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第十七話 ロックオン

 最初は持ち物検査と身体検査からだった。


 どっちもノエルさんが行い、

 私が『サイン』とやらを持っていないか確認する。


 もちろん荷台とタープで作った囲いの中で。


 身体検査はギリギリまで脱がされたなぁ。

 サインって術式みたいなもの?


 私の所持品──彼女からすれば珍妙な──

 魔術道具についてもあれこれ聞かれた。


 こっちは単なる好奇心だね。

 当然、全部は教えないよ。


 でも結局、一番驚愕してたのは自作のブラだったけど。


「こ、これ、これはご自分で作ったんですか?

全ての女性にとって福音となりますよ。

予備があるならぜひ譲って……あ、でもこれじゃ私には小さいか」


「あんだと、コラ」


「なぜ怒るのです? 客観的事実でしょう?」


「無自覚ですか、そーですか。ご立派でいいですね。

服着ていい? サインなんてないでしょ」


「目視できる範囲では」


「そんなの疑い始めたらキリがない。

だいたい、サインってなんなのよ?」


「まだ教えるわけにはいきません。

オーロラ、入ってきて大丈夫ですよ。彼女は持っていません」


 ノエルさんは囲いの外で待機していたオーロラさんに声をかける。


 なんでオーロラさんも外?


「よかった。じゃあ話の前に来てくれる? 彼が挨拶したいって」


 馬車は応急修理で走れるようにはなったみたい。


 オトがヒュッケさんに抱っこされて馬に餌をあげてる。

 乗せてもらったの、よっぽど楽しかったんだね。


 ヒュッケさんは私を見つけると小声で話しかけてくる。


「おい、俺がママゴト遊びが好きってどういうことだよ?」


「あいつらが私の名前知ってたから、

とっさに偽名使って夫婦だって嘘ついたの。もち、バレたけど」


「ならそう言えよ。

今度会ったらママゴトやろうって約束させられたよ」


「普段、嘘つくなって言い聞かせてるのよ?

私が嘘ついたなんて言いにくいでしょうが」


「嘘に嘘を重ねてんじゃねえか。

つか、なんだお前? 指名手配されてんのか?」


「何か秘密の相談事ですかぁ?」


 ノエルがにこやかに近寄ってくる。

 子猫見つけたみたいな顔で魔力を尖らせるのやめろ。


「ちわげんかだ、オトもくわないやつだ」


「おやまあ、再婚ですか、リーナさん?」


「謝るから、それもうやめて。えと、それじゃあヒュッケさん、

短い間だったけど楽しかった。ありがとうね」


「こっちこそ、いろいろ刺激的な旅だった。

騎士団の方々も、助けていただいて感謝します」


「いえ、困っている人を助けるのは当然です。

ティタニア様の管轄地では香辛料の取り扱いは

自由化されてますので、隠さなくてもいいですよ」


 ヒュッケさん、複雑な表情。


 アンセル様の治世なら当たり前のことを、

 ティタニアの恩情みたいに言われたらね……


 それでもヒュッケさんは深く頭を下げ、

 最後にオトの頭を乱暴に撫でて別れを告げる。


「ヒュッケ、またあおうな。

そんときはオトがけっこんしてやるからな」


「お、おう」


 何か言いたそうに私を見てる。

 心配してくれてる。


 私は小さく首を振った。


 どうか何も言わないで。


 騎士団がどうして私を探していたのか、まだわからない。


 一級魔術師を相手にコイン詐欺みたいな失敗をやらかしたら、

 それこそ致命傷だ。


「ほらオト、いつまでもお馬さんにしがみついてないで、

ちゃんとバイバイして」


「うん、おまえのことはわすれないよ、ヒュッケ」


「ヒュッケは俺だ。え? ずっと馬の名前だと思ってた?」


 オトと一緒に手を振ってヒュッケさんを見送っている間も、

 ノエルさんは私を見てた。


 さっきとは違って疑ってる、というよりは興味深い、

 といった視線だけど。


 居心地悪いのは変わらないよ?


「さて、クルスさん。

僕たちもそれほどのんびりとはしていられなくてね。

悪いんだけど一緒に来てくれるかい?」


 魔術師の馬車にはすでに私とオトのスペースが用意されてる。


 オーロラさんは丁寧に頼んでくれてるけど、

 これは拒否権なんかないなぁ。


 オトは喜んで飛び乗ってるけど。

 飛び乗って同乗者全員に自己紹介してるけど。

 なんならすでにお菓子とかもらってるけど。


 魔術師はみんな女の子だ。

 そりゃ、オトの魅力には抗えまい。


「隣、失礼しますね」


「あ……ノエルさんもこっちに乗るんだ?」


「でないと話ができません」


 当たり前のように詰めて来た。

 魔術師四人とノエルさんに囲まれた。


 ノエルさんもオトには優しいけど私とは目も合わせない。


 警戒されてる。


「そう緊張しないでくれ。

僕としてはアドバイザーくらいの気持ちで一緒に来てもらってる」


 馬車の横にオーロラさんが付いてる。


 隊長自らがフットマン?

