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第三十五話 魔法使いの戦い方

 こうなるから人と関わるのを避けてきた。


 守りたいものが増えていくから。


 ワイルズ、ゼンドーラ、その赤ちゃん、

 今ではワイルズのお店自体も大切な居場所になってる。


 そんな目で見るな。

 もちろんあなたも大事よ、アレポ。


 関わらなければこんなケンカを買って出ない。

 ワイルズたちがどうなろうと、遠い空の下の出来事。


 それでよかったはずなのに、何やってるんだろう。


 私にはオトさえいればいいと思いながら、ぜんぜんそうじゃない。


「クルス! がんばれ~」


「おう、がんばる。けどアレポの尻尾握るのやめな。

いやがってるでしょ」


 アレポに謝って、怒られて。

 まるで兄弟みたい。


 ねえ、オトはどう?

 オトには私さえいればいい?


 考えるのはやめよう。もう始まってる。

 今は目の前のガザフに集中。


 空気で膨らませたみたいな筋肉。

 ストライドも広く、距離を詰めるのも一瞬だ。


 すんごい圧力。


 ガザフは両手を軽く持ち上げ、頭部はがら空き。

 ガードなんて考えてない。


 そのでっかい拳で私の顔面潰しにきてる。

 素直でよろしい。


 気になるのは首筋のプレイングハンズタトゥー。

 意匠に術式が組み込まれてる。


 『服従』や『賛同』といった精神に入り込む魔術から

 身を守る護符ってところ。


 相手には魔術師のサポートあり。

 地道にいくしかないよ。


 筋力にものを言わせて腕を振り回すかと思いきや、

 しっかりこっちの足を踏んでくる。


 鉄骨が足に落ちてきたみたい。


 足を後ろに引いて回避。リズミカルなダンスのステップ。


 ガザフはケンカ慣れしてるなあ。

 絶妙な距離感だ。


 足砕きが避けられてもそのまま踏み込んでくる。

 私が後ろに下がれば横からのフックが当たる。


 前に出れば腕の中に抱え込む。


 屈んでも同じ。

 上から圧し潰せる。


 なにせ筋力がけた違いだからね。

 接近して組み合うような距離がガザフにとってのベスト。


 たった一手で逃げ場なし。普通ならね。


 もちろん私は普通じゃない。


 深く身を沈め、股裂きの要領で足を開き、ほぼ一直線の棒になって

 ガザフの股下を通り抜けるくらいには普通じゃない。


 せっかく背後を取ったんだから急所に一撃、

 といきたいとこだけど……


 ガザフは慌てて振り向いたりせずに素早く前進して、

 背後の私と距離を取る。


 この程度でうろたえたりしないか。


 でも私が動けると知って、さっきみたいな大振りはやめ、

 細かく直線的な動きになる。


 対応力も高い。

 でも私が欲しかったのは、その直線の動き。


 さあ、ここからが私のターン。


 手の甲にはものを弾く術式。

 手のひらにはものに吸い付く術式を綴ります。


 どちらもたいした力はありません。


 ただ、ものを弾く、というのは現象面での話。

 実際は力のベクトルを操る高度な術式なのです。


 ガザフのパンチを手の甲で受け流すとき、

 彼の力のベクトルを外へ向けます。


 氷の上を滑るように、ガザフの身体が外側へと大きく流れて

 バランスを失います。


 魔術には良くも悪くもイメージがつきまとう。


 ガザフくらいの質量、それも生物を意のままに動かすには

 それなりに大きな魔力が必要。


 手も触れずに相手を投げ飛ばすなんてありえないでしょ?


 でもそこに私の受け流す動きを加え、影響を局所的にすることで……


 最小の魔力で最大の効力を発揮します。


 動作術式──別名『持たざるものの術式』──の真髄は

 それが起こりうる現象だと偽装すること。


 だから所作の美しさ、ダイナミズムが重視される。

 つまりはダンス・ダンス・ダンス。


 私の前で無防備によろめいたガザフの視界を手で遮って、

 側面に回り込む。


 ガザフくらいの猛者でも視界を塞がれると一瞬動きが止まる。


 視界を塞ぐ前に私がいた位置。

 それとは逆方向から手のひらで顎を撃ち抜く。


 今度は吸い付く術式。

 実際は力の伝導効率を高めています。


 水に電気が流れるみたいにね。


 なので、私の細腕でも顎先を捉えた一撃は、

 ボクサーのクリーンヒットみたいにしっかり顎をグリップ。


 脳を激しく揺さぶる。

 立ってなんかいられないよ。


 力尽きた猛牛みたいに床に這いつくばるガザフの前で

 私は華麗にグラン・ピルエット。


 客から受け取ったカップで乾杯。


 どうよオト? 見たかオーロラ?

