5-11
院長室から出たマグノリアは、アンナが居るであろう脱衣所に向かっていた。
(さて、あの子はどうなったのかな?)
連れて来た子供がどっちの性別なのかが気になっていたマグノリアだが、
「ぶごぅ!」
「何だ?誰かいたのか?」
「・・・乙女が出しちゃいけない声が聞こえた~。」
脱衣所の前に来たと同時に扉が開いた為、顔面に扉がぶつかって来た。
顔に来た衝撃自体は小さかったが、突然の出来事だったので蹲ってしまった。
「マグノリア~、大丈夫~?」
「だびじょうびびゃばい。」
「鼻血は~?」
「・・・ぢょっどででまずね。」
「治そうか?」
「出来まず。【修復】」
鼻血を治して立ち上がったマグノリアは、鼻の通りを確かめる為に少しだけ多く息を吸った。
「・・・はぁ~、快調です。」
「凄いな、回復の魔法が使えるなんて。」
「え~?これって珍しいの~?」
「アンナ、普通は回復の魔法は教えられません。教会の教義を忘れましたか?」
「あ~、そう言えばそっか~。」
この世界の最大宗教である正教会の影響で、基本は治療院でしか治療が出来ない。
在野に居る治療者の殆どが治療院所属な上に、探索者に偶にいる治療者は正教会所属なのでお目こぼしが在るだけで、基本それ以外には治癒の魔法を使える人間が一般にはいないのであった。
「教会の教義って面倒だよね~。」
「・・・聞かなかった事にしますから口を閉じてください。」
「むぅ~。」
「それで、この子の性別は?」
「なんと~、女の子~。」
「そうなのか?」
「何で貴方が知らないんですか!?」
「だって、生きてく上で男だの女だの必要か?」
「これからは必要ですよ。」
「何で?必要無いだろ?」
「この施設には貴方のような子が沢山いますからね。その誰もが今では性別を気にしていますよ。」
その説明に、興味のなさそうな顔をした彼女は、こっそりと離脱しようとした。
「何処へ行くんですか?何処に行けばいいか分からないでしょ?」
すぐさまマグノリアに肩を掴まれ、逃げ出せれなかったが。
「では、一緒に行きましょう。まずは院長と対面ですね。」
「何でするんだよ?」
「そこで仮の名前を頂きます。成人するまではそれで過ごしてください。」
「名前って一生もんじゃねえのかよ。」
「孤児院出身の人って、成人後に変更する人が結構いるんですよ。『付けられた名前が嫌だ~』って人が、卒院と同時に別の名前になったりしてるなんてザラですね。」
「凄いよね~。男の子なのに『アニー』って名付けられたり~、逆に『クレス』って言う女の子もいるんだから~。」
「・・・大丈夫なのか、それ?」
「大体の原因が院長に目通りせずに大広間に行って、勝手に雰囲気で付けられた名前に落ち着くからですよ。」
「命名権って~、院の最高位の人が持ってるんだよね~。」
そんな説明を受けながら、院長室に3人は着いた。
代表でマグノリアがノックをすると、直ぐに返事があり入室を諭された。
「失礼します。」
「その子が例の子ですね。初めまして、この院の院長をしているマーガレットと言います。」
先程より小奇麗に纏められた机の奥に座っているマーガレットが出迎えた。
「さて、大体の事情は聴いております。まずはこの子の性別を。」
「女性でした。」
「・・・何でさっきと喋り方、いった!」
アンナの口調をずっと見ていたであろう子供が違和感を突いたら、アンナが見えない方法で小突いていた。
「聞こえていますよ、アンナ。後で罰を与えますので。」
「・・・承知しました。」
この後の説教が決まったアンナは少しだけ沈痛な顔をした。
「この子の名前ですが『シオン』と名付けました。以後、シオンと名乗る様に。」
「なんか慣れね~な。」
「口調もできるだけ早期に直すように。」
「何でアンタに口調の事で命令されなきゃいけね~んだよ。」
「それが此処に居る為に必要な事だからです。良いですね。」
「・・・逃げたくなってきた。」
「逃げてもいいですが、その場合はもう一度ストリートチルドレンとして生きてもらう羽目になりますよ。」
「我慢してね。もし、お貴族様の家に引き取られることになったら、ここよりもっと厳しい作法を叩きこまれる羽目になるから。」
「・・・解った。」
渋々と言った感じでシオンと名付けられた子は頷いた。
「さて、時間も丁度いいですね。夕食の準備に取り掛かりましょう。アンナは此処に残る様に。」
「解りました。」
「マグノリア、シオンを連れて食堂の準備室に。早速ですが働いてもらいます。」
そう言われた瞬間、シオンが身構えたが、マグノリアは何時もの事だと特に気にしなかった。
「あのねシオン。此処で暮らすって事は、助け合うって事を学ぶことなの。これも助け合いだから頑張ろう。」
「・・・解った。」
「じゃあ行こう。こっちだよ。」
マグノリアに引き連れられたシオンは、部屋を出て行った。
「若干、警戒心が強いようですね。」
「あれでですか?」
「まだ可愛いものですよ。本当の警戒心の塊は誰にも心を開きません。隙を見て逃げ出そうとする子は、今までいっぱい居ましたから。」
「そうですか・・・。」
「それより、アンナ。何故、こっそり逃げようとしているのです?其処に座りなさい。大体貴方は・・・」
何とか逃げようとしたアンナは余計に説教時間が伸びたと悟った。
切りが良いのでここで切ります。
すいません、体調悪化に付き更新時期が延びます。
体形で分からなかったの?問題
判り辛い服装ってありますよね?それと一緒。