4-21
ナインを殺して数日を過ごしたジタンは、徐にギルファ医院に来ていた。
「先生、居るか?」
「何かありましたか?」
其処にはいつも通りのルインが居た。
ただ、エントランスには患者の姿形は無かった。
その状況はジタンにとっては丁度良かった。
「ちょっと相談に乗って欲しいんだが・・・」
「奥にどうぞ~。」
受付台に診察中の札を出したルインに案内されて向かったのは、診察室だった。
自然と前と同じように座ったジタンは、どうしても聞きたかった話題を切り出した。
「なんで俺を裏の稼業に誘った?」
「適性が在ったからだな。」
「何処で知った?」
「あんたがライルの事を詳しく聞きに来た時だな。」
「あの時でですか?」
あの時は只の捜査なのに、何処に裏事業に誘う要因があったのかが分からなかった。
「あんたが裏街道の人間を当たるって言った時に、あんた獣みたいに笑ってたんだよ。その時はイカレてるなと思ったんだが、よくよく考えたらあの笑い方は違うと思ってな。」
そう言われたジタンは、自分が堪え無しなのだと自覚した。
「ああいうのに聞きに行くと、大体は戦闘になり易いから、高揚を抑えきれなかったんでしょうね。」
「でも、話を聞きに行くだけなら戦闘にはなり辛い。だから可笑しかったのさ。で、パインに相談して、監視してもらってたんだよ。」
「完敗です。お恥ずかしい限りで。」
「俺からも良いか?」
「どうぞ。」
「あの事件ってどうなったんだ?新聞にも掲載が無くてな。情報の出何処が有るなら知っておきたかったんだ。」
「まあ、騎士隊の汚職事件ですからね。表には出せないのが一杯でしたよ。」
そうしてジタンは事件後の内容を話し始めた。
「第8隊は表向きは解散ですが、お取り潰しですね。汚職に加担してなかった隊員は別の隊に移籍、関わっていたのは自主辞職と言う名の元の逮捕及び抗送です。」
『問題を起こした騎士団を放置しておくなど言語道断』と言う王の一言で第8隊は解体された。
元第8隊の隊員の内、汚職に関わった物は退職年金を各被害者の補填に回され、重罪人として国家鉱床の鉱山送りとなった。
年老いた状態で街に帰って来るか、死体で帰って来るかは刑務態度次第だろう。
「結構重たくなったな。もしかして問題の在った部隊なのか?」
「内情を言いますと、腐った奴らの集まりでしたから。」
「成る程。あんたの処遇は?」
「ほぼ御咎め無しです。まあ、主犯を誰にするかの判断をやらされたのは嫌でしたが・・・。」
ジタン自体は主犯逮捕こそできなかったが、追い詰めた事を考慮した為、御咎め無しとなった。
ただし、主犯がいない状態での略式裁判が出来ない為、誰を主犯に仕立てるかの判断だけをやらされたのだった。
「良かった事は怪我人も回復したし、将来優秀な人材になりそうなのも見つけれた事位ですね。」
自身の部下とハビンは無事回復し、ハビンは今回を機に将来の為の特訓をするそうだ。
「お疲れ様、隊長殿。」
「皮肉な言い方だな~。・・・裏の方での進展は?」
「特には無いよ。あの世界は入れ替わりが激しいから、誰が入ったとかはあまり気にされない。」
「そうですか。」
「調べたいなら追々調べればいいさ。先輩としては『過去の詮索をしない方が身の為』とだけ言っておこう。」
「興味は無いですよ。俺は全力さえ出せればいいので。」
そう言ったジタンの顔は笑っていた。
「戦闘狂め。詳しい内情は次の『オークション』の時に言おう。」
「『オークション』ですか?」
「まあな。・・・ああ、それに関連した事が1個だけあったな。」
「何です?」
「パインが出来るだけ早く娼館に来て欲しいそうだ。この前の依頼料を渡さないといけないからな。」
「報酬なんて・・・。」
「要らないは駄目だ。俺達は最低のろくでなしだが、その最後の線引きとして、報酬だけは貰わないといけない。報酬も無くやるなら、万能感のせいであの時のナインとほぼ同じだ。」
「・・・まあ、少し血生臭い小遣い稼ぎと思えばいいか。」
「そうしろ。俺も他の奴も、報酬は自分の趣味に使ってるのが大半だ。」
「ゆっくり考えます。」
その時、机の呼び鈴の魔道具が鳴った。
「お客だな。ここまでにしておこう。」
「判りました。・・・ルイン先生は入った事に後悔はしてますか?」
「無いな。復讐は何も生み出さないなんて言うが、それは復讐心を胸に抱いた事が無い奴の言葉だ。1度でも持ったらその言葉は意味が無くなる。誰かがやらなきゃいけないなら、ろくでなしの俺達が丁度良い。」
そう言ったルインの顔は表情が抜け落ちており、それを見たジタンは背中に冷たい物が流れた。
「怖いですね。そんな目で見られたら、犯人はたまらないでしょうね。」
「だろうな。・・・玄関まで送ろう。」
宣言通り玄関まで送られたジタンは医院を後にし、その足を街中に向けた。
(さて、これからどうするか?訓練は無いし、仕事も後回しに出来る。非番じゃ無いから娼館に行けないし、サボりもできない。)
「警邏隊の仕事をするか。」
晴天の空の元、堂々と仕事に勤しむ姿は、理想の警邏隊員だった。
今章終了です。
途中、私事のせいで更新できずに申し訳ございません。
(なお、しばらくしたら海賊になったり魔獣を狩ってきます)(オイ)
何時も通り人物紹介と設定を書いたら次章に移ります。
今回の重罪人について。
今回は鉱山送りでしたが、それは主犯が死んでいる為です。
ナインは死刑が確定してました。