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第三十四話 余興

 ユースフ・ユシフ市民の朝は早い。

 よって、夜も早い。


 そもそも暗くなってから外出することは、

 違法ではないもののよくないことと思われてる。


 日が暮れる前に夕食を済ませちゃう人も多いの。


 聖ウエスタの日だって外で食べる人はいる。


 お客さんが増える時間には帰ってほしいな~

 と思ってたんだけど……


「置いていきやがった、あいつら……」


 他のお客さんの接客して戻ってみたら、

 酔っぱらったオーロラがテーブルに一人。


 アレポをフィニクスだと思って話してる。


 迷惑そうね、アレポ。


「ああそうさ、しょせん僕なんか出来損ないさ。

アガートラムの恥部さ。お前だって本当は僕を継承者だなんて

認めてないんだろう? そうなんだろう? 何とか言ったらどうだい?」


 アレポがちらっとこっち見てくる。


 ステイ。


「あはははは、おさけっていいな、

あんなたのしそうなオーロラはじめてみた」


「あれ、楽しそうかなあ? 辛いお酒だ」


「ぬぐまえのクルス、あんなかんじ」


「マジか~、気を付けるわ~。でもどうしたもんかな、この人。

オト、ノエルたちは何か言ってた?」


「あとはまかせたというので、まかされたとこたえておいた」


「……そっか、オトはえらいね」


「むふん」


 意気込みと鼻息。


 ふふ、オトはオーロラが好きなんだね。


 しかし、それだけに酔ってるオーロラの尋常でないなまめかしさが危険。


 上気した頬とか潤んだ瞳とか髪を撫でつける仕草とか、いちいち香る。

 情操教育に悪影響があると困る。


 聖ウエスタの祝日なのにお客が増えて困る。


 くそう、ワイルズめ。

 酔っ払い嫌いなくせに、客足見て放置してるな。


「しゃあない、オト、オーロラに水のませて、

お酒はもうないって言うんだよ? 気持ち悪いとか言い出したら呼んでね」


「わかった、きもちよくさせる」


「いや、それはオトにはまだ早い。いろいろダメだ」


 さっそく水を持っていって、

 うなだれてるオーロラによしよししてるオト。


 なんか酔っ払いの扱いが妙に手慣れてるな。


 もしかして、それ私にもやったことある?


 ……今度、酔ったふりしよ。


 それから二時間くらいは仕事に集中。

 予想外の客足とはいえ、普段よりは少ない。


 今の私なら余裕で厨房のアシストにも回れる。

 フロアに何人いて、何を食べてるかもわかる。


 下品なジョークを華麗に回避し、笑顔を返す。お勘定は正確に。


 鼻歌うたっちゃうくらい調子よかったのに、

 ガラの悪い連中が店に入ってきて気分は台無し。


 一般の人が避ける黄色をわざと服に使ったり、

 道化みたいなズボンはいてたり。


 見た目ですぐにそれと判別できるのはお互いに便利よね。


「お前らの席はねえ、他所へ行け」


 お、ワイルズも負けてないじゃん。

 低く唸る獣のような声、出せるんじゃん。


 しかし、横から見たときの厚みが他の連中の倍はある短髪の男が

 ワイルズを無視して店内をうろつく。


 私のことを売り物みたいに見ないで?


「最近のやつらは信仰ってもんがない。聖ウエスタ様の日だぞ?

みんな家で家族と過ごすべきだろ? こんなの間違ってる。

家がどうなってもいいって宣言してるみたいなもんだよなあ?」


 テーブルに勘定を置いて帰る人多数。

 出てけって言われたみたいなもんだよね。


 露骨な営業妨害ですよ。


「ガザフ、俺たちは自由な商売が認められてる。

この辺はもう、お前らが仕切ってたころとは違うんだよ」


 ガザフって呼ばれた厚みのある男はテーブルに残されたパンを

 手に取って齧る。


 で、マズそうに吐き出す。流れるような熟練の仕草だ。


 不潔で不快なのに、洗練されるとこうも人目を惹く。

 オト、マネしちゃだめだからね?


「クソ不味いな。セルローのとこのか? 高いし混ぜ物だらけ。

エッダのとこのがいいってこないだ教えてやったよな、ワイルズ」


「うちは美味いほうを使う。

預けた小麦中抜きして混ぜ物してんのはそっちだろうが」


 絵に描いたような利権争いが発生中。


 そっと隅っこのテーブルに近づいて、

 アレポを抱っこしたままぼんやりしてるオーロラをつつく。


「ねえ、妖精騎士団様。これ何とかしてよ」


「はえ? 僕らは治安には関わらないよ。そんなことしたら

市民を威圧してしまうからね。らいじょぶ、騒ぎになれば夜警が来るよ」


「あいつらがその夜警だよ」


 いつの間にかのゼンドーラ……。

 降りてこないほうがいいんじゃない?


