第三十三話 フォモーリ
三人をテーブルに案内して、ワイルズに合図。
こいつらからふんだくってやろうぜ。
値段三倍の裏メニューだ。
ってあれ? なんで怒ってるの?
お客様を睨んじゃダメだよ?
「悪いけど出てってくれ。
あんたに作る料理はないって言ったはずだ」
「やだなぁ、説明したじゃないか。
アンセルと戦ったのは先代で、僕じゃない。
お店で食べさせてくれるくらい、いいだろ?」
「関係ねえ。妖精騎士団なんぞ、名前を聞いただけで虫唾が走る」
あ~、ワイルズを料理長に求めたっていうガンエデンのお偉いさん。
オーロラのことだったんだ。
わざわざそんな店に来るなんて、オーロラも性格悪い。
それとも意外と食い意地張ってる?
ノエルが何とかしてって目で私を見てる。
フィニクスがお腹すいたって目で私を見てる。
ワイルズはぜったい意固地になっちゃってるし……
仕方ない、奥の手を使うか。
オトをつっついて泣きまねのポーズ。
ニヤリと笑うオト。いけるね。
「ちょっとワイルズ、オトが連れて来たんだよ?」
「ああ? んなことわかってるよ、オトには後でうまいもんでも──」
「おーろらダメなの? オト、わるいことした?」
震える声、涙ぐんだ目。
これをくらって立っていられるやつなどいない。
騙す?
人聞き悪いなあ。
巡礼ではこういうのは相手の優しさを引き出すって言うの。
「す、すまんなオト。俺にも事情ってのがあってな、
後でゼリー作ってやっからちょっと上に──」
「ダメなの?」
「いや、ダメっつうかな……」
「ダメなの?」
ほら、ワイルズが優しい顔になったよ。
ため息は緊張がほぐれたから。
引きつる笑顔はまだ自分の優しさに慣れないから。
だよね?
「……今日だけだ。聖ウエスタに感謝しろよ」
「いいってさ。お好きな席にどうぞ」
「こっち、いすがぐらっとしておもしろい」
「おい、フィニクスそこ座んな。壊れるでしょ。
はい、あんたら用の特別メニュー。とってもリーズナブル」
「なんだか雑な対応だなあ。噂の女神は愛想もよくて
よく気が付いて、笑顔が美しいって聞いたんだけどな」
「クルスは美しいぞ? どんな格好でも」
「一言余計なんだよ。んじゃ適当に持ってくるから、
何か食べたいものがあったら言って」
「……メニューの意味は?」
今のところ他に客はいないから、
三人の相手はオトに任せて私は厨房の手伝い。
せっかく調理に集中できるのに、ワイルズの手が止まってる。
「なに? なんか気になる?」
「あ……と、クルスはあいつらと知り合いなのか?」
「ちょっと任務を手伝っただけ。
通りすがりに意見を求められたとか、そんな感じよ」
「そのわりには親しそうだ。オトだってあいつらに懐いてる」
「ああ見えていい人たちだからね」
「……なあ、あんたフォモーリじゃねえよな?」
「フォモーリ?」
「ガンエデンにいる魔術師でも騎士でもない、
なのにティタニアに直接仕えてるっつう、わけのわからん連中さ」
「そのわけのわからん連中はフォモーリか?
って聞かれてはいそうですって答えるの?」
「答えるわけない」
「信じてよ。私は子供を連れた巡礼。これはぜったい嘘じゃない」
「これは……ね」
とりあえずは納得してくれた。
というか追及するのをやめてくれた。
……にしてもフォモーリねぇ。
ユースフ・ユシフはまだ戦争から立ち直ってなんかいないんだ。
ふとしたことで疑心暗鬼が顔を出す。
実はフォモーリなら一人知ってるけど、
そんなの聞いたこともないって顔するの余裕。
だって私自身、あの人とは関わりたくないもの。
「いま、フォモーリって言いました?」
ノエルがカウンターから身を乗り出してる。
余計なことにばっかり首突っ込んでくるな、こいつは。
「お客さま~、お席でお待ちくださいね~」
「ふん、何を隠しているのか知りませんが、あんな連中と
関わるのはやめておきなさい。
私たちですら何をしてるかわからないんですよ?」
「関わらないよ。関わりたくないって話をしてたの」
ノエルは疑り深そうに目を細め、厨房に無遠慮に入ってくる。
私のことじろじろ見て、監視でもしてるつもり?
