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第三十七話 飲み明かした朝に

 う~~~~、頭痛い。

 オーロラが朝まで飲み明かそうなんて言うから。


 ……なんで付き合うかな、私。


 店内もひどい有り様。

 ワイルズにも迷惑かけちゃったな。


 床には死屍累々……

 かと思ったらみんな綺麗にいなくなってる。


 最後の記憶だとまだみんな一緒に飲んであんなに騒いでたのに。

 お酒強いなあ、ユシフの民は。


 ヒュッケもいない。

 残ってるのはこいつだけ。


 オーロラ。


「ん? あれ? なんでオーロラがそれ着て……」


 オーロラが私の服着てる。


 テーブルに突っ伏して涎垂らしてるのに横顔が

 銀河級に綺麗なのは反則。


「んで、私がオーロラの服着てる……。

あれ~、いつ脱いだ? まさか踊った? ウソでしょ~。

ダメだ、私、ぜったいお酒やめなくちゃダメだ」


「うるさいな、気持ちよく寝かせてくれないか?

こんなにゆっくりできる朝はそうないんだ」


「あ、起きた。ねえオーロラ、

なんで私たち、服を交換したか知ってる?」


「なんだ、覚えてないのかい?

昨日はあんなにお楽しみだったのに……たぶん」


 うん、こいつも覚えてないな。

 その服着てるの、なんでちょっと嬉しそうなんだよ。


「あなたもお酒には気を付けたほうがよさそうね。

片づけ手伝って。このままだとワイルズに怒られちゃう」


 食器の片づけと床の掃除。

 名家の当主って立場からは想像できないほどオーロラは手際がいい。


 顔、洗いたい。

 水を飲みたい。

 朝食は?


 作業中、ずっとうるさいけど。


「朝飯を出してもいいが、その前に支払いだ」


 ワイルズが裏口から入ってきて水差しをカウンターに置いた。


 腰にエプロン巻いて、もうお仕事モードだ。

 いつ寝てるの?


「支払い? ノエルがしていったはずだけど?」


「お前ら三人のぶんはな。

けどお前、昨日ヒュッケのおごりとその後のみんなのぶん、

全部持つって言っただろ? なんかの祝いだとかで」


 なんで騙されたって顔で私を見る?

 知らないよ。そもそも記憶もないわ。


「いいじゃない、そのくらい。名家でしょ?

お金、持ってるんでしょ? ゴチで~す」


「僕を侮らないでもらおう。金になど興味はない」


「興味なくても払えよ。社会のルールです」


「手持ちがない」


「お屋敷に取りに戻れば? 待っててあげる」


「屋敷もない」


「はあ?」


「殉職者の家族への補償で家財は全て売った。

今ごろあの屋敷には私腹を肥やした議員の誰かが

住み着いているだろうさ」


「も、もしかして、あんた……」


「言ったろ? 金になど興味はない」


「り、立派だけど、ぜんぜん立派じゃないことを

よくもまあ、そんな誇らしげに……」


「なんならここに泊めてもらうつもりでいた」


「だから置いてかれたんかい」


「つまり僕は今、君に扶養されている。

ならば僕のつけは君のつけにもならないか?」


「偉そうに借金肩代わりさせようとすんな!

私のつけになるわけないでしょ。とっととノエルに借りてこい」


「ふふっ、うまい冗談だ。彼女が僕に貸すわけない。

僕が奴隷として売られていても目も合わせないね」


「ダメだー、こいつもダメなやつだったー。

妖精騎士団は本日をもってサービスを終了させていただきます」


 私たちの前に水の入った桶と雑巾がドカンと。

 このときばかりはワイルズが鬼に見えた。


 オーロラもちょっとうつむいた。


「おい、クルス」


「……はい」


「こいつに仕事教えてやれ」


「……はい」


 てなわけで従業員が増えたよ♪


 言われた通りに黙々と働く妖精騎士団特務隊隊長。


 それにしても隊長不在で誰も迎えに来ないって……

 特務隊、どうなってんの?


「あ、オトおはよう。

これ終わったら一緒に朝ごはん食べよ」


 二階から降りてきたオト。


 髪に櫛を入れてあげないと。

 それに、今日はちょっと寒いから上着も欲しいかな。


 あれ? 挨拶ない。そっぽ向いちゃった。


「オトはおこってる。クルスとはしゃべらない」


「え? なんで? 私、何かしたかな?」


「きのう、さんすうがんばったのに、みてくれなかった。

クルスはオトよりおさけがすき」


 心臓握りつぶされた気分。


 やっちゃった~~!

