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第四話 そうして私たちは旅に出る

 翌朝、記憶を失ってぼんやりしてる三人組が

 村の中で保護された。


 二人は腕に大けがを負ってて、

 大きな町まで治癒士を呼びに行ったんだって。


 治癒士が必要なのはこっちもだけどね。


 貴重な治癒符を胸に貼ってるから、

 息をするのも苦しいってのはないけど。


 もちろん、あの三人と前日に一緒に仕事をしてた

 私も話を訊かれたよ。


「クルスちゃんは大丈夫だった?

あの連中、どこかで呪いでももらったんだよ。

最近はああいう魔女への畏敬を失ったのが増えたわ。

なんでも記憶までなくしてたんだって?」


「え~~、うそぉ~こわ~い。

私は昨日、ずっと家にいたけど何もなかったよ。

赤い月の夜は魔物が出るっていうし」


「そうそう、それでいいんだよ。

クルスちゃんは賢いね。おばちゃん好きだよ。

私そっくりの美人だし、お嫁においで」


「あははは、それみんなに言ってる。

そんでさ、おばちゃん、子供用の巡礼服ってある?」


 通称おばちゃん

 ──そういや本名知らないや──

 手先が器用でいろんなものを自作する人。


 お店じゃないんだけど、いろいろと物々交換してくれる。


 山ガールのクオリティもおばちゃんの指導の

 おかげでかなりアップした。


「子供用ってあの子のかい?

えっと……あれ? また忘れちゃったわ」


「覚えにくい名前だからね」


「巡礼に出るの?」


「そんな寂しそうな顔しないでよ。

ただの雨よけ。

あの子、雨の中でも平気で外で遊んでくるから」


「はは、そういうことかい。

いいよ、息子が小さいときに作ったのでよければ」


「もちろんだよ、ありがと。

お礼はポーションでいい?」


「ああ、助かるよ。

あれ飲むと腰が楽でねえ。目まいもしないし」


「私、治癒士でも錬金術師でもないから

脱法ポーションだけどね」


「そんなのこんな田舎で誰も気にしやしない。

クルスちゃんのは他よりよく効くよ」


「それはよかった。

じゃ、今度持ってくるね」


 おばちゃんが出してくれた巡礼服を鞄に入れる。


 今日は珍しくローブを着てるってくらいで、

 いつも通りのやりとり、

 いつも通りの笑顔だったはず。


「クルスちゃん」


 急に呼び止められた。


 振り向くとおばちゃんがいつになく真面目な顔で

 私をまっすぐ見てた。


「どしたの?」


「……なんでもないよ。またおいで」


「ポーション持ってくるって」


 なんか顔に出ちゃってたかなぁ……

 嘘つくのが初めてってわけでもあるまいに。


 私を見かけると、みんな走ってくるんだよ。


 大丈夫かって。

 二人とも無事かって。


 名前も思い出せないのに、

 オトのことまで心配してくれるの。


 この村、当たりだと思ったけど違ったな。


 居心地がいいと長居しすぎちゃう。


 急にいなくなったら、みんなどう思うかなって

 気になってしまう。


 ────────


 野菜とかいっぱい持たされて遅くなっちゃった。


 オトがへそを曲げてる心配は……

 ないかな。


「オト~、帰ったよ~。

今日はね~、お野菜とかいっぱいもらったんだよ。

ロールキャベツ、作ったげよっか?」


 朝と変わらず、部屋のすみっこで丸くなってる。


 私命名、『石のポーズ』

 泣くより強い抗議の意思の表れです。


 すねちゃってるんだよ、これ以上ないくらい。


 ロールキャベツにも無反応ときたもんだ。


「もうそろそろ機嫌なおしてくれないかな?

こういうの、初めてじゃないんだし」


 無・視♡


 ええい、負けるか。

 全弾発射だ。


「ほらこれ、おばちゃんのとこで新しい服、

もらってきたよ。着てみたくない?」


 ふふふ、オトはすぐ汚しちゃうくせして

 新しい服が好きなのだ。


 ほ~れ、頭が出てきたぞ~

 もう石じゃなくなってるぞ~


「いらない」


「な……んだと」


「だってそれ、とおくへいくふくでしょ。

きたくない。いきたくない」


「う~ん、どうしてかな?

