人が仲良く見惚れてくれたから気分よく外出できた。


 オーロラたちも動き出してる。

 政治が絡むとこういう事件は複雑化するからなあ……


 議席の獲得に影響が出ないうちに事件を収束させたい。


 ……と言っても私にそんな力はない。

 できることと言えば、一級魔術師様をその気にさせるくらいだ。

読んでいただき、ありがとうございます。

まだまだ手探りで執筆中です。

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