第三話 魔法少女(24)は奪わない
戦士君、爆笑。
ですよね~
仮にも魔術師が気合入れてポーズキメて、
何が起こった?
服が変わった。
それも子供が夢想するお姫様みたいな服。
そりゃ笑いますよ。
でもでも、オトはびっくりして泣き止んでる。
仮装した飼い主を見て、誰お前?
て顔してるワンちゃんみたいな目はキツいけど。
覚えてないか~
前に一回、オトの前で変身してるんだけど、
まだ小さかったもんね。
よし! くらえ、魔法少女の元気の出る笑顔。
お、笑った笑った。
私もまだまだイケますよ。
「笑ってんじゃねえバカが、どけ」
さすが魔術師だけは笑わないね。
これがどういう状況かわかってる。
いや、わかってないのかな?
だってそうでしょ?
わかってるなら……
泣きわめいて許しを乞え。
バカの一つ覚えが。
ノーキャストの衝撃魔術。
探知不能、回避不能。
がんばってそこまで磨いたんだね。
確かに、どんな防御術式も
発動する間もなければ役に立たない。
でもね、いい機会だから教えてあげる。
魔法少女が魔法を使うのってさぁ……
相手を気遣ってるときだけなの。
高速で身体を振って、
発生させたソニックブームで衝撃を相殺。
その風圧で彼らがひるんだときには、
私はサーチャーの後ろにいる。
オトを乱暴に扱ったサーチャーの手にはヒールでおしおき。
手首を軽く蹴っただけなんだけど、腕が風車みたいに
一回転してサーチャーが声も出せずに倒れた。
手加減が難しい。
一般人と戦うことなんてなかったからね。
ゴメン。でも同情はしないかな。
「なんで……お前、どうやってそこに」
振り向いた戦士と魔術師が驚きと、
隠しきれない恐怖の表情を浮かべてる。
「まばたきなんかしてたら
魔法少女の活躍を見逃しちゃうぞ♡
音速戦闘こなすような魔法少女の場合は特にね。
……おっと、お前には聞きたいことがある。
そのまま動くなよ」
悲鳴をあげ、地面を這って逃げようとする
サーチャーを踏みつける。
「……クルス!」
呆然と私を見ていたオトがふいに大声をあげて私を指さす。
「え? あ、うん。クルスだよ?」
私の名前を連呼しながら飛び跳ねてる。
よ、喜んでくれてる?
今の私を見て?
「クルス、すごいキレイだね。かっこいいね」
これは泣く。仕方ない。
誰も私の涙を止められない。
上向いてたらオトが袖を引っぱる。
「……どこかいたい? ケガした?」
「大丈夫だよ。
オト、やっぱあんたって最高。
危ないから離れて見ててね、がんばるから」
元気よく返事するオトに必殺の魔法少女ウインク。
目元ピースもつけちゃう。
特別だぞ☆
スターナイトは塩対応で有名だったんだから。
オトにもっと離れてって指示してたら、
いきなり戦士が切りかかって来た。
オトを見たまま指で弾いたら剣は砕けて、
戦士の手首も肘もねじ曲がっちゃった。
「ダメだこれ。よそ見してると殺しちゃう」
戦士の耳元で強めに指を鳴らす。
音と衝撃で失神。
最初からこれにしとけばよかった。
魔術師、詠唱を始めてる。
今度は全力ってこと?
