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第一話 今日は月が赤いですね

魔法少女が異世界で大人になったら……

そんな感じの物語です

 今日は月が赤いなー


 なんて、ひとり呟く二十三歳の秋。


 半日、森の中を駆けずり回って

 疲れ果てたわりには稼げなくって。


 一人とぼとぼ歩く村への帰り道、

 そりゃ独り言くらい出ますよ。


 そういえばお母さんもたまに独り言いってたっけ。

 お酒飲みながら。


 きっとヤなことあったんだろうな。

 ……今日の私みたいに。


 まったく魔術協会の連中、

 同行者要請資格を誰にでも出すんじゃないよ。


 なんだよ、あの山賊まがいの三人組は?


 取り分は等分って話だったのに、

 仕事が終わったら私のぶんは一割とか言い出した。


 四級魔術師にはそれで充分だあ?


 その四級のしょぼい魔術のおかげで、

 擬態を覚えた幻夢トカゲを退治できたんだろうが。


 そりゃ戦闘では見てただけだよ?

 私、攻撃的な魔術なんて使えないし。


 でも四とか五に支援以外を期待するほうが

 どうかしてるし、なんにしても一割はね。


「ないわ。疲れた、休憩」


 ポッケの中でチャリンと鳴る銀貨二枚。


 赤い月の日の夜更かしのお菓子を買うくらいは

 できるし、これで良しとしますか。


 そう思ってため息つくのも四回目。


 ベストのいっぱいあるポケットの一つから

 ハチミツとジンジャーのクッキーをPick。


 家庭科で習った簡単なお菓子。

 これがどれだけ私の心を救ってきたことか……


 今回はそれでもダメ。

 気分が晴れずに頭抱えちゃってる。


「ああ~、会いたいな~、お母さん」


 やっぱり赤い月の日はメンタル落ちる。


 こっちの世界に来た日も赤い月の日だったから。

 どうしても、もとの世界のこと思い出しちゃって。


 でも、お母さんのことは心配してないんだよね。


 私が魔法少女だってことも秒で受け入れたし、

 応援してくれたし、

 いつだって私のことを信じてくれた。


 きっと今だって……


 まあ、対魔法少女用抗魔力怪獣に改造されたとき、


 『ドキドキ☆ドリームスター無影脚』


 で四千回蹴ったのには、さすがにキレてたけど。


 面白かったな、あのときのお母さんの顔。

 怒ってるけど笑ってる、ヘンな顔。


 今の私はどうかな?

 怒ってる? 笑えてる?


 ……笑わなきゃ、でしょ。


「よし! ウジウジすんのやめ!

お母さん、私は元気です。

いつか絶対帰るから、それまで待っててね」


 赤い月を指さし誓う。

 こういう魔法少女時代の癖、抜けないなあ。


 いや、これはマリの影響だな。

 あの子、いちいち大げさだったから。


 懐かしい。マリにも会いた……


 あ、いや、それほど会いたくないや。


 家に帰る前にちょっと寄り道。

 村で一件だけのパン屋さんでお菓子を買う。


 赤い月の夜はみんな眠らない。


 だから夜更かし用のお菓子やら軽食やら、

 パン屋さんが一晩中、売ってる。


 今年は奮発して糖蜜かかったシフォンケーキ。

 銀貨半分、いったらぁ。


「お、クルスちゃん、今年は景気いいね。

昼間の仕事、もうかったのかい?」


 パン屋のご主人。

 太ってて身体大きくて、優しいおじさん。


 目がスケベ。


「ぜんっぜんだよ、けち臭いったら。

腹立つから全部使いきってやろうって」


「はは、宵越しの銭は持たねえって?

まあ今日ならアリだな。

そっちのカヌレはどう? あの子好きだろ、

あの……えっと、名前いつも忘れちまう」


 認識阻害かけてるからね。


 村の人はみんないい人だけど、

 やっぱりそれなしってわけにはいかないの。


「罰として焦げてるの一つおまけで」


「かなわねえな」


 もうけもうけ。

 やなことあった日は、笑うといいことあります。


 店から出るときお尻に視線を感じるのは

 いつものことだからノーカンで。


 田舎じゃ珍しいからね、女のパンツルック。


 私もね、魔術師の資格取りたてのころは

 イキッたローブを着てたのよ。


 でもあれ裾がパサつくし、

 なんか引っかかるし転ぶしで、

 いろいろ自作してたら立派な山ガールになってた。


 魔術師……だよー?


