5-16
「シオンの言ってた通りだった。アンナが件の伯爵家に引率するようになってた。」
フリージアはマーガレットから聞き出した情報をこの件に関わる全員に共有した。
「引き渡しは3日後。ただ場所が判らん。」
「何で~?伯爵家でしょ~、普通に考えたら貴族街だよね~。」
「それなんだが、新興の伯爵家って事らしいからまだ王都での邸宅が決まって無いらしい。だから、王都で合流して、領地に向かうらしい。」
この話にマグノリアは怪訝な顔をした。
「・・・新興なんですよね?領地なんてあるんですか?」
「そこなんだよ。ロイズ王国の領地はほぼ埋まってる。王家直轄地の払い下げなんて起きて無いのに、何処に領地が在るんだって話だ。」
「公爵領からは~?」
「無い。そんな話があったなら、私等でも耳に入ってる。」
「・・・確定ですね。何かろくでも無い事が起きます。アンナ、防護兵装の準備を。」
「持てるだけ持ってくけど~、多分無理じゃないかな~。」
「何でだよ?孤児院に守る武器はあったじゃん?」
シオンはこの孤児院を探索していた時に、倉庫に埃が積もった武器が置かれていたのを思い出した。
「それはね、孤児院を守るための物なの。個人所有の兵装は身綺麗の対象外なの。」
「今回は引率だから~、個人的な物しか持ってけない~。」
「・・・教会の教義って駄目だな。こういう時、融通が利かない。」
それを聞いた大人3人は苦笑いをした。
「それで救われる人もいますから、私達からは何も言えませんね。」
「それ~、言ってると同じ~。」
「まあ、今回は不都合だらけね。」
「それよりも警邏隊ですね。これだけ証拠が在れば動いてくれるはずです。」
「動くと良いね~。」
「何だよ?動いてくれるんじゃね~のか?」
シオンは話の流れから推察した当然の疑問を口にした。
「1月前の農場爆発事件が後を引いてまして・・・。」
「結構な数の警邏隊員が~、そっちに注視してる~。」
1月前に起きていた爆発事件は犯人逮捕と相成ったがその爪痕は酷く、他の農場の警邏に隊員の大多数が向かっていた為、他の業務があまり出来ない程であった。
「流石に国民の腹を満たさにゃならんからな。」
「・・・他の領から支援は無いのかよ。」
「在りますけどピッチバードの涙ですね。」
「これが収穫期だったらいいんだけど、今は作物の植え込み時期だからな。何処も彼処も余りがあんまり無いんだよ。」
「在っても~、夏の災害用に蓄えてる奴だしね~。」
この世界の災害は何も自然災害だけではなく、魔物による災害もある。
その分の余剰備蓄をしても作物の植え込み時期には消費してしまう可能性があり、王都にも過剰に備蓄できていないのであった。
「動いてくれるのを期待しないといけないのは嫌ですね。」
「と、言うか動けってんだよ。こういう時の公権力だろ。」
「その力は大衆の為だよ~。大多数の為なら~、少数は捨てるでしょ~。」
「何方にしろ今の私達に限って言えば最悪だ。せめて場所が分かれば此処を抜け出して一緒にいれるんだが・・・。」
「一緒についてけないのか?」
「その時は大体、別の仕事を振られますね。別れを惜しまないという建前の為に。」
「駄目じゃん。アンナ姉ちゃんの防護兵装だよりだ。」
「その兵装も私個人を何とか守るだけだから~、シオンまで確実に守れない~。」
教会員が個人で持てる防護兵装は自身を守るための物に限られる為、2人以上になると効果が薄まる物だった。
「・・・何でこうなった?何処から間違ったんだ?」
「何も間違えちゃいないよ。今回に限って言えば、あの院長がヘマをやらかしたんだよ。」
「よくあんなんで院長なんて職に付けたな。絶対何処かでボロが出てるだろ。」
「それが可笑しい事に紹介された時は結構な人格者って話なんだ。何で今回に限ってこんな事になるんだって位にね。」
「前の院長が死んだ後に~、この街の外の院から引き抜かれたんだって~。」
「・・・何か怪しいな。その時に入れ替わって無い?」
「無いない。顔も名前も経歴も全部用意されてた資料と合致してたんだから。」
「じゃあ無いか。・・・それより3日後だよ。何とかできないの?」
「・・・少し保険を掛けましょう。明日、知り合いに話を持ってきます。その人にちょっと変わった依頼をしようと思います。」
「何だよ?私達にも話してくれないの?」
「受けるかどうかが判らないので内容は言いません。ただ、受けてもらえたら全部一気に解消できるかもしれません。」
「一応聞くがそれは探索者に依頼を出すのか?」
「そうですね、個人的に信用できる人です。」
「お金は?」
「大丈夫です、何とかします。・・・ちょっと貯金を見てきます。」
そう決意表明したマグノリアは貯金を見る為に部屋を出て行った。
切りが良いのでここで切ります。
何とか更新したいけど本当に時間が取れない。(現状忍者は2章途中です。)
ピッチバードって何?
魔物です。
只、依頼価値も無い魔物です。(現実で言う雀みたいな鳥)
何も取れないので探索者のいざと言う時の食事に狩られます。(一部魔物は食えます)
なお偶にする糞攻撃は強酸性の為、回避するのが得策。(ただ気付きにくい形でやられるので注意し辛い)