「その詠唱……その術式だと、
みんな吹っ飛んじゃうよ、いいの?」
ガン無視。
答える余裕、ないか。
「この空気が重くなる感じ、詠唱障壁だ。
重い鎧にでっかい武器、男の子だね。
でも知ってる? 詠唱障壁って漏れ出る魔力の
再利用でしかないの。要するにあなたの術式ってね、
無駄だらけなの」
温めた牛乳の表面に張る膜みたいなもん。
実際、私にとってそのくらいの強度でしかない。
構わず手を突っ込んで、
魔術師の顎を指先で撫でたらおしまい。
んん~~~
ストレス溜まるなぁ、こういうの。
頭にきてるのに優しくしなきゃいけない、
っていうのがね……
思いっきり伸びをしたら、
オトが走ってきそうな感じだったから
ステイステイ。
変身解除する前にやることがあるの。
「さてと、お待たせ、サーチャーさん。
それ、よく見せてくれる?」
うわ、涙と鼻水で顔ぐっちゃぐちゃ。
詠唱障壁より強固な防御策だよ。
「殺さないで、なんでも話す、なんでもする。
お願いだ、殺さないで」
「はいはい、殺さないよ。安心して。
それよりほら、胸のコンパス、よく見せて」
イヤイヤしてるだけのサーチャーの首にかかった、
ペンダント型のコンパスを引っ張り出す。
石灰みたいな白い石製。
削り出しで動かないはずの針が、
震えながらずっとオトのほうを指してる。
「やっぱり『ベルヤナクのコンパス』だ。
これで私たちの大まかな場所を突き止めたんだね。
魔術師だから同行資格は本物。
依頼を出して、おびき寄せた私にコイン詐欺か……」
「そいつだ、全部そいつの考えたことだ。
俺は言われた通りにしただけだ、許して、殺さ──」
「黙れ」
コンパスを握り潰す。
黙ったけど今度はすすり泣きを始めた。
ああ、うっとうしい。
「一応、聞いておくけど、あんたたち、
あの白装束の連中とは関係ないよね?」
「し、白装束?」
「知らないか、ならいいよ」
サーチャーの額をわしづかみ……
しきれない。
手、小っちゃいんだよ。
「ひぃっ、やめて、何するの、やめてぇぇ」
「おとなしくして、死なないから。
んーと……よし、マッピング完了。狭いね。
じゃ、いくよ……『記憶断裂』」
記憶に干渉する魔術はいくつかあるけど、
当然、どれも禁忌とされています。
それでもあえて使うってほどの魔術でもない。
私の場合は記憶領域を空間に見立てて切り取る、
空間系の記憶干渉魔術。
そう、いじってるのは記憶なのに、
実質、空間を操るのと同じ術式を使います。
当然、消費される魔力は膨大。
大規模な大量破壊魔術並みに要求され、
それで干渉できるのは一人だけ。
燃費最悪。
誰も使わん。
でもほら、
魔法少女って諦めない限り魔力が無限だから。
「うっわ、こいつ鼻血出てる」
対象の脳への負荷が大きいのも問題だね。
あんまり使用例がないから知らなかった。
大雑把に切り取るからヘタすると数年分、
記憶が失われる……かもしれない。
人格にも影響が出かねない。
ひっどい魔術。
「ま、死ぬよりはいいでしょ。
ちょっとしたウラシマ気分を味わって」
あとの二人もさくっと記憶を消したら、
憂鬱な作業は終了。
記憶を失った三人は
しばらく目を覚まさないだろうし……
変身解除!
オトが残念がってもそっこー解除。
躊躇も容赦もない。
「え~~ドリル、ドリルもっとやって~」
「やかましい。ドリルじゃなくてドリームじゃ。
あ~でも、こっちの服もひどいなあ、
けっこう手間もお金もかかってるのに……」
私の山ガールスタイル。
ベストはちぎれて上着も前が破れてる。
これはもう使えないな。
緩衝帯の抗魔符も新しくしないと。
しょうがない、魔術師のローブ着るか。
「オト~、家の中入るよ。ケガしてないか見てあげる」
「おじさんたちは?」
「寝かせといてあげて。人生に疲れてるから」
「わるいゆめをみちゃうよ? かわいそうだよ」
「スターナイトが消しといた。
明日の朝にはな~んにも覚えてないよ」
「ドリルすっげー」
「……ドリームな」
オトが家に入ったすきに素早くサーチャーに近づく。
よし、さすがこういう連中は、
いつも貴重品は身に着けてる。
お金なんかは、ほぼ非戦闘員のサーチャーが一括管理。
ああ、魔法少女が倒した相手の懐をあさるなんて。
ドリームなんかなくしちゃったよ。
今の私はドリルだよ。
袋ごと銀貨をもらおうと思ったら、
いきなりサーチャーが呻いて、焦った。
「ちがうのよ、これは、あなたたちが寝てる間に
盗まれないように管理しておこうと……」
なんで言い訳してる?
十年前よ?
生徒会長で優等生だったの。
「……なんだ、悪い夢見てるだけか。
脅かしやがって、他にも金目のもんよこせ」
「ごめん……母さん、もう少しだから、
帰れるから、かあさ……」
銀貨の袋、すんげー重くなった。
私の握力じゃ保持できないわ。
袋を戻して、夜より深いため息ついて、
サーチャーの額に手を置く。
「はぁぁ……悪いやつが頭のてっぺんから爪の先まで
悪いやつなら、世界はもっと生きやすいのにね。
大丈夫だから……安らかに、お眠りなさい」
サーチャーが少し落ち着いて、
同時にオトがケーキを思い出して騒ぎ始めた。
私は微笑んで、三人をちょっと楽な姿勢に
直してやってから家に戻る。
赤い月よ、よく見ておくがいい。
夢を失ってドリルになっても、
魔法少女は奪わないのだ。
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