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第二話 代償

 オトの目、もうしょぼしょぼ。

 ほっぺつんつんしても反応なくなってるぞ~。


 小さい子に徹夜はキツイよね。


 でもオトっていくつなんだろ?

 六、七歳くらい?

 成長はしてるんだよね。遅いけど。


 ある日突然、脱皮したり……しないでね?


「寝るんならベッド行く?

私が起きててあげるから、大丈夫だよ」


「ん~ん、いかない、ねない、ねちゃダメ。

ねちゃ……なんでねたらダメ?」


 あははは、寝てもいい理由探してる。


「それはね~、今日寝ると悪い夢をみるから。

月にいる神様が悪い夢をみてるんだよ」


「だからおつきさま、あかい?」


「そう。神様の寝てる湖が真っ赤になるの」


「オトもそれしってる。

くらいあなのなかから、ずっとそれをみあげてる」


「へえ、そんな夢みたんだ。怖かった?」


「……こわい、よりもさびしかった」


「そっか、寂しいのは辛いよね」


「うん。でもクルスがいればへーき。

いっしょにねてくれたらそんなゆめみない」


「さらっとベッドに誘導すな。

でもありがとね。私もオトが一緒だと、

家に帰ってる夢みないよ」


「うち、ここ……」


「ちがうちがう、私の生まれた場所。

ずっと遠くにあるの。お母さんにもずっと会えてない」


「おかーさん?」


「えっとね、オトにとっての私みたいな人」


「……すきなひと」


「ふふ、そう、大好き」


 私の服をぎゅっと握って丸くなってる。

 身体が温かくなってきてるし、そのまま寝る気だな。


 ま、寝てからベッドに運べばいっか。


「……さびしいのは、つらいよね……」


 自分で言ったことなのに、

 オトの口から聞いて隠してた本心に気づく。


 赤い月が滲む。


 子供って残酷。

 優しさで大人の胸をえぐるんだもん。


「……バーカ、誰が大人だよ」


「そうだな、フェアじゃないもんな。

月にいるのは異神だって教えてやれよ」


 返ってくるはずのない、独り言へのレス。

 跳ね起きて声のほうに向きなおる。


「なんであんたたちがここに?」


 昼間の三人組。

 尾けられた?

 でも方向攪乱は効果あるはず。


 いや、そんなことより……


「オト、起きて。森に逃げ──」


 なんで?

 音も魔力の流れも感じなかったのに。


 胸に強い衝撃。

 紙切れみたいに吹っ飛ばされてる。


 風の魔術じゃない。

 自然の法則無視して直接、衝撃を発生させてる。


 高等魔術だ。二級以上は確実。


 ちぎれたベストから銀貨が飛び出る。


 ああ、そうか……コインだ。


 コインは無意識の領域で譲渡の条件が

 成立するんだっけ?


 それを悪用して追跡の魔術に応用するやつもいる、

 て先生に教わったな。


 そんなの覚えてないよ!


 じゃ、許してくれないだろうなあ。

 罰として術式視覚体系化千回だ。


 徹夜は確実。

 あれしんどかったなー。


 ……これ、走馬灯じゃないよね?


 要するに油断してた。

 この村にはだいぶ長くいたし、安心してた。


 そのせいで私は背中で家のドアを突き破り、

 ぐらぐらする自作テーブルを下敷きにして、

 床に転がってる。


 息できない。

 骨いった?


「おい、ガキを押さえとけ。

気を付けろよ、何するかわからんぞ」


「魔力がない。魔女じゃないぞ?」


「『コンパス』が指したんだ、何かあるさ。

傷はつけるな、そいつは見た目だけでも売れる」


 オト、泣いてるな。


 天真爛漫、傍若無人、もの怖じしない子なんだ。

 でも、ほんとはすごい泣き虫。


 ゴメンね、私がバカなせいで。


 足音が近づいてくる。

 この粗野な歩き方。


 一番大柄で、しっかりしたレザーの胴着を

 身に着けてたやつ。


 雑な性格なのに意外と用心深いな。


「おい、そいつはほっとけ。

四級の魔力じゃ耐えられん、もう死んでる」


「構わねえよ、おとなしくていい。

早くしないと冷めちまう。

おい、ガキこっちに連れてこい、

ヤッてるとこ見せてえ」


「クソが、さっさと終わらせろ」


 そっちかー。なんつーか、その……


 変態が。


 死んだフリ作戦は失敗っと。

 しゃーない、こっちから出てってやるよ。


 立ち上がると胸が痛い。吐き気する。

 絶対に骨折してる。


「うわ、月、真っ赤。ねえ、オトを泣かせないで。

よりによってこんな日に、何してくれてんのよ」


「生きてるぞ! 今日はツイてる」


「抗魔符を縫い付けた緩衝帯?