 店内総立ちにしてやったぜ。


 いや、あんたは立たなくていいよ、ガザフ。

 脳震盪だよ? なんで動けるの?


「寝てなさい。動くとホントに危険だよ」


「な、なにしやがった……この魔女が」


「ワイルズの女神を魔女呼ばわり?

続けるんなら命の保証はないよ」


 タフだ。

 負けを受け入れず、抗う。


 嫌いじゃないよ、諦めが悪いのって。


 乾杯して棒立ちの私に、低い位置から跳ね上がるようなタックル。


 足がふらついてても、密着しちゃえば力でねじ伏せられる?


 まあ、そうだろうね。


 ただ私も魔女呼ばわりはさすがに心外だけど、少々意地が悪い。

 わざと劇的なラストにガザフを誘導した。


 さっき、手で目隠しをしたとき、

 眼球に光を散らす術式を綴っておいた。


 外付けで効果は一瞬。

 護符に弾かれてもそのころには終わってる。


 指を鳴らして術式を発動。


 突進するガザフは脳震盪の目眩の中、視界は万華鏡状態。


 地面がどっちかもわからないでしょ?


 突進しながら傾いていく、その瞬間を捉えて

 軽く横面を蹴り飛ばす。


 私の見かけだけ強烈な蹴りで吹っ飛ばされたみたいに

 ガザフが頭から壁に突っ込んだ。


 実際には自分の突進力で。


 大騒ぎだった店内が静まり返るパフォーマンス。

 ここから一気に畳みかけるよ。


「約束だったよねえ?

さっさとこいつを連れておうちへ帰りなさい。

それとも他にこうなりたいやつはいる?」


 いるわけないと思って言ってます。


 すでにワイルズ、ゼンドーラ、店に残ったケンカ好きたちも

 私の周りに集まってる。


 これ以上やるなら俺たちが相手、という空気。


 ふふ、夜警のやつらビビってるビビってる。

 一番強そうなガザフは女に負けた。


 ひらひらしたバカみたいな服着た……

 ちょっとかわいいバカみたいな服着た女にね。


 もうこれ戦意喪失でしょ。


 後はみんなにそっと紛れて後ろに……


「兄貴! お願いします、アニキィィィ!」


「そんなのアリ? ズルいじゃない。負けを認めなさいよ」


「いい? せーの……」

「「クルス、がんばれ~~」」


 オーロラ、あとで泣かす。

 オトを使って遊ばないでよ。


「お前らが悪いんだぜぇ~、ヘタに逆らいやがって。

ガザフ隊長は優しすぎんのさ。

そもそも女を殴るなんてできない人なんだ」


「思いっきり殴ってきたよ?」


「だがな! アニキは違う。冷酷無比、

極悪非道、専守防衛。加減ってもんを知らねえ」


「入っちゃダメなの入ってる」


「黙って聞け! 後悔させてやっから。

いいか、アニキはな、怨嗟街道でアークトゥルスの

クソどもをなぎ倒し、あの妖精騎士団に壊れた馬車を

引かせてユシフにやって来たんだ。

この人を怒らせたら、お前ら全員ひき肉だぜぃ」


 おや? どこかで聞いたような話だぞ?


「その話はすんなっつっただろ」


「いてっ、すんません、アニキ」


 調子に乗ってる夜警の一人を殴ったのは、 

 見て安心するってほどじゃないけど知った顔。


 前に出てきてすぐ、向こうも私に気づいた。


 相変わらずいい人ではあるんだよ。

 目だけで私の無事を喜んで、周りにオトを探して。


 お互いにどういう状況かわからないから、

 抱き合って喜ぶってわけにもいかない。


 そして生まれる無駄な緊張感。


 ギャラリーの皆様、固唾を飲まないで。

 一触即発の空気を醸さないで。


「ヒュッケ!」


 ああ、気づいてしまったのねオト。


 場の空気なんか微塵も気にしない奔放さで、

 歓声をあげてヒュッケに駆け寄る。


 抱き着くのかと思ったらいきなり腹にパンチ!


 オトを迎えようとして腰を落としたヒュッケの股間にヒット!


 うちの子が申し訳ないけど言わせて?


「そのパンチ、私が鍛えた」


「ご挨拶だな……」


 ホントにね。


 悶絶するヒュッケ。

 得意げに拳を掲げるオト。


 私に説明を求めるワイルズの視線。

 さらに怖いゼンドーラの睨み。


 呆然とする夜警のみなさん。


 笑いすぎてテーブルに突っ伏してるオーロラ。


 こうなるから人と関わるのを避けてきた。

 こうなるのが人付き合いの必然。


 つまりは……


 カオス・カオス・カオス。

読んでいただき、ありがとうございます。

まだまだ手探りで執筆中です。

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