5-3
『教室』と呼ばれる部屋は全体的に広く、壁際には板書可能な大きな黒板があるが、机の様な物は無い為、入った皆が黒板の前に半円状に座っていた。
黒板の前に立ったマグノリアは備え付けのチョーク型魔道具を持つと、説明に入った。
「じゃあ、まずはさっき使った捕縛鎖の説明からね。補助魔法の一種なんだけど、そこから細かく分類すると拘束系になる魔法ね。」
「何でそんなのが補助なの?」
「良い質問ね。補助に当たる分類としては『相手に直接的なダメージが入らない』って言うのが大体の定説なの。まあ、さっきみたいにその後の行動でダメージは入る可能性はあるけどね。」
捕縛鎖や身体麻痺の魔法は、その魔法が掛かった相手には一切と言っていい程ダメージは無い。
ただ、状況次第では副次効果でのダメージがあるだけである。
「捕縛鎖の場合だと足とか腕とか、そいう体の一部分に魔力で組んだ鎖とか縄とかで拘束するの。だから、走ってる子の足に捕縛鎖を発動すると、勢いが付いて、前に転んじゃうんだよね。」
「さっきのダニーがそれ?」
「そうね。」
実際に掛けられたダニーは感心しており、その目は何かの悪戯に使う気満々の目だった。
「使い方次第では本当に補助になるの。例えば剣を振り下ろそうとした相手の腕に掛けて、その動きを止めたり、モンスターの突進に合わせて、魔法を真っすぐに伸ばして引っ掛けて転ばせたりとかね。」
「「「へぇ~。」」」
「他にも捕縛鎖の良い点は魔力消費が少ない点なの。ちょっと待っててね。」
そう言うとマグノリアは、黒板に板書し始めた。
簡単な人の体を2つ書いて、そのお腹の部分を丸の形にすると子供達に向き直った。
「このお腹の丸の部分が魔力量だと思ってね。同じような魔法で身体麻痺って言う魔法があるの。それを相手に掛けると・・・」
そう言って1体の丸の部分の8分目位に線を引き、その下の部分に斜線を引いた。
「斜線が消費魔力量ね。この魔法はこんなに魔力を消費します。対して捕縛鎖は・・・」
もう1体の方には4分目位に線を引き、その下に同じように斜線を引いた。
「これだけしか使わないの。これなら他の魔法を続けざまに使えるでしょ。だから、状況次第ではこっちの方が有利になるの。」
「じゃあ、何で身体麻痺の魔法があるの?捕縛鎖だけで良いじゃん?」
「さっきも言ったけど、一部分にしか効果が無いの。身体麻痺は体全体に掛けれるから、最終結果的にはこっちの方が効果的なの。」
「ふ~ん。」
「後、人によっては鎖を無理矢理引き千切る人もいるからね。身体麻痺は体を麻痺させちゃうから、そんな事にはなりにくいの。」
「なりにくいって?」
「体質的に魔法が効きにくい人とか魔物がいるの。そういうのだと魔法の効果を弾いちゃうから、魔法で麻痺させたり、魔法の鎖で拘束する事が出来ないの。未だに物理的な鎖とかを使ってる理由ね。」
「へえ~。」
そう説明するマグノリアだが捕縛鎖の他の使い方は言う気が無かった。
(魔力の鎖なんだから、意外と応用範囲が広いのよね。鎖を各部位に巻き付けて攻撃の補助にしたり、巻き付けた鎖を伸ばして移動補助にしたり、鎖を鞭みたいに使ったりで使い方は様々なのよ。)
マグノリアの考え通り、捕縛鎖の応用範囲は広い。
鎖の強度も魔力消費次第の為、ガッチガチに固めた鎖で殴ったり蹴ったりすれば相当な怪我を負う。
長さも、魔力の消費を多くすればいいので、高い枝等に巻き付けて振り子運動で逃げたり等の逃走補助にも応用できる。
そして、緊急時には鎖を鞭の様にして使ったり、縄での絞殺等が出来たりするのだ。
(でも、今のこの子達にはそんなのは教えなくていい。将来的に血生臭い事をするかも知れないけど、今じゃ無い。まだ、無垢なままでいて欲しいと思う、私の偽物の我が儘に付き合ってね。)
こうしてマグノリアは子供達に嘘を1つ重ねるのだった。
切りが良いのでここで切ります。
授業なのでこれは許して。
使用魔道具
チョーク型魔道具・・・早い話が水性マジックペン。魔力を消費する事で文字を書きだせる。魔力供給を辞めると消える。その気があれば赤ちゃんでも使える。{今回のはメリッサ作(補助と言うかアイディアにルイン)で特許提出済み}(メリッサが試作で作ったのを貰った)