表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

村長無双 ~魔王討伐に旅立った老人は元剣聖だった~

作者: 結城 からく

 私は泣きそうな顔で村の人達に訴えかける。


「ねえ、どうして誰も村長を止めないの!?」


 その問いに対する皆の反応は冷めたものだった。


「村長が自分で行くと言ってるし……」


「別に構わんだろ」


「あたし達は応援してるのよ」


 誰も私の意見を真面目に聞いていない。

 白けた空気が漂っていた。

 私は悔しさに下を向いて震える。


(村の皆がこんなに薄情だったなんて……)


 そこに村長が現れた。

 村長は背中を丸め、杖をつきながら村の外へと歩き出す。

 途中で振り返った村長は、気さくな様子で呼びかけた。


「では皆の衆。行ってくるぞい」


「待って!」


 私は我慢できず村長に駆け寄った。

 村長は首を傾げて尋ねる。


「どうしたんじゃ、エルラ」


「どうしたもこうしたもないでしょ! 村長が魔王討伐に向かうなんておかしいよ! 死にに行くようなものじゃないっ!」


「ほほう、その話か」


 村長は顎髭を撫でつつ微笑んだ。

 それから目を細めて語る。


「老い先短い人生……最期くらい世の役に立ちたいんじゃ」


「村長……」


「儂が去れば、口減らしにもなるでな。村のためにもこれが最善の選択なんじゃよ」


 どこか寂しげな村長を見た私は、一つの決意を固める。

 それをそのまま村長に告げた。


「じゃあ私も魔王討伐に行く! 村長を手伝うよ!」


「何を言っておる。危険な旅なんじゃぞ」


「だからこそ村長を助けるの! 魔術だって少しは使えるし大丈夫!」


 私は手の上に火球を生み出す。

 習得したばかりの魔術だけど、もう制御は十分にできている。

 村一番の魔術師と褒められることも多いのだ。


 私の覚悟を見た村長は悩む。

 同行させるか迷っているのだろう。


 ダメ押しに別の魔術を披露しようと思ったその時、上空に漆黒の馬が出現した。

 馬は禍々しい翼で飛行し、全身から強大な魔力を放っている。

 魔族だ。

 それも上級と呼ばれる個体だろう。


 大笑いする魔族は、私達を見下ろして宣言する。


「ギャッハッハッハッハ! 俺様は魔王軍の大幹部ゼアル! 今日からこの村は俺様のものだァッ!」


「この村は皆のもんじゃ。占有されると困るのう」


 村長が平然と苦言を呈する。

 笑うのをやめた魔族ゼアルが、殺意を込めて村長を睨んだ。


「クソ爺が……俺様に歯向かった罰を与えてくれるッ!」


 次の瞬間、ゼアルが急降下してくる。

 膨大な魔力を帯びた巨体が村長に衝突する寸前、胴体がぱっくりと二つに割れた。

 内臓をばら撒いて地面を転がったゼアルは、混乱した顔で口を開く。


「…………あ?」


 ゼアルに村長が歩み寄る。

 枯れ木のような手にはいつもの杖が握られていた。

 杖の持ち手が外れて、隙間から僅かに刃が見えている。


 仕込み杖だ。

 まるで見えなかったけど、村長がゼアルを斬ったらしい。

 村長は大げさにため息を洩らす。


「つまらんのう。近頃の魔族は威勢ばかりで弱くなっとるな」


「ちょっ、おい! 待て待てクソ爺っ! お前は一体何者——」


 村長の杖が動いた。

 ゼアルの首が刎ね飛ばされた。

 やっぱり速すぎて何も見えなかった。

 村長は杖を下ろしてぼやく。


「害獣とは対話せんわい」


 気が付くと私は地面に座り込んでいた。

 驚きの連続で腰を抜かしてしまったのだ。


「そ、村長がこんなに強かったなんて……」


「ああ、エルラは若いから知らないか」


 後ろにお父さんが立っていた。

 私はお父さんに訊く。


「知らないって何を?」


「村長は先代勇者パーティの剣聖だったんだ。居合の達人で、どんな魔族も一太刀で倒したそうだ。実力は健在……どころかさらに強くなってるな」


「だから誰も村長が旅に出るのを止めなかったんだ……」


「村長よりも、敵対する魔族が心配したくなるよ、はっはっは」


 お父さんは暢気に笑う。

 それを見た私は 自分の言動を振り返る。


(魔王軍の大幹部を瞬殺って、私が手伝う必要ないじゃん)


 そう思ったのに村長がこちらに向かって手を振っていた。

 村長は歩きながら私の名を呼ぶ。


「エルラよ、出発するぞー」


「えっ、あっ、はーい」


 反射的に立ち上がった私は、村長と共に故郷の村を発つ。

 自分なんかいらないと思ったのに断らなかったのは、これからどんな展開になるか気になったからだろう。

 こうして私は最強の剣聖と旅をすることになった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
リゼンかと思ったけど、違う様でしたね。仕込み杖というのがナイスです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