4-17
ジタンはナインと対峙しながら、周りの状況把握に努めていた。
(最悪だな。左右の道幅はそれなりに広いが狭く、高い壁がある。しかも、後ろも前も続いてるから、突き技主体で引きながら、剣の間合いで戦えやがる。)
教えてくれた院長は『相手が武器を持っていたら、その者は自分より格上として扱え』と口酸っぱく言ってきた。
その言葉の意味を、何度か武器持ちの犯人を逮捕して気付いた。
(向こうとしてはこっちの間合いより、剣の分だけリーチがあるのが有利だ。)
簡単に言えば、片手で振れる棒を持ち、その間合いでだけ戦えばいいのだ。
対してこちらはその棒を搔い潜って接近し、上手く体を押さえつけなければならない。
(普通に言って不利なんだよな。・・・まあ、それを覆すのが面白いんだがな!)
そうして出た行動は、滑る様にゆっくりと前進して、実際の間合いを確かめる事だった。
(片手剣の間合いとは言え、フランベルジュの特性上、もっと近い距離での戦闘になるだろうな。)
形状として波打つ様になっているフランベルジュは、先端にゆく程強度不安が起きやすい。
形状を有効に活用するのなら、思っているほど近距離になり易く、その距離を見いだせれば対処法も自ずと見えてくるからである。
そう考えながらナインの間合いから3歩ほど前に滑り込んだ時に、ナインが前に動いた。
(その距離は躱せるぞ?何考えてんだ?)
教本通りの胴体突きを放ってきたので横に躱しながら、後ろ足で飛ぶように前進した。
「なぁ!?」
その行動に驚愕したナインは、慌てた様子でバックステップを踏んで距離を放した。
それを見たジタンは脅威度を1段下げた。
(騎士隊に入ってから実戦経験を積んでこなかったな。こりゃあ、案外アッサリ終わるぞ。)
「どうした?【身体強化】はしないのか?」
「・・・【身体強化】、実戦形式過ぎんだろ!?」
「馬~鹿、実戦だろうが!」
その言葉と同時に鋭く踏み込み、徒手の間合いにした。
踏み込みに反応できなかったナインは苦し紛れの膝蹴りを繰り出したが、それを踏み台にして逆に膝蹴りを食らわせ、ナインを吹き飛ばした。
「何だよ、最初っから8隊なのか?実戦経験がまるでなって無いな!」
「・・・クソがぁ!」
その言葉はナインの自尊心を深くえぐった。
それゆえだろう、戦法も何も考え無しに出鱈目に剣を振り回し始めた。
そのせいでフランベルジュと言う脆い剣で壁や地面を傷つけていた。
「おいおい、普通の剣じゃ無いんだぞ。そんなに振り回し・・・あん?」
だが、その刀身が折れる気配が無く、まったく負荷がかかって無い事がおかしかった。
(厄介だな。恐らく刀身に硬化魔法が付与されてるんだろうな。最悪、物証を折っても捕えようって魂胆は難しくなったな。)
そして剣に硬化魔法を掛けるという行為が、副次効果を生んでいた。
(上手く受け止めても、硬化のせいで受け止めた部分を痛めるな。・・・まあ、剣自体を受け止めたくは無いし、鎧が防御力が低い皮装備だから嫌だがな。)
複雑な剣故の脆さを突こうと思っていたが、受け止めたり破壊が出来ない。それ故に、操っている人物の狙い撃ちしかできなくなった。
(捕縛じゃなくて、気絶でいいか。その方がまだ被害が出にくいしな。)
そう思ってナインに対して正対していた体制を半身にした。
その微妙な変化をナインは気にし始めた。
「何だ?お得意の打撃戦をやる気か?」
「まあな。」
「そうか。まあ、内側に入らせられなきゃいいがな!」
そしてまた同じ様に振り回し始めたナインは、徐々に後ずさりを始めた。
それを撤退行動とジタンは位置付けた。
(馬鹿なのか此奴?身体強化を同じようにしてるのに逃げ切れる訳無いだろ?何考えてやがる?・・・まさか!?)
最悪な事をよぎったジタンは、何とか接近しようとしたが、振り回される剣が邪魔で接近できなかった。
そして、徐々に後ずさりしていくナインは、広い通りに出ていた。
そして最悪な事に、そこにはまだ人が居た。
「・・・動くんじゃねえぞ、此奴が死ぬからな!」
その言葉と共に近くに居た人物を人質に取った。
(あのゴミ!やりやがった!)
言葉の内容から人質との交換条件で逃げようとしているのだろう事は予想できた。
だが、事態ははジタンが予想していた事よりも、最悪な事が起きた。
「そらよ!憲兵なら、受け止めろよ!」
ナインは人質をジタンの方に投げ、その後ろから突撃して来たのだった。
(奇襲を狙うにしてはお粗末すぎて、笑えてくるな。)
人質を助けた時に一緒にバッサリいく気なのがありありだった。
(捕まえた瞬間に、一気に後ろに飛べば回避できる。)
だがその予想をナインは裏切った。
投げ出された人質を捕まえようとした瞬間に、人質の腹からフランベルジュが飛び出してきたのだ。
(このクソ野郎・・・!)
何とかバックステップを踏んで回避したジタンだが、人質はそのまま横なぎに払われ、大量の血を吐き出していた。
「チッ、使えない奴だな!」
そして倒せれなかった事を人質のせいにし始めたナインを見て、ジタンは冷静になった。
「・・・騎士の誇り位あると思ってたんだが?」
「騎士の誇り?そんな物はねえよ!俺は伯爵家の当主になる筈だったんだ!それを高貴さが足りないだのなんだのと!鬱陶しいんだよ!」
「ファインド伯爵家は領地が在るよな?其処をどうする気だった?」
「俺の領地だろ!?何したって良いじゃないか!?領民の為に動け?そんなのはまず自分の生活を満たしてからだろ!」
その言葉を聞いたジタンは、ナイン相手には一切見せていなかった本気の踏み込みをして接近し、その勢いのまま全力で腹を真っすぐに蹴った。
その衝撃は相当で、ナインをかなりの距離まで吹き飛ばし、着地しても地面を転がり続けていた。
数メートル転がったナインは地面に吐血しながらも立とうとしたが、内臓の痙攣が終わらなくて、中々立てなかった。
(なん、今の何だ?何であんな踏み込み・・・)
「・・・お前に騎士としても伯爵としても資格が無い事は判った。お前は凶悪犯だよ、それも生死問わずのな。」
ナインに追いついたジタンの顔は無表情だった。
そしてその顔はナインにとって、状況を理解するのに十分だった。
「お前・・・俺を殺す気か?」
「当たり前だろ?もうお前は人じゃ無い。まあ、生きてたら捕まえてやるよ。」
切りが良いのでここで切ります。
今まで本気で踏み込まなかったの?問題
ジタンは院長の教えを守っているせいで、学園での実技では心の何処かで手加減してます。
そのせいで実技成績自体は上の下位です。