「あなた、本当にそういう恰好が好きなんですね」
「好きで着てるんじゃないわ! 仕事よ、仕事。
仕事で仕方なく着てんの!」
「え? じゃあ、あれも仕事だったんですか?
あのスター……なんちゃら……」
「わあああ、言うなバカ。もういいから席に戻って。
料理ができるまでしばしご歓談を」
「あの二人と話すことなどありませんが? お腹もすいてません」
「何しに来たんだよ、お前」
「暇なので、何か手伝いましょうか?」
「え? 料理できるの?」
「ふふ、魔術なら少々」
「料理だっつってんだろ」
ノエルと話してる間に一品目が完成。
ごめんワイルズ、このバカのせいでぜんぜん手伝えなかった。
ナッツと鶏肉を使った炒め物。
スパイスの香りが食欲を刺激します。
テーブルに持っていくと、オトがフィニクスに登頂を始めてる。
「こらオト、遊んでないでパン買ってきて。みんな、食べるでしょ?」
「あとワインもね。果汁で割ってガブガブ飲めるやつ」
「うわ、昼間っから酔う気だわ、この人。
どうしたの? お祝いって雰囲気でもないけど」
「慰労会だ。事後処理が一通り済んだ」
「事後処理なんて言わないでくれるかい。彼らの葬儀だ」
なるほど、亡くなった隊員たちを送ってきたんだね。
だからみんな正装なんだ。
オーロラ……
前に会ったときは思い詰めてたみたいだったけど、
今日はだいぶ普段通りだ。
つまり、葬儀の後にしては明るすぎ。
心配してノエルたちが飲みにつれ出した。
そんな感じかな。
「それは……辛かったね。みんな前途ある優秀な子たちだったもの。
ねえワイルズ、最初の一杯は私のおごりで」
「あいよ。給料から引いとく」
ノエルも入れてみんなで献杯。
私も飲んだよ。
思い出ってほどでもないけど、一緒にいた時間は悪くなかった。
「楽しかったよ。ほんの少しの間でも」
「滅びざる盾の騎士たちに」
「賢くも気高き魔術師たちに」
「愚かな若者たちに」
フィニクスとノエルが目線を交わす。
こりゃ重傷だ。
オーロラって出会いが出会いだけに
傲慢なくらい強気で省みないタイプかと思ってた。
でもそれって自分の中の弱気をなんとかねじ伏せてたのかな。
元気づけてあげたいけど、難しそう。
名家の気質ってやつがねぇ。
「助かった人たちはどうなの?
重傷だったけど、治せない傷じゃなかったはずよ」
「順調に回復している。精神汚染もなかった。
全員が復帰を希望しているな」
「新規の志願者も集まっています。訓練は必要ですが、立て直せますよ」
「立て直す気はない。特務隊は以前の形に戻すつもりだ」
「それは三人で話しあって決めることだ」
「もう決めた。結局はアガートラムの連中が正しいのさ。
一人で生き残れないやつに特務隊は務まらない」
「またアガートラムだらけになりますよ。
それを悪しき因習と言ったのは誰ですか?」
「僕だよ。それを打破してみせると作ったのが、
より悪しき制度だったというわけさ。滑稽だね。
どうした? 今日は遠慮はいらない、おおいに笑ってくれ」
笑えない。
二品目の準備ができたから、給仕の仕事に戻ります。
手伝うふりして一緒にこないでよ、ノエル。
「ちょっと、逃げないでくださいよ。わざわざこの店まで
来た意味がないじゃないですか」
「逃げてません、仕事です。
あんまり暗いお酒はやめてねー、他のお客さんも来るんだから」
「ずっとあんな調子なんです。なんとかなりません?」
「ならないよ。もしかしてそのつもりで連れてきたの?」
「いえ、最近話題の『ワイルズの女神』に会うと元気が出ると
聞きましたので。
正直、クルスだと知っていささかガッカリしています」
「出禁にされたいの、あんた?
こうやって慰めてくれる仲間がいれば大丈夫だよ。
おいしいもの食べてお酒飲んで、あとは寝る。そのうち元気になるって」
やっぱりその程度か、ていうため息。
ときどき無性に腹立つな、この子。
でもなあ……
帰って来たオトと一緒にパンを切り分けて オーロラに食べさせたり。
魔術に興味ない人には理解できないし、
理解できてもつまらない冗談を言ったり。
明るい話題をフィニクスに振ろうとして、パスに失敗して落ち込んだり。
頑張り屋さんなんだよね。
しょうがないって気持ちになるよ。
ちょっとだけなら付き合ってあげてもいいかなって、ね。
読んでいただき、ありがとうございます。
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