5-13
「なあ。」
「何だい?シオン。」
「あの人っていつもあれか?」
厨房内で人参を切っていたシオンは、少し顔を上げると見える光景から気を紛らわせたくてフリージアに話しかけた。
「マグ姉、火が消えた。」
「どれどれ・・・木の入れ過ぎだね。ちゃんと空気が通る様に入れないと駄目だよ。【灯】」
「ありがと~。」
「これ、切れない~。」
「ええっと、切れないじゃ無くて、力が無いからかな?固い物はもっと大人になってからね。【乱風刃】」
「痛いよ~!」
「勢いよく切ったら駄目だよ。ザックリいかなかっただけ良しとしないとね。【修復】」
その光景は魔法を少しだけ知っているのなら異様だった。
小さな火だけしか出ない筈の魔法で竈の木を燃やしたり、先程使った風の魔法で食材だけを切り、軽い切り傷が瞬時に治った。
これがほぼ同時に行われて、尚且つ竈だけ見た状態で、これだけの事をやってのけたのであった。
「化物かよ。」
「正真正銘の人間さね。まあ、私も偶に化物かと疑うけど。」
「何か言いました~?」
丁度、竈の事が終わったマグノリアが振り返って問いただしてきた。
「相変わらずとんでもない魔法だねって。」
「ちゃんと理論は在りますよ。」
「その理論、誰でもできるか?って事。」
「無理でしょうね。少なくとも同時起動を出来る様にならないと。」
「同時起動?」
「魔法の同時起動ね。私も一応出来るけど、出来て初級のが2つだよ。」
「マグノリアは?」
「ちゃんと数えた事は無いけど、体調最悪で初級なら8はいけますね。」
「8!?あんたまた増えたじゃない!」
「凄いのか、それ?」
「・・・多少魔法はかじってるようだから言うけど、魔法を使うのって大変でしょ?」
「まあ、確かに。演唱に頭の中での処理と魔力消費で結構疲れるな。」
魔法の発動には魔力消費の他にも演唱と効果の想像をしないといけないので、低難易度の魔法1個の発動だけでも、慣れないと結構疲れるのであった。
「同時起動はそれを2つ以上同じタイミングでやるのよ。」
「・・・うえぇ。普通に気持ち悪い。」
「気持ち悪・・・何で!?」
「あの苦しみを気分が悪くても8個イケるとか言われたら、普通に気持ち悪い。」
「まだ子供だからですよ!大人になれば改善されます!」
「その大人でも2つが限界の人がいるんですが、その辺どう思います?」
「努力です!努力でいけます!」
「出来るか、戯け!」
マグノリアに軽くツッコミを入れたフリージアは、シオンに向き直った。
「まあ、こんなんだ。人間か怪しいが、間違いなく人間だ。」
「伝説の魔法使いは戦闘用の上位魔法を10個はやったそうですから、私は確実に人間です。」
「何処で張り合ってんだい・・・。」
呆れたフリージアだが周りを見ると、子供達に何かをさせる様な事があまり無かった。
「はい、お前等。洗い物したら食器の準備をしなさい。できるね?」
「「「は~い。」」」
「マグノリア、こっち来て。味付けの最終調整を頼むよ。」
「解りました。」
足早に鍋の方に向かったマグノリアはさっさと味見をした。
「良いと思いますよ。後は子供の舌の感じ方ですね。」
「そいつは良い。あんたの舌には子供を思う気持ちが在るからね。」
「有難う。」
そう言ったフリージアだったが、直ぐに沈痛な顔をした。
「・・・マグノリア。本当に魔法騎士団に未練は無いの?」
「またその話?私には向いてないよ。」
「それだけの才能がありながら此処に居るのは、宝の持ち腐れだよ。あんたなら早急に上の方に行けるだろうに。」
「血生臭いのがあまり好きじゃ無いの。あそこに入ったら魔物や人間相手にほぼ毎日、魔法を放つじゃない。私はそれが駄目なんだって、研修の時に思い知らされたの。」
「その時に一緒に居たから知ってる。だけどね、未練だけが残ってたら、やってみなって言うのは良いだろ?」
「無いよ。私は子供達に奉仕する方が似合ってるわ。」
「そうだね、前もそう言った。OK、これ以上は聞かない。」
「有難う、心配してくれて。」
「うるせ~。・・・照り焼きってこんな感じか?」
「そんな感じ。味は?」
「渡来品だから正直良いのかはわからんが、確かにこりゃあ簡単で旨い。」
「なら良かった。盛り付けよう。」
「だな。・・・お前等、手伝え~。」
食器の配膳をしていた子供達を呼び、夕食の準備が佳境に入ったのだった。
切りが良いのでここで切ります。
マグノリアは厨房全体を監視できる場所に魔法で作ったカメラを置いて、そこから俯瞰視点で全体を見てます。
作業が終わったら毎回魔法を消してます。(消費が結構きつい為。)
態度違くない?問題
マーガレットはしつこい。
フリージアは偶に思い出した時にしか話さない。
対応が違うのはこの為。