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マグノリアはアンナと共に西区の方に来ていた。
「まさか、中庭の肥料が無くなってるなんてね~。」
「あはは・・・、御免なさい。」
原因はマグノリアが肥料の入っている倉庫の鍵を閉めずに放置し、そこに侵入した子供達が肥料を畑にぶちまけてしまった事だった。
普通なら東区でも手に入るのだが、肥料を扱っている所が全部が売り切れ、急遽西区に買い出しに来ているのだった。
「いいよ~。偶には孤児院を飛び出して~、繁華街でお買い物したいし~。」
「アンナって何か、教会員に見えないんだけど。」
間延びした癖のある喋り方をするアンナは、何処かうきうきとした気分で周囲を物色していた。
教会の教えではあまり宜しくないと思われる行為を平然とするアンナに、マグノリアは疑問をぶつけた。
「そりゃ~、元は貴族だったからね~。没落して乗っ取られたとは言え~、その頃の癖が抜けきれないよね~。」
「ええっ!?」
「本当だよ~。まあ~、この国じゃなくて~、別の国の貴族だったけど~。」
さらっと、とんでもない事を言うアンナに驚くマグノリアは、内心パニックになっていた。
(え?え?どう言う事?貴族が教会所属してこの国に入ったの?)
「多分~、混乱してるから言うけど~、乗っ取った側の人が~、自己権威証明の為に妾にしようとしてきたから~、教国に逃げて~、そのまま教会員になったの~。」
「ああ所謂、緊急避難と言うやつですね。」
「そう言う事~。」
正教会に入る方法は色々あり、その内の1つが緊急避難と呼ばれる物である。
望まない婚姻や両親の遺産の横取り等で困窮する貴族の子を、一時的に所属させる事で危険から守る方法である。
この方法を使う時は遺言状やその子の両親の同意が必要で、入った際にはその国とは関係無い国の正教会所属施設に預けられる事になる。
「私はお父さん達に逃がされて~、親戚の人に預けられたんだけど~、その人がお父さんの遺言状を持ってて~、その遺言通りにしたら教会に所属してた~。」
「筆跡とか大丈夫だったの?」
「教国で管理されてたやつだから~、心配無し~。」
「なら安心かな?」
「何で疑問形~。」
「昔、1人だけ在ったんだけど、筆跡偽造で無理矢理避難を適用させられた人を見たから・・・。」
「その心配は無いかな~。ちゃんとお父さんの字だったし~。」
そんな事を話しながら西区の園芸店に向かっていたが
「あれ?シスターさん?こんな所にどうしたの?」
下卑た目をした皮鎧の集団に囲まれてしまった。
「輩だね~。」
「ですね。」
「何で落ちついてるの?」
「私と居ると何回もありますからね。」
「大体は~、マグノリアの胸目当て~。」
「判ってんじゃん!そこの建物に一緒に行こうぜ!?」
指を指した先の建物は、あからさまな廃墟だった。
「20点~。」
「いえ、0点でしょ。」
そんな感想を言いながら、いつの間にかアンナはマグノリアに抱き着いていた。
「羨ましいな、オイ!!!」
「抱き心地最高~。」
「【身体強化】では、さようなら。」
「あっ。」
慌てて捕まえようとしてきた集団を他所に、マグノリアは身体強化した状態で屋根の上に飛び乗った。
そのまま屋根を次々跳ね飛びながら、輩達から遠ざかり始めた。
「今回も出たね~。」
「正直、飽きますよ。何度もこんな事が起きると。」
「でも私は役得~。」
「そんなに気持ち良いんですか?」
「ふわふわ~。」
「・・・知り合いに私より大きい人がいるんですが、その人に抱き着いてみますか?」
「この位の大きさが丁度良い~。」
「・・・そうですか。」
十分輩達から離れた所で地面に着地し、園芸店に向かって歩き始めた。
「何でこう毎回、ああ言うのに絡まれるんでしょうか?」
「柔和な顔のせいじゃない~?『この人なら許してくれそう』みたいなのが顔に出てるから~。」
「ううっ・・・。」
生まれつきの部分を指摘され、へこんだマグノリアだった。
切りが良いのでここで切ります。
抱き着いて胸に顔を埋めてました。
アンナの喋り方最初違くない?問題
マーガレットが孤児院の最高位かつ礼節に厳しい為、出来るだけ喋り方を去勢してます。
気が抜けるとこういう喋り方です。