 さっそくおまけの一個は口に放り込み、

 鼻歌うたって村の外れの雑木林に。


 赤い月の夜は道が明るくていい。


 家の周りには方向攪乱の結界張ってるから、

 目印見落とすと帰れない。


 こういう設置系は魔力低くても使えて便利。

 私のメインはこっちなんだよね。


 はい、木にぶらさげた星形のアクセ。

 ヘンだけど、私がわかんなくなったら意味ないから。


 愛しの我が家はちっちゃなログハウス。


 かまどと暖炉が別にあるってのが嬉しいなんて、

 こっちの世界に来なかったら知らなかった。


 でも、そんなことよりもっと大事なこと。

 こっちに来て初めて得た感情。


 どんなに疲れてたって私を明るくしてくれる、

 それは──


「たっだいまー、オト、帰ったよー。

遅くなってごめんね。

でも、今日はお土産がありまーす」


 あれ? いない。

 いつも突撃してくるのに。


 暖炉に火は入ってる。

 蝋燭の明かりも。


 LEDの光を知ってると、

 この薄暗さには一生、慣れないなー。


「オト~、いないの~?

お腹減らしてるはずなのに、おかしいな。

薪でも拾いに行った?」


 太ももになんか噛みついてきた。

 甘噛み。


 ふふ、誘いに乗って出てきたな。

 私もすかさず噛みついてやった。

 頭に。


「んぎゃ~~、クルスにくわれる」


「そりゃこっちのセリフじゃ。

人に噛みついちゃダメって言ったよね」


「おかえりのとつげきはいいっていった」


「噛みついたのは?」


「……おいしそうなにおいがしたから、つい」


「ついか~、じゃしゃあない」


 抱き上げて頬ずり。

 ちょっとひんやりしてて気持ちいいんだ。


 雪みたいに真っ白な肌。

 ほんのりピンクがかったサラッサラの髪。

 鼻とか口とかちっちゃくてお人形さんみたいで。


 綺麗だけど深い海の色をした瞳に見つめられると、

 たいていのことは許しちゃう。


 私のオト。

 マジ天使。


 この子に出会って、

 この子を守ろうって決めて、

 初めて私はこの世界の一員になれた。


「また歯が尖ってきたね。唇切る前に削ろっか」


「うん。きれるのヤダ。でもいまはおなかすいた」


「待っててね、すぐ作るから」


 私はデキる女。

 本当にすぐ作れます。


 パンの種は床下の天然保冷室に寝かせてあるから、

 それを茹でて焼きます。


 その間、もらった鹿肉と野菜を鍋に入れて

 火にかけます。


 オトと一緒に動画撮ってるつもりでダンスします。


 完成です。


 お母さん、コロッケ食べたいとか気楽に言って

 本当にごめん。


 そして忙しい中、いつも作ってくれてありがとう。


 私が喜んで食べるの、

 オトが喜んで食べるのと同じくらいかわいかった?


 私がいま感じてる幸せを、

 お母さんも感じてくれてたら嬉しいな。


「クルス、ケーキもたべたい」


「ダーメ。今日は寝ないんだから、

後にしないとお腹すいちゃうよ?」


「ねないの? なんで?」


「なんでって……」


 あ、そうか、気づいてないのか。

 家の中にずっといたし、日付とか知らないし。


 オトの手を引いて外に連れ出す。


 妙に纏わりつくような空気と空が低く

 感じる赤銅色で、まるで海底にいるよう。


 オトは月を指さし、私の顔を見てにぱっと笑う。


「あかい。おつきさま、あかいひだ」


「そ、今日は月が赤い日。

私たちが初めて出会った日だよ」


「それだ! たんじょうび?」


「う~ん、おしい。

でも、誕生日でもいっかぁ。

一年に一回しかないし、忘れないし」


「うん、そうしなよ」


「では誕生日おめでとう」


「クルスもね」


「え? 私も? あ、ありがとう」


 いきなり二十四になってしまった。


 時の重みに押しつぶされて寝転がると、

 すかさずオトがくっついてくる。


 私の脇に頭突っ込んで寝るの、好きなんだよね。


「こらー、横になってたら寝ちゃうぞ」


「ねない。クルスがねないならねない」


「む、どこで覚えた、そんな責任転嫁」


 オトにハッピーバースデイの歌を教えて、

 一緒に歌って誕生日を祝った。


 どこでどんなふうに生きてても、

 一緒に誕生日を祝う人がいるというのは

 とても恵まれたこと。


 今日という日に一緒にいてくれてありがとう。

 素敵なバースデイプレゼントだよ、オト。


 こっちに来て十回目の赤い月。


 私、来栖リナ。


 魔法少女でしたが異世界に来てはや十年、

 普通に魔法使いやってます。

読んでいただき、ありがとうございます。

まだまだ手探りで執筆中です。

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