 こともあろうにオトとの約束をすっぽかした。


 最低だ、私。児相でフルボッコにされるやつだ。

 むしろされろ。


 なにが最低って、こんなに打ちのめされてても、

 すねてるオトがかわいくて顔がにやけること。


「ちょっと待って、ね? 昨日は仕方なかったの。

ヒュッケと大事な話があって、オーロラとも──」


「ひとのせいにするの? そういうのいけないとおもう」


「喋ってるね」

「喋ってるな」


「あのさ、二人でこそこそしてないでフォローしてよ。

とくにオーロラ。誰のせいでこうなったのよ?」


「オト、顔を洗っておいで。一緒に朝食にしよう。

算数は僕がみてあげるよ」


「うん!」


 ああ、オトがあんなに嬉しそう。

 フォローってそういう意味では……


「オ、オト? あとでアレ作ってあげよっか?

プリン。お詫びにさ。それで一緒に算数を──」


「クルスとはしゃべらない」


 行っちゃった……。

 アレポのふうやれやれって感じの鼻息が追い打ち。


 ダメだ。朝イチで今日が終わった。

 何もやる気出ません。カウンターにぐったりです。


「マスター、強いのちょうだい、ボトルで」


「誰がマスターだ。仕込み手伝え」


「ムリに決まってるでしょ、働ける状態じゃないの見てわかんない?

私をなんだと思ってるの?」


「俺が雇ってる給仕だな」


「はたしてそうかな?」


「そうだよ。とっとと手伝え」


「まあまあ、オトには僕がとりなしておくから元気だしなよ。

マスター、卵は固めで。半熟などもってのほかだ」


「誰がマスターだ。お前も手伝うんだよ」


「はは、僕は終生、他人の作ったものを食べて生きると決めている」


「その覚悟、買った。今日は私もそれで」


「お前ら、まだ酔ってんのかぁ?

寝起きのゼンドーラよりたちが悪りぃ」


「それ、ゼンドーラに伝わるのがいやなら、朝食はお早めに」


「クズども……雇うんじゃなかったぜ」


 オト、私と同じテーブルで食べてくれない。

 ゼンドーラ、従業員が増えてるの気にしてもいない。


 なんだか十年前からこんな感じでしたって顔して

 みんなで朝食をとってる。


 急に家族が増えたみたいで落ち着かないなぁ。

 うち、母子家庭だったし。


 マリの家は二世帯で兄妹が三人。

 泊まったときの朝は戦争でも始まったかと思ったよ。


 同時に、私にこんな生活は合わない。

 死ぬまで無縁だろうって勝手に決めつけた。


 ……悪くないじゃん。


 オトもうっかりいつもみたいに話しかけてくるし。

 効果的なプリンの投入で早期の関係回復は容易とみた。


 ちゃんと笑えて、穏やかな気分で、家族を感じてしまった。


 元の世界にお母さんを一人で残してることに、

 罪悪感を感じてしまった。


 それをしっかりオーロラに見られてるっていうね……


 視線、感じるんだよね。

 目力強すぎだよ、オーロラ。


 仕事の合間とか、洗濯してるときとか、

 緩衝帯に抗魔符縫い付けてるときとか。


 監視というより観察って視線。


「あのさ、もしかして私のこと、まだ疑ってる?」


「疑うって……何をだい?」


「調査報告書のこと。あの場所で私がアビスを……

これ名前言っちゃダメ?」


「ダメだね。

君に尋問まがいのことをしたのは悪かったね。

あのときの僕は、なんというか……」


「自暴自棄?」


「そこまでじゃない。ただ答えを焦ってた。

ノエルにも言われたし、

今は君がアレをどうにかしたなんて思ってない」


「報告書通りよ。自壊した。術式が不完全だったの」


「君やオトと一緒にいると、そうであることを願いたくなるね」


「じゃあそんな目で見るのはやめてくれる?」


「ただし、僕はあの場所で何かがあったと確信してる。

そしてそれに君が大きく関わってる。ノエルさえ口を閉ざす何かだ」


「あの子、いろいろ口を閉ざしてそうだけど?」


「そういうのとは次元が違う」


「次元……ね。何かわかったら教えてね。

次元のことなら私も知りたいから」


 目の前で変身でもしない限り、問題ない。


 でも、オーロラの気持ちも少しはわかるんだ。


 必死に前へ進もうとしてる。

 仲間の死を無駄にしないために。


 アガートラムの名に頼らない特務隊の編成は

 最初の任務で失敗してしまった。


 少なくともオーロラはそう思っている。


 みんなからの期待に応えられないのは辛い。


 だけど、それより辛いのは自分自身の期待に応えられないこと。


 だから、オーロラが前を向く助けになるならと、

 その『観察』をあえてやめさせはしなかったけど……


 すったもんだしたのち、私たちと同じ部屋に

 寝泊まりすることになりまして。


 朝起きたらオーロラ。

 仕事中、オーロラ。

 女性客の行列作るオーロラ。


 別にこれはやっかみってわけじゃないよ?

 たださあ……


 いちいち眩しいんだよ、あんた。

読んでいただき、ありがとうございます。

まだまだ手探りで執筆中です。

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