私と一緒にいろんな場所に行くの、

楽しくない? キレイなものいっぱい見られて

私は好きだけどなぁ」


「ヤダ、いかない」


「オトォ~~」


「ぜったいいかない! クルスひとりでいけ!」


 そりゃ私もカチンときますよ。


 それじゃ意味ねえんだよ、

 誰のためだと思ってんだよって。


 子育てに正解なんかないけど、

 子供が怒鳴ったからってこっちも怒鳴るのはNG。


 それくらいはわかる。


 子供をコントロールするっていうのは、

 自分をコントロールすることでもあるんだ。


 ってお母さんならきっと言う。


 ふううぅぅぅぅぅ…………


「ゴメンね、オト。

私がバカやっちゃったから、

ここにいられなくなっちゃったんだ」


 石のポーズ最大の弱点。


 それはスキンシップから逃げられない。


 足音忍ばせて近寄って、丸まった背中をゆっくりと撫でる。

 ピンって張った背中が柔らかくなるまで。


「オト、ここがすき……」


「うん、そだね。オトを連れて歩けるって珍しいし、

森もいい匂いするし」


「おいしいヘビ、いっぱいいる」


「……ヘビは食わんでくれ、頼む」


「あのおじさんたちにみつかったから?」


「まあ、そうだね」


「ドリルがやっつけたよ?」


「また来るかもしれない。

そのたびにドリルでやっつけてたら、

遠くにいる本当に怖い人たちに見つかっちゃうの」


「ドリルでもダメ?」


「あ、スターナイトをバカにすんなよー。

スターナイトに勝てるのなんて、

後にも先にもサンライト一人だけ。

でもね、その怖い人たちをやっつけたとしても、

私が無事でいられるかわからない。

そしたらオトと一緒にいられなくなっちゃう」


「クルス、いなくなっちゃうの?」


 オトが飛び起きた。

 すかさずハグ。


「いなくならないよ。

オトとずっと一緒にいたいから、

だからドリルはあんまりやりたくないの」


 なんか騙されたみたいな顔してるけど、

 もう怒ってはいないかな。


 私のこと、一回ぎゅってしてくれた。


 お、なんだ? 自分から巡礼服を着るぞ。

 前後逆だぞ。

 頭が出せなくて、うっくうっくってなってるぞ。


 ちくしょぉぉぉぉ!

 なんでスマホないんだよぉぉぉぉ!


 おいみんな見てくれ、

 うちのオトが宇宙一かわいいぜ。


 ってできないじゃんかよぉぉぉぉぉ!


「ひとりでできた」


「うん、一億点。袖と裾、ちょっと直すか」


「よくかんがえたら……

オトはクルスといっしょならどこでもたのしかった」


「私もだよ」


「きょうはロールキャベツ?」


「しっかり聞いてやがったな」


「ヘビもいれる」


「私と一緒にいたかったら入れないで」


 てわけで夕飯はヘビなしロールキャベツ。

 夜は抱き合って一緒に眠った。


 扉が壊れたままで寒かったからね。


 ────────


 出発は早朝を選んだ。

 快晴ってわけでもないけど雨はなさそう。


 必要なものだけをリュックに詰めて、

 私は修繕した山ガールスタイル。


 オトは巡礼服に長旅用の杖。


 もとは魔術協会から支給されたスタッフなんだけどね。


 あんまり使わないから切って削って

 オト用の杖にしちゃった。


 純白ってほど綺麗じゃないけど、白い巡礼服のフードをかぶり、

 杖を持ったオトは小さな魔術師みたい。


 二人でまだみんな寝てる村の中をゆっくりと一回りした。


「スケベおじさんのみせやってる」


 なんでかそういうのはすぐ覚えるんだよな。

 完全にいかがわしい店だよ、それ。


「パン屋さんね。あ~、今日は礼拝日だから

パンとかお菓子とかいっぱい作ってるのか」


「おじさんのパン、おいしい……」


「あんた好きだもんね、ここのパン」


「スケベはパンつくるのうまい?」


「要検証。よし、今日は好きなの買いな」


「よーけんしょー!」


 突撃したオトの後から店に入ると、パンを並べてたおじさんが

 驚いてパンを落としそうになってた。


 でも私たちの恰好を見てすぐに察して、

 あろうことか涙ぐんでる。


 やーめーろーよー


「そっか、巡礼に行くのか」


「うん、まあね。

帰ってくるのはいつになるかわからない」


「おー、この子だ。えと、名前は……」


「オトだよ。オト、おじさんに挨拶」


「おはよーございます」


「おう、おはよう。これから長旅だな。

ようし、いま焼けてるの全部もってけ」


「そんなのダメに決まってるでしょ。

食べられるだけ。お金は払うよ」


 私は銀貨一枚と半分をカウンターに置いた。

 追跡魔術がかかってるコイン。


 魔術の使用者はもう記憶がなくなってるけど、

 手元には置いておきたくない。


 おじさんはびっくりして目を丸くしてる。


「クルスちゃん、こいつは多すぎる」


「これでみんなに振舞ってあげて。

私からの感謝の気持ち」


「クルスちゃん……」


「おじさん、ないてる。どこかいたい?」


「心がな。元気でな、二人とも」


 誰にも会うつもりはなかったけど、これくらいならいいでしょ。


 オトも嬉しそうだし。


 それから一軒一軒回って、

 持っていけないものを家の前に置いてった。


 ちょっとしたサンタ気分。


 もちろんおばちゃんの家の前には、

 作ってあったぶんのポーションを全部。


 こういうの断捨離っていうんだっけ?

 ちょっと違う?


 でもすっきりする。


 夜に未練たらたらの月と、

 寝坊すけの太陽に挟まれて、

 焼きたてのパンを頬張りながら、


 そうして私たちは旅に出る。

読んでいただき、ありがとうございます。

まだまだ手探りで執筆中です。

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