 ゼンドーラが腕組んでガザフを睨んでる。

 すでに肉を叩く棒を持ってる。


「だってさ、オーロラ」


「ああ、そういえば、アンセル時代に認可された自治組織と

暫定議会に認可された自治組織が対立してるって言ってたなぁ」


「ちなみにガザフってどっち?」


「さあね、興味ない。けど、暫定議会側なら

妖精騎士団が彼らに手を出すわけにはいかないかな」


「わかってて言ってるでしょ?」


「酔っ払い相手に絡まないでくれるかい? ワイルズの女神さん」


「もう酔ってないくせに……。

ねえ、ゼンドーラ、こっち側に夜警は?」


「みんな信仰が厚いからね。

聖ウエスタの日には家で飲んだくれてる。夜警なんてしないよ」


「そう考えるとガザフたちって勤勉よね」


「信仰より利益を優先してるからさ。

うちの旦那にもちょっとは見習ってほしいね」


「君たちってどっちの味方なわけ?」


「決まってる」


 ゼンドーラが肉叩き棒を手に打ち付ける。


 確かにワイルズより強そうだけどさあ、お腹に子供いるんだよ?


 ワイルズも、いきなり両手に包丁とかやめてよ。

 安い挑発に乗らないで。


「君は黙って見ていたまえ。何人か死ねば落ち着く。

商売というものはいつでも死と隣り合わせだ」


 ゼンドーラが笑っちゃダメでしょ。


 こういう感覚理解できない、したくない。


 暴力が根拠でも支配は支配。

 秩序をもたらしたものが正義。


 信じられる? ルールは守るものじゃなく、

 作るものだって思ってるのがそこら中にいるんだよ?


 店に残ってたケンカしたいだけのバカも参戦する気満々だし。


「あ~もう! やめろ、お前ら。下がれ下がれ」


 なんで首突っ込むんだ、私。

 店の中央に躍り出て、風を起こすみたいに回ってる。


 聞こえてくる無責任な拍手。

 オーロラがオトと一緒に並んで見てる。


「なんだお前? 女は引っ込んでろ」


「女ならここにもいるよ!

ぶら下げてんのがそんなに偉いのかい? デカいだけのガキが。

おっぱい欲しけりゃ暴れなくても飲ませてやるよ」


 ゼンドーラの支援口撃。

 ワイルズサイドにウケるウケる。


 でも正直なところ、何する気? て空気だよね。


 もちろん、バカなことする気だよ。


「女神からの優しい提案だよ。あんたと私が勝負して、

あんたが勝ったらこの店はセルローのパンはやめる。

私が勝ったらみんなはおとなしくおうちに帰る。どう?」


「ふざけんなバカ。お前は引っ込んでろ」


 ワイルズにも引っ込めって言われた。

 バカって言ったの、忘れないからな。


「バカはそっち。店壊してゼンドーラにケガさせる気?

ここは私に任せて、そっちは営業続けて。

お客様ぁ~、どうぞ余興をお楽しみくださいね」


 ガザフが手近なテーブル引っくり返した。

 片手なのに天井近くまで飛んだねえ……


 ものを壊したくなかったのに。


「冗談じゃすまないぞ。俺が勝ったらお前ももらう。

歩けなくしてうちで飼ってやる」


「私が勝ってもあんたはいらない。かわいくないもん」


 食器やらカップやらでテーブル叩く音がすごい。


 雰囲気だけならこっちのホーム。

 けど、誰も止めに入ってこないんだね。


 ゼンドーラが黙認してるから?

 常識的に言ってこのサイズ差。私、殺されますよ?


「今さらダンスで勝負だなんて言わないよなあ?」


「それなら私がやる意味ないでしょ。

ねえ、ここにこいつより下手に踊れるやついるー?」


 挑発しすぎた。


 怒りで歪んでいたガザフの顔から表情が消え、

 脱いだ上着を短剣と一緒に手下に渡す。


 怒りが一線を越えると冷静になっちゃうタイプ。


 もとはコンパニーの傭兵かな?


 冷酷な殺意のこもった目。ゾクゾクしちゃうね。


「大丈夫なのかい? 思ったよりやるよ、彼。

今なら格安で代わってあげてもいいけど?」


 思ったよりやるっていうのは認める。


 でも今さら引けるか。借りなんか作れるか。

 オトにかっこ悪いとこ、見せられるか。


 無邪気に応援してるオトの笑顔を一瞬でも曇らせたりしない。


 完封だ。


 見せてやるよ。

 魔力の潤沢な魔術師とは違う……


 魔法使いの戦い方ってやつを。

読んでいただき、ありがとうございます。

まだまだ手探りで執筆中です。

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