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5章開始
ロイズ王国の各領には公営孤児院が存在している。
基本運営はその領の領主と正教会であるが、ロイエンタールでは違う。
王都の領主は国王の為、国費で出す訳にはいかず、領地無し貴族の税金を一部流用して賄っている。
だが領地無し貴族が多い為、王都には4か所の公営孤児院が存在していた。
その内の1つである『ナトライア孤児院』は王都の東区に構えており、王都の孤児院の規模としては2番目の広さを誇っていた。
入った孤児はそこで同じような孤児達と寝食を共にし、共同作業をして多くは将来、正教会所属になるか探索者になるかで、偶に成績が優秀だと学院に行かされるようになる。
院内の孤児の数は王都2番の規模に違わず多く、そして孤児の世話をする職員の数も数多く所属している。
そんな孤児院の広大な中庭に、トゥニカを着た妙齢の女性が入って来た。
「マグノリア?シスター・マグノリア?どこにいらっしゃいますか?」
「マーガレット司祭?こちらです。」
そう言って中庭に誂えられた小さな畑から出てきたのは、同じようなトゥニカを着た女性だった。
「また畑の世話ですか?誰に押し付けられました?」
「ええっと・・・。」
「貴方が言いたくないのはよく解っています。貴方は優しいですからね。ですが、それを利用して自分の行いを他人に押し付ける様では成長いたしません。さあ、誰ですか?」
「アンナです・・・。」
「解りました。貴方はしばらく此処で待っていなさい。その間、畑仕事は禁止です。」
そしてマーガレットと呼ばれた女性は、院の中に入って行った。
(ごめんね、アンナ。)
心の中で謝るマグノリアと呼ばれたシスターは、静かに祈りを捧げ始めた。
数分後、マーガレットと共に、マグノリアと同じ服を着た女性が、襟を引っ張られながら引きずられて来た。
「マーガレット司祭!息できな・・・ぐえ。」
「お黙りなさい。貴方が今日の畑の当番なのに、マグノリアに押し付けたのは駄目です。それの罰だと思いなさい。」
「マグノリア・・・助けて・・・。」
「マーガレット司祭、そこまでにしないと畑仕事に支障が出るのでは?」
「そうですね。」
マーガレットは襟を話すとアンナは急いで息を整えた。
「アンナ。先程も言いましたが、今日の畑仕事は本来は貴方の仕事です。いい大人が規範を示さなければ、子供は成長しません。ですので、ここからは貴方1人でやりなさい。」
「解りました~。」
「マグノリア。どこまでやりました?」
「雑草抜きは終わりました、後は水遣りですね。」
「・・・簡単すぎますね。アンナ、追加で農器具の清掃もお願いします。それが終わりましたら通常業務です。」
「うぇ~い。」
「返事はしっかりと。」
「解りました~。」
「マグノリア、貴方は本来の業務に「それはもう終わりました。」い。・・・はい?」
「ですから、もう終わりました。」
「・・・子供達の世話をお願いします。」
「解りました。行ってきます。」
そう言ったマグノリアは、颯爽と院の中に入って行った。
「何であの子はそう言うのを、早く言わないのかしら・・・。」
呆れたように顔を伏せながらマーガレットは呟くと、アンナが水桶を持ちながら言った。
「まあ、良いんじゃないですか。仕事は早い、子供には人気、同僚にも人気、唯一内気なだけが欠点なのですから。」
「そうですね。子供好きで子供の世話をする為、騎士隊の試験を蹴るような子ですから。」
「あれで魔法の腕もピカ一ですからね~。」
「院の子供も、魔法を習うならマグノリアに教わりたいでしょうね。懇切丁寧に教えてくれるのは、中々いませんから。」
「ただ偶に夜、何も告げずに何処かに行くのだけはマイナスかな~?」
「夜にですか?」
「マーガレット司祭は知らないんですか?結構、親しそうなのに?」
「親しいと言っても、プライベートの事を根掘り葉掘り聞く気は無いですよ。」
「そうですね。」
「それよりも、言った仕事をお願いしますね。私も仕事がありますので。」
「は~い。」
マーガレットが院の中に入ると、アンナは近くの水道から水を汲み始めた。
切りが良いのでここで切ります。
今回も途中で不定期になります。(海賊になったりモンスターをハントしたりで)
ナトライア孤児院
東区にある孤児院。
王都での規模は2番目の大きさを誇る。
中庭には小型の畑があり、そこで野菜の自家栽培をしている。