 一応、扱いはゲストなのかな。


「私は違います」


 違った。


「ノエルは深刻すぎるんだよ。もう少し肩の力を抜かないと、ね?」


「うん。めのとこぎゅーってなってる。

つかれてるならクルスのひざでおやすみなさいな」


「子供にも言われてるじゃないか」


「冗談はやめて。私はいつもどおり。疲れてもいない」


 と言いつつ眉間を揉み解すノエルさん。

 他の魔術師の子たちもちょっと笑ってる。


「膝で寝ないの? 私はべつにいいよ?」


「寝ません!」


「じゃあオトがねる」


 オトが私の膝に倒れ込むように横になる。

 足はノエルさんの膝に乗ってる。


「なにあんた、眠かったの? 疲れちゃった?」


「うん。ちょっとくたびれた」


 カーチェイスしたり騎士団の人たちの間を走り回ったり、

 大忙しだったからね。


 興奮が冷めて疲れが出たかな。

 ポンポンってしてたらすぐ寝ちゃった。


「あの……ノエルさん? この子が寝たからって

遠慮なしにガン見するのやめてもらえます?」


「お子さんですか?」


「違うけど、それと同じだと思ってる。

外形呪詛の孤児なんてユースじゃ珍しくもないでしょ?」


「ユース戦争のことを言ってるなら、あれはアンセルが始めたことですよ」


「都合のいいとこはあの双子の言い分を支持するよね、ティタニア様は」


「聡明であるがゆえさ。あの方は感情に振り回されたりしない。

あの双子と違ってね」


「確かにね。ずっと様子見して、

最終局面で妖精騎士団を投入してユースフ・ユシフを陥落させた。

最小の被害で最大の利益。聡明だわ。

最初から介入してくれれば、あんなバカみたいな魔女狩りなんて──」


「やめなさい。

あなたを探したのはそんな使い古しの政治談議をするためじゃない」


「へえ、じゃ何のため?」


 ノエルさんはビクともしないけど、魔術師の子が二人、

 引け目を感じたみたいにオトから目を逸らした。


 罪悪感、いただきました。


「オトが寝た途端、性格悪くなったなぁ。

そっちが本性? ノエル、まずは僕から話をしても?」


「そうね、意外とあなたと気が合いそうですよ」


「おっと、ご機嫌斜めだ。これは真面目にやらないと。

クルスさん、今年の赤い月の日、

短い時間だけど月が異常に赤くなったのを見た?」


「……ええ、まあ。オトと一緒に見てました」


「あれ、一部の地域でしか観測できなかったんだ」


 オーロラさん、いい笑顔。


 つまり赤い月の日、私がどこにいたかを絞り込まれたってわけ。


 いいじゃん。

 性格悪いじゃん。


「原因を探ってるんですか?

でもそれなら九神庁の見解があるでしょう?」


「大気中の成分の変質により一時的に赤く見えただけ、だってさ。

適当だよね」


「適当ですね」


「そこで僕たちが調査することになった。ヒマだったし」


「暇じゃありません。勅令です」


「ははっ、ゴメンゴメン。

で、調べたら赤い月の夜にわりと気になる事件が出てきた。

ミトラ地方のすみっこ──」


「魔術で記憶を消されたらしき三人の男性を治療したという

報告がありました」


 魔術の話になったらノエルさんが引き継ぐ。

 息の合ったコンビだね。


 二対一で殴られてる気分。


 でも忘れてない?

 私は今、オトを膝に乗せてるんだよ?


 すなわち無敵。

 記憶喪失レベルですっとぼける。


「ノエルさんが知らないわけないですよね。

魔術で記憶を消すのはかなり難しい」


「そうね。私でも一人が限界」


 できんのかよ。

 完全にイカれた化け物だよ、この人。


「そもそも赤い月と何か関係あるんですか?」


「わからない。だから話を聞いてみたかったの。

その男性三人が発見された近辺に滞在していた、ただ一人の魔術師に」


「その日から一週間も経たずにその村を離れた四級魔術師クルス。

あなたのことだよね? クルスさん」


 おやおや、これはたいぶ前からロックオンされてた感じ?


 がんばったわね、ボーイズ&ガールズ。


 でも、私が変身できるなんて知ってるのはこの世界に二人……

 オトと先生だけ。


 焦る必要まったくなし。


 オーロラさんの目を見て余裕で言える。


「わ、わたしはやってない」


 ……オトと同じレベルだった、私。

読んでいただき、ありがとうございます。

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