ずいぶんな用心だな。

俺たちのことに気づいてたか……」


 普段からの用心だけど、

 気づいてましたって顔はしておこう。


「そんなことどうでもいいだろ、

抗魔符なんぞ、こいつには意味ねえからな」


 体重、私の倍ありそうな男が

 レザーの胴着で幅広の剣持ってるって、

 日本ならサイコパスだよ。


 薄汚れたマントの細目が魔術師。


 オトを捕まえてる旅装の男がサーチャー。

 鬼ごっこの鬼。


「腕のいいサーチャーは詐欺師だって

誰か言ってたけど、ホントだね。

コインのトリック、ぜんぜん気づかなかったよ」


 魔術師とサーチャーが顔を見合わせてる。

 コインのことバレたの意外?


 こうやって相手をかく乱するの得意なんだ。

 でもま、無理だなこれ。


 魔術師、トカゲ退治のときには戦士並みに動けてた。

 魔力感知もすり抜け、ノーキャストで衝撃魔法。


 暗殺やら処刑やらのウェットワーク専門の

 バトルメイジだ。


 元ウィッチ・ハントってとこかな?


 魔女が血の一滴まで金になるって知っちゃった人。


「気を付けろ、罠があるかもしれん」


「ビビってんなら後ろで見てろ。

手足落としてからマワしてやっからよ」


 戦士がにじり寄ってくる。


 このバカ一人ならなんとかなるけど、

 三人は無理。


 オトはぎゃんぎゃん泣いてるし。

 月はどんどん赤くなってるし。


 悠長に構えてる場合?

 このままじゃやつらに気づかれるよ。


 肺が空になるくらいのため息出た。

 わかってる、もう詰んでる。


 わかってるって。

 何年ぶり?

 でももう、アレやるしかない。


 できなきゃ死ぬ。

 

 腕を夜空に向かって大きく突き出せ。


「来い、ドリームコンパクト」


 来ない。


 声小っさ。

 肘もぜんぜん伸びてない。


「ちょちょちょ、ちょいちょい、ちょっと待って。

まだどっかで吹っ切れてない。

心が叫びたがってない」


 あ、ホントに待ってくれてる。

 意外といい人? 呆れてるだけ?


 最後のチャンスだよ、クルス。

 あの頃の自分を思い出して。


 恥ずかしくなんかなかった。(中学生だから)

 かわいいってみんな言ってた。(中学生だから)

 輝いてた。(世の中わかってなかった)


 ()の中は全部忘れろ。


 オトのことだけ考えろ。

 もっぺん行くぞ。


「てめえら、オトを泣かすな‼

こぉぉい! ドリームコンパクトッッ!」


 来た!

 火傷するくらい手が熱いぜ。


「夜の星々よ、私に力を!」


 まず服が謎の光になります。


 次に謎のポーズです。

 私がバレエをやっていたので、

 バレエ由来と思われます。


 抵抗できません。

 やるしかありません。


 ポーズを決めるごとに服がチェンジ。


 レース飾りの付いたニーハイです。

 パニエもないのに広がってるスカートです。

 フリルというよりラッフルな感じのひだです。


 パフスリーブ、かわいくて好きだった~。

 鏡で見るためだけに変身したっけ。


 あれ? 目から汗が……


 首から上はさらに注目ですよ。


 コンパクトの鏡で自分を見ます。

 化粧が施されます。

 夜色のアイライン(イミフ)、大人っぽかった。


 でも大人っぽいって、大人じゃないの……


 髪が三倍に伸びて頭の高いとこで括られます。

 髪飾りは……でっかい星です。

 スタァァァ!


 私、顔まっ赤。おっと笑顔、笑顔……


 夜の星がイメージですので全体的に色は暗め。

 透明感を出すため、ところどころシースルー。


 二十四にもなると完全にそっち側の人です。


 誰だ、夜の蝶って言ったやつ⁉


 ……コホン、

 さあ、仕上げですよ。


 夜を楽しむように腕を大きく回して、

 目を閉じたら手を耳に当てましょう。


「闇夜を彷徨うあなたの祈りを聞き遂げる。

星空の守護者、

ドリームスターナイト!」


 手をそっと顔に添えて(ただの小顔自慢)。

 カメラ目線。


「安らかに、お眠りなさい」


 できたーー!

 まだ変身できた。


 死ぬほど恥ずかしいけど、

 てか、何かが死んだ。


「油断した私が悪かったとはいえ、

高い代償だったなあ。

でもまあ、こうなったからには──」


 私は三人を見据える。


「マジで安らかに、眠らせてやるよ」

読んでいただき、ありがとうございます。

まだまだ手探りで執